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「お客さんが店で書いているのが気になって…」 文学カフェバー発A4版の文学賞、「ことでん」ともコラボ

1/10(水) 7:00配信

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 A4用紙の片面に収まる作品ならば、小説でもエッセーでもポエムでも形式自由というユニークな文学賞が、香川県の高松にあります。主催は文学好きが集まる小さなカフェバーで、初めて文章を書く応募者を歓迎し、大賞を決めるのはお客さんの投票。そんなやり方が共感を呼んで、現在作品募集中の3回目は「ことでん」こと高松琴平電気鉄道とのコラボが実現しました。店のマスター岡田陽介さん(36)に賞創設の理由を聞くと「お客さんが店で何か書いているのが気になって。のぞいてみたかったんです」と、不思議な答えが返ってきました。(朝日新聞高松総局記者・田中志乃)

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ジャズ、コーヒー、大人な空間に古本1000冊

 その店の名前は「半空(なかぞら)」。ことでんの一番大きな駅「瓦町」を降りて、徒歩10分くらいのところにあります。中に入ると、ジャズや洋楽が流れ、坊主頭のマスターが黙々とコーヒーをいれています。カウンターや壁の棚には、1000冊ほどの古本が並んでいて、向田邦子のエッセーもあれば、岸田秀の「ものぐさ精神分析」や内田百閒、外国文学までと多岐にわたります。古本屋さんの店先のワゴンにザッと並べられた本の山みたいなイメージです。


 お客さんは無造作に手に取り、静かにお酒を飲んだり、マスターに話しかけたり。醸し出される大人の空気は、ちょっと腰が引ける洒落具合ですが、私も本の山に囲まれて育った古書屋の娘。人の手を渡りに渡って、愛情深くしおれた本に囲まれてお酒が飲めるこの場所、座っているだけでちょっと幸せを感じます。

 文学の話をすると、「ちょっとかっこつけてるなあ~あの人」なんて思われる心配もなく、思う存分文学的な自分を解放できるのです。

文学との出会いはブックオフ 「コスパめちゃよかった」

 高松市で生まれ育った岡田さんが文学に興味を持ったのは中学生の頃。当時、お小遣いはひと月1000円で、この範囲内で買える「楽しみ」を探していました。90年代前半といえば、「ドラゴンボール」や「スラムダンク」など少年漫画の最盛期。週刊少年ジャンプが最大部数記録を誇ったころです。ただ、漫画の新刊なら1000円で買えるのは2冊ほど。しかもすぐに読み終えてしまって、一カ月は持ちません。

  悩んだ末に立ち寄ったブックオフで、100円文庫本コーナーを前に思いついたのです。「小説ならすぐに読み終えることはないな。一冊100円で何時間かかるだろう」と。

 岡田少年は文学については何も知らなかったので、とりあえず「ア行」の端から、あいうえお順に買っていくことにしました。

 文庫本1冊読み終えるのに数週間かかります。ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」は完読まで2カ月を費やし、上中下巻そろえて300円です。「なんたるコスパの高さ! お小遣い、めっちゃ余るやん!」と感動したのです。

  ブックオフの棚には、小説以外の文庫も時折紛れこんでいて、フロイトやユングなど、道をそれて精神分析の分野にはまることもあったそうです。「この小説がいい」「この小説家はだめ」といった先入観なく読み進め、気がついたら棚をすべて読み切っていたのです。

 本が好きになり始めると、心に刺さった文章にはふせんを貼って何度も読み返したり、自分なりの解釈を考えてみたりと楽しみ方も変わっていったそうです。

 高校は「レアなところに行きたいな」と、伝統ある高松工芸高校に進み、人間国宝が輩出している漆芸を学びました。卒業後はいくつかの職につくものの、文学好きを仕事にしようと2001年1月に本を置いたカフェバーを開店しました。店を、お客さんにとって家でもなく、職場でもない第三の居場所と考え、「うわの空」「どっちつかず」という意味の「半空」という店名にしたそうです。

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最終更新:1/10(水) 7:00
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