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東京五輪を持続可能な大会にするために/花岡和佳男氏(シーフードレガシー代表)

2017/12/16(土) 23:30配信

ビデオニュース・ドットコム

(C) ビデオニュース・ドットコム

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 オリンピック・パラリンピックが単なるスポーツの祭典だと思っていたら大間違いだ。

 確かに、世界最高のアスリートたちが最高のパフォーマンスを競い合うオリンピックやパラリンピック(以下東京2020)は、スポーツイベントとしても世界中の人々を魅了するに十分なものがある。しかし、オリンピック憲章はその第1章で、「スポーツ」、「文化」と並び「環境」を「オリンピック・ムーブメント」の3つの柱の一つに据えている。オリンピック・パラリンピックは決して、単なるスポーツイベントではない。

 東京2020が世界から成功した大会として認められるためには、ロンドン大会以来守られてきた環境基準、とりわけ持続可能な資源調達の基準を守り、より高い水準に高めていくことが不可欠となる。

 ところが日本では、毎日のように五輪ネタがメディアを賑わせている割には、3本柱の一つである「環境」がとんと話題にのぼらない。五輪の招致委員会は五輪を招致するにあたり、わざわざ「環境を優先した東京大会」を掲げていた。しかし、現時点での東京2020の環境基準は、過去の大会と比べて大きく見劣りしているのが実情なのだ。

 五輪の持続可能性は4つの分野における資源の調達基準という形で評価を受ける。「水産物」と「農産物」、「畜産物」、「木材」の4分野だ。それに加えて紙とパーム油の2分野でも現在調達基準策定のための検討が進んでいるという。具体的には東京2020の組織委員会が各分野で調達の基準を定めた「調達コード」というものを策定し、そのルールに則って大会で使われる資源の調達が行なわれる。その基準を満たしていない事業者や物資は、東京2020で使うことができないことになる。

 調達コードがある4分野のうち「木材」以外は基本的に食材ということになるが、選手だけで約200か国、約1万5,000人が集まる世界最大のイベントであり、オリンピック・パラリンピック大会期間中に約1,500万食(選手村だけで約200万食)以上の食料を調達しなければならないことを考えると、そこで作られた基準が今後のオリンピックのみならず、その後の世界の食料調達基準に与える影響は計り知れない。逆の見方をすれば、東京2020でこれまで守られてきた基準を壊してしまえば、東京大会は資源の持続可能性を破壊する悪しき伝統の起点という歴史上、不名誉な名を残すことにもなりかねない。東京2020の国際的な責任はいたって重大なのだ。

 4分野の一つ「水産物」で積極的な働きかけを行っているフードレガシー代表の花岡和佳男氏は、東京2020の大会組織委員会が定めた「持続可能性に配慮した水産物の調達基準」は、FAO(国連食糧農業機関)のガイドラインに準拠しない日本独自の認証方式(エコラベル)が認められたり、トレーサビリティの追求が甘かったりするなど、ロンドンやリオ大会が培ってきた国際基準から大きく後退していると残念がる。

 しかし、花岡氏は同時に、もし組織委がロンドン・リオと同水準の国際的に通用する調達基準を定めてしまえば、少なくとも水産物に関しては東京2020で調達される食材から国産の食材が一切排除されてしまいかねないと指摘する。要するに、日頃の日本国内の資源管理が、国際的に通用するものになっていないため、五輪だからといって急に国際基準を導入しようものなら、到底遵守できないようなものになってしまうというのだ。そのため組織委が定めた調達基準は、日本の実情に合わせて基準を下げているのが実情だという。

 東京で五輪が開催されるとなると、五輪関係者ならずとも、お寿司や新鮮な魚を楽しみにしてくる人も多いに違いない。ところが、もし今の日本でまともな国際調達基準など定めようものなら、五輪で提供される水産物のほとんどが輸入食材になってしまうというのでは、確かに洒落にならない。

 花岡氏は日本政府が日頃から水産資源の資源管理を蔑ろにしてきたことのツケが、いざ五輪開催となった時に大きく回ってきた形だと指摘するが、同時に無理なものは無理なので、高望みをするよりも、五輪を機に少しでも日本の資源管理のあり方を国際的に通用する基準に近づけていくことが重要だと語る。

 実際、日本政府は資源管理を各地域の漁協に任せてきたこともあり、日本の水産資源管理は持続性を確保できていない場合が多い。背景には地域漁協の自治という日本独特の伝統や、補助金とリンクした政治的にデリケートな問題があるのも事実だろう。しかし、そうこう言っているうちに、日本の漁獲量は最盛期の3分の1以下にまで減り、漁業大国のはずだった日本は水産資源の多くを、大きく輸入に依存しなければならなくなっている。水産資源の持続性を確保することは、東京2020を超えて、日本にとっても喫緊の課題なのだ。

 日本は水産物以外の分野にも、持続性や環境基準などがクリアできていない分野が多い。また、以前にこの番組でもお伝えしているが、バリアフリー化や分煙化も、まだまだ日本が遅れている分野の一つだ。もちろんその一つ一つは単なる怠慢の産物とは限らず、それぞれに諸事情があってのことだろう。しかし、国内的にはそれで通用しても、国際的には「日本固有の事情」はなかなか通用しない。また、輸入に頼っていたり、今後輸出を期待するのであれば、国際標準のクリアは避けて通れない。

 東京2020は日頃、国内の様々な利害関係によってなかなか進展しなかった各分野での持続性や環境基準などを一気に前に進める絶好の機会となるはずだ。残念ながら、こと水産物については、日本が2020年までに国際基準を一気に満たすのは難しそうだが、五輪を機にその方向に向けて大きな一歩を踏み出すことができれば、東京2020は「成功」だったと世界に胸を張って言えるのではないか。

 オリンピック・パラリンピックという世界最大のイベントを、様々な障害にぶつかりなかなか自力だけでは進まない改革を前進させる奇禍とするために、今われわれがやらなければならないこと、考えなければならないことは何なのか。花岡氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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花岡 和佳男(はなおか わかお)
株式会社シーフードレガシー代表
1977年山梨県生まれ。幼少時よりシンガポールで育つ。2001年フロリダ工科大学海洋環境学・海洋生物学部卒業。07年よりグリーンピースジャパン海洋生態系問題担当、キャンペーンマネージャーなどを経て、15年株式会社シーフードレガシーを設立し代表取締役に就任。
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(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)