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漫画海賊サイトを追い詰めた松文館の執念 損害賠償金は作家へ分配 「やる価値は十分にあった」

2017/12/23(土) 11:30配信

ねとらぼ

 2017年5月に閉鎖した投稿サイト「フリーブックス」や9人の逮捕者を出したリーチサイト「はるか夢の址(あと)」など、著作物の無断利用が指摘されているネットの海賊サイト問題。11月下旬にTwitterで、ある出版社が違法アップロードサイトと示談を成立させ、勝ち得た損害賠償を作者に分配したという漫画家のツイートが注目を集めた。

【作家に届いた「損害賠償を分配」の通知】

 示談を成立させたのは、成人向け漫画を扱う中小出版社・松文館。2016年10月上旬にあるサイトに松文館の出版物が大量に無断アップロードされているのを発見し、およそ1年で損害賠償の獲得にまでこぎつけたのだという。また作者のツイートによれば、「正規のダウンロード印税より(海賊サイトから得た)その分配金の方が高額だった」とも。

 海賊サイトといえば運営元の特定や違法行為の証明が難しく、一般的にできることと言えば連絡フォームに作品の削除を要請する程度。賠償金を得て、それを作者に分配できたケースは異例で、あったとしてもこのように表に出てくることはまずない。

 一体どのようにして松文館側は示談を成立させ、どのような判断のもと作者に恩恵が行き渡る措置をとったのか。松文館の著作権管理を担うグループ・ゼロの取締役社長・宇野英明氏とグループ・ゼロの代理人として本件を担当した山口貴士弁護士(リンク総合法律事務所)の2人に話をうかがった。

 なお本件の取材では、示談成立にあたり当事者間での守秘義務が生じたため、サイト名や数字など運営元が特定できるような情報は明かせないとのことだった。そちらを踏まえて読んでいただきたい。

●「やる価値は十分にあった」 発覚から損害賠償金分配までの流れ

 無断投稿の発見から損害賠償の分配までの流れは、次の通りだ。

 2016年10月上旬、著作権を管理している“大勢”の作家の作品が“多数”、あるサイトに無断アップロードされている事態をグループ・ゼロが把握した。すぐ山口弁護士に相談して被害状況を調査したところ、他にも複数のサイトに無断投稿されており、これらに国内の4団体が関与していることを特定できた。

 シラを切ることができないよう、サイトの画面を保存したり作品をリストアップしたりなどと証拠固めを慎重に行い、翌月には弁護士名の書面で運営サイドに通知。すぐに応じる所もあれば長らく無視し続ける所もあり、反応はそれぞれだったが、粘り強く交渉を進めた結果、2017年11月に全ての団体と示談が成立した。なお無断公開されていた作品は、通知から短期間で公開停止にできたという。

 得られた損害賠償金の額は守秘義務により言えないが、「やる価値は十分にあった」とのこと。弁護士費用などの経費を引いて残った額を、被害にあった作家へ“印税に準ずるもの”とし、無断投稿されていた著作物の作品点数に応じてそれぞれ分配した。作家への報告は11月、振込は11月24日。事態の発覚から約1年というスピード感だった。

 作家への分配額はそれぞれだが、本件をTwitterで明らかにした漫画家・海野螢さんは先述の通り「正規のダウンロード印税よりその分配金の方が高額だった」と報告していた(※)。

※:海野螢さんの松文館作品は『少女の異常な愛情』『アリスの二つの顔』など。何点が無断利用されていたかは明かされなかった。

●示談がうまくいったポイント

 グループ・ゼロではこれまでにも違法アップロードサイトへの対応に取り組んできたが、これまでは無断配信を停止をさせることが主であり、賠償金を得られたのはこれが初めて。示談が成立したポイントはどこにあるのか。

 1つは「数の力」だと山口弁護士は話す。

 もし当該サイトにアップされている作品のうち、松文館が管理している作品の数が少なければ、損害賠償を請求したところで金額が少なくなる。相手方に危機感を持たせることはできないばかりか、示談が成立したとしてもコストがかかりすぎて割に合わない。ところが、大量に違法アップされている場合には、請求可能な損害賠償額も大きくなり、刑事事件化する可能性も高くなるので、十分にコストを割く価値が出てくる。

 もう1つは、運営元を特定できた点だ。

 違法アップロードサイトの運営は往々にして匿名。仮に連絡フォームから請求してもスルーされるのがオチだ。しかし、身元が特定できれば話は異なる。

 「特定が第一の関門でした。逆に、特定さえできれば、損害賠償請求も刑事告訴もできますし、相手方も自らの違法行為を正当化することは不可能なので、相手もこちらを無視することができないだろうと考えました」(山口弁護士)

 加えて、特定した先が“日本国内”だったことも大きな要因だという。「相手が海外だったら削除はともかく損害賠償を受けるのは難しかったかもしれません」(山口弁護士)

 ちなみに気になる特定方法だが、それについては教えてもらえなかった。手の内が漏れると、サイト側に対策されてしまうからだ。

●悪質サイトは強大 違法行為の証明の難しさ

 「今回のアクションが成功したのは、相手が狡猾(こうかつ)ではなかったから」と宇野氏は振り返る。

 「違法と目されるようなサイトには、極めて悪質なものもあれば、認識の甘いサイトもあります。このたびは後者だったのでうまくいきましたが、より大規模なサイトは組織的で、何らかの形で抜け道を設けていたりします」(宇野氏)

 例えば悪質なサイトは、運営元が自ら違法アップロードを行っているのか、それともユーザーが行っているのか、事実を確認できない作りになっている。運営元が膨大な広告収入を得るために大量の著作物を無断投稿していたとしても、その事実を突き止めない限りは「こちらはプラットフォームを運営しているだけで無断投稿したのはユーザー」と責任逃れされてしまう。

 「悪質なサイトを相手に、個人、個社の小さな規模感で違法行為の事実を確認し、対応、対策を講じることは相当難易度が高い」と、宇野氏は顔をしかめる。

 もちろん、無料配信サイトが全てダメということはない。広告収益を権利元に分配することで、版元の許諾を得て配信しているサイトもあるからだ。

●損害賠償金の分配は通例なのか

 グループ・ゼロは今回、獲得した損害賠償金を作者に分配したが、これは「著作権侵害の損害賠償は作家に帰属すべき」と考えているからだ。出版社はあくまで作家からコンテンツの管理を任されているのであり、そこから派生して得られたお金は還元するのが筋だという見解だ。

 他の出版社・著作権管理会社も損害賠償金を得られた場合、同じように分配しているかどうかはわからないが、「一般論としては分配すべき」とのことだった。

●事態の改善に向けて

 さて、コンテンツの無断利用があふれている状況はどうしたら改善できるのか――。これについて宇野氏は「著作権侵害が認められるようなサイトへの広告出稿を控える」「大手通信事業者と連携しスマホから海賊サイトへのアクセスを制限する」などの選択肢を挙げる。

 ガラケー時代は大手通信事業者に影響力があり、例えば「このコンテンツは公序良俗に反するので削除してください」と警告を出すなど、制約もあり一定の秩序があった。しかし、スマホ時代はオープンで、ルールはあるにはあるものの全体の統制はとれていない。そうすると“適切”ではない広告出稿をする業者も現れる。

 一方で、先に挙げた対策を一社、あるいは中小のレベルで実践することは難しいという。やはり影響力のある大手や業界団体がどう動くかにかかっているからだ。

「今回、1つの事例はできましたが、海賊サイト全般に適用できるような解決策が生まれたわけではありません。もっと難しい相手、悪質性の高い当事者がいる。そこに対しては知恵をしぼって対処していくしかないと思います」(宇野氏)

最終更新:2017/12/23(土) 11:30
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