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ドンキ“衝撃の1万円台PC”、影の立役者は中国製チップだった

2017/12/13(水) 5:30配信

EE Times Japan

●2万円を切る衝撃価格のPC

 2017年12月1日、ドン・キホーテから1万9800円(本体価格)のノートPC「MUGA ストイックPC」が発売された。今や1万円台のタブレットやネットブックは存在するが、いわゆるPCとして1万円台の製品は稀有(けう)な存在だ。仕様はメインメモリが2Gバイト、ストレージメモリが32Gバイトと若干少ないものの、セカンドPCとしての用途には適している。弊社では早速MUGAストイック PCを入手して分解、解析を行った。

図3:MUGA ストイックPCのメイン基板 出典:テカナリエレポート(クリックで拡大)

 販売当日は開店前からドン・キホーテに出向いた。若干小雨の中でも既に複数の先客が開店前から並んでおり、開店直後に電気製品売り場に駆け込んだ。レジカウンターには瞬時に数名の列ができ、弊社は 2番目の入手となってしまうほどの状況であった。

 現在、ドン・キホーテやノジマ電気などがプライベートブランドで、4K対応で5万円のTVなど“激安”の家電を販売している。MUGA ストイックPCも、こうした激安家電の1製品になる。販売は店頭で行われ、販売当日にはほぼ完売になるほどの人気ぶりだ。弊社はこうしたプライベートブランドの製品もできる限り入手して分解・解析を行っている。

 今回入手したMUGAストイック PCは、14.1型IPSディスプレイを搭載したWindows10のノートPCである。上記のようにメモリサイズが若干小さいと感じられるが、一般用途ではさほど難はないスペックの製品である。

 箱を開けると電源アダプターと本体のみが梱包されている。本体はロゴマークなどもないシンプルなシェル形状だ。

 図1はサイドの端子、梱包箱の様子と、背面のカバーを取り外した状態とディスプレイのフレームを分離した様子である。全てプラスドライバーだけで分解できる。スマートフォンやタブレットのような噛み合わせ部位や特殊ドライバーを使ったものではないので、簡易に分解できてしまうのだ。

 内部には10000mAhという大容量の電池が2CELLで搭載されている。また右上部にメイン処理基板、左側にフレキシブル配線を通じてインタフェース基板が備わっている(インタフェース基板側にはチップは存在しない)。電池の下にはタッチパッドセンサーおよびセンサー制御チップが存在する。ディスプレイ側には30万画素のインカメラおよびカメラ制御用チップの基板、ディスプレイ制御(タイミングコントローラー)基板が搭載されている。半導体チップが搭載される基板としては4つとなる。カメラ、タッチパッド、ディスプレイとメインの処理基板だ。

●安価にするための“工夫”は特にない?

 図2にMUGA ストイックPCの内部構造を掲載する。内部はスピーカーやディスプレイを合わせると合計8つの部品で構成されている。その半分に半導体チップが載っている。それらをつなぐ配線までカウントすると部品数は14になる。

 現在多くのノート型PCもほぼ同数の部品で構成されているので、MUGAストイック PCが、構成部分で何らかの「新たな工夫」を行って安価にしているわけではないことが確認できた。

 メイン基板のサイズは95mm x 70mmと、一般的なPCに比べてかなり小さく、どちらかといえばタブレットなどに使われるサイズの基板である。そこから各種端子、周辺(ディスプレイ、キーボードなどに)に配線されている。いわゆる集中制御がなされているわけだ。

 図3は、メイン基板の様子である。メイン基板にはインテルのAtomプロセッサ「Z8350」が搭載されている。Z8350は、14nmプロセスで製造され、4コアCPU+GPU+ディスプレイコントローラーなどを搭載する、数多くの製品で採用されている実績のあるチップだ。ベアボーンPCやタブレット、スティックPCなどでも使われている。基板は片面実装(裏側にはチップなし)で、数多くのチップが搭載されている。

 そして、DDR3メモリ(2Gバイト)、ストレージメモリ(32Gバイト)がAtomプロセッサを取り囲むように搭載されている。さらに、Atomプロセッサの電源を制御する電源ICや各種インタフェースを担うチップがAtomを中心に手足を伸ばす形で配置されている。多くは中国、台湾のチップだ。残念ながら、MUGAストイック PCには、日本製のチップが全く採用されていなかった。昨今のタブレットやテレビなどでも中心こそ欧米日チップが使われるものの、手足の部分、いわゆる周辺機能には中国、台湾チップが続々と採用されている。MUGA ストイックPCはそれを体現した構成になっている。

 一つ、断っておきたい。中国製が多用されていると聞くと、ネガティブに捉えてしまう方も依然多くいるが、ノートPCを1万円台で提供できることは素晴らしいことだし、この製品は、いわゆるパーソナルな日常ユースには十分なものである。中国製チップは、今や多くの日本製品や欧米製品にも組み込まれているのである!

 本製品には、PCとして省略された部品は決してない。必要最低限の機能は全て備わっている。何かを省略して1万9800円ならば、問題はあるだろう。SDカードを使えばストレージは拡張できる。CPUの非力さ、メインメモリの容量の少なさはあるが、セカンドPCと割り切れば、そこそこ使い勝手のよい1台だと思っていただいていいだろう。

●中国製チップが過半数を占める

 図4は、MUGA ストイックPCの全チップの内訳である。全部で17個のチップが使われている。内訳は中国製チップが9個、台湾製チップが5個、米国製が3個である。中国製が過半数だ。台湾まで合わせると8割が中台チップということになる。また、9個の中国チップのうち、6つはアナログチップが占めている。残り3つのうち、2つもミックスドシグナルのチップだ。

 中国は、デジタル分野ではARMコアを用いるなどして、率先して新チップを作り上げ、スマートフォンやタブレットなどの新分野で広く採用を進めてきた。しかし同様にアナログやアナログとデジタルを混在させたミックスドシグナルの分野でも続々と製品を開発し、さまざまな分野で採用を増やしている。中国=デジタルという短絡的な捉え方は、決して正しくないだろう。中国のアナログチップは進化し続けており、広く採用の裾野が広がり始めているのだ。

 MUGA ストイックPCでは中国製チップを多用し、1万9800円という破壊的な価格を実現した。多くは中国のアナログ&ミックスドチップで構成されている。しかし、これが本製品のマイナスポイントではない! と結んでおきたい。

 12月1日開店前からドン・キホーテに並んだ人たちは本製品を目当てに、小雨の中、早朝からワクワクしながら過ごしただろう。3万円台ともなればさらに優れたPCはいくらでも手に入る。しかしMUGA ストイックPCで満足な人もいる。

 ダイバーシティーが叫ばれる昨今、こうした製品を否定するのではなく、この製品のようなものをちゃんと受け入れ、直視することもあらためて重要だと考える。

執筆:株式会社テカナリエ

 “Technology” “analyze” “everything“を組み合わせた造語を会社名とする。あらゆるものを分解してシステム構造やトレンドなどを解説するテカナリエレポートを毎週2レポート発行する。会社メンバーは長年に渡る半導体の開発・設計を経験に持ち、マーケット活動なども豊富。チップの解説から設計コンサルタントまでを行う。

 百聞は一見にしかずをモットーに年間300製品を分解、データに基づいた市場理解を推し進めている。

最終更新:2017/12/13(水) 5:30
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