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安室奈美恵の引退に「邪魔者が消えた」と思った 我々中年が「平成の歌姫」に共感できない理由

1/8(月) 10:00配信

SankeiBiz

 いやはや、実に気持ち良い歴史的大勝利だった。何の話かというと、紅白歌合戦のことである。

 NHKの「Chase the Chance」的な努力による安室奈美恵の電撃出演があり、特別枠とはいえ紅組が有利になるのではと懸念していたのだ。しかし、白組は総合力の強さを見せつけ3年ぶりの勝利をおさめた。これで対戦成績は白組37勝、紅組31勝となった。地デジデータ放送による視聴者投票が可能となっており、しかも出演者1組に対してどちらか1票を投じることができるシステムはどうなのかという声もあったが、勝ちは勝ちである。あっぱれ!

◆よく言えば安定感、悪く言うと無難だった

 X JAPANのYOSHIKIドラム解禁、Toshl への洗脳ネタいじり、欅坂46の構成員が3人倒れるなどのトラブルもあったものの、よく言えば実に安定感があるというか、悪く言うと無難な紅白歌合戦であった。桑田佳祐はいつになく上品だった。Perfumeを渋谷の超高層ビル「セルリアンタワー」の上で歌わせるのは、労働環境過酷でブラック企業みたいだったが……。

 なんと言っても株を上げたのは竹原ピストルだ。ナイスな歌いっぷりだ。彼はサントリーの缶コーヒーBOSSのCMに出演しているが、全国紙に掲載された同社の応援広告も素敵だった。「竹原ピストル。今夜はじめて彼を知る人がいる。いいなあ。きっと驚くよ。心を撃ち抜く、その歌に。」という粋なコピーだった。まさにその通りになったのではないか。

 総合司会のウッチャンも白組司会の二宮和也も安定感があった。有村架純はもっと司会を練習しろ、お前芸能人だろと言いたくなった。

 残念ながら、2部の視聴率は39.4%で歴代ワースト3位だったそうだ。とはいえ、大晦日の楽しみ方が多様化しているし、音楽自体、細分化している中、これだけの視聴率をとるのはあっぱれだ。実験的すぎて酷評された昨年と比べると私は安定感があって好きだった。もちろん、視聴率のためにも、多様性という意味でも、演歌を増やすべきではとも思った。もっとも、よく考えると演歌歌手も世代交代しており、今までの常連が出なくなっただけなのだが……。ナイスな紅白だった。

◆安室奈美恵には全く感動しなかった

 「太陽のSEASON」に終止符を打つことにした安室奈美恵の存在感が期待ほど大きくなかったことこそ、今年の紅白の安定感、もっと大胆に言うならば、日本の音楽シーンの充実度、層の厚さを物語っていたのではないか。さらに言うならば、直前に発表された安室奈美恵が視聴率の起爆剤にならなかったことこそが、「安室奈美恵とは何か?」を物語っている。

 皆が礼賛モードなので、逆張りでPV狙いのためにけなすわけではないが、彼女の出演は面白いくらいに感動しなかった。もっと泣きたかったというのが率直なところだ。メディアも「安室奈美恵の紅白出演に国民は涙」などと書きたかったのだろう。しかし、奇しくも彼女の代表曲であり19歳にして第38回日本レコード大賞を受賞した「Don’t wanna cry」状態だった。いや、単純に泣けないのである。もうその場から「Body Feels EXIT」だったのだ。

 ちゃんと見ないとけなせないので、リアルタイムで見ていたし、録画も見たのだが、まず、目が痛くなるほどのライトの当て方で、暑そうだった。いや、見ていて目が辛くなった。白いイメージを印象づけるためなのか、肌をキレイに見せるためなのか……。地元沖縄や海外から生中継ならまだ分かるのだが、同じ敷地内での別スタジオでの出演というこの特別待遇感が逆に痛かった。涙を見せたものの、淡々としたパフォーマンスに見えた。何より、NHKにいるのなら会場で挨拶しろよと思った次第だ。

 事前に流された煽り映像はなかなか興味深かった。安室奈美恵といえば不老長寿というか、ずっとルックスが変わらないと評判だったが、初期の映像が流され、さすがにそれなりに年齢を重ねていることを確認できた。早すぎる引退とは言うものの、デビューして25年だ。長きにわたって活動してきたのである。引退させてあげても良いのではないかという心境になってしまった。

 何より、選曲がダメだった。彼女がこの夜に歌った「Hero」はリオデジャネイロ五輪のテーマ曲なのだが、私は閉会式をYouTubeで見ただけなので、全く知らなかった。たしかに、NHKとも関係があるし、最近のヒット曲ではあるが、お茶の間が期待していたのは昔の曲なのではないか。「TRY ME ~私を信じて~」とばかりに口説いたNHKだったが、そもそも特別枠での出演、そして選曲自体どうだったのか。

◆中年にとって、安室奈美恵とは実は思い入れのない存在

 ふと気づいた。中年、なかでも40代半ばの人にとっては、安室奈美恵とは実は思い入れのない存在なのではないか。「小室ファミリーから沖縄出身のスゴイ10代が出てきたぞ」くらいの感覚である。実際、彼女は結婚・出産の後にライブを中心とした活動にシフトしていった(これは彼女に限らず、しかも日本だけではない世界的な傾向ではある)。中年が知っているのは、約20年前の結婚・出産の前にリリースされたヒット曲なのである。

 その20歳前後での結婚・出産にしても、「今どきの若い人、スゴイなあ」と圧倒された。尊敬するし、見守りたいと思うのだが、共感することはできなかった。彼女たちのフォロワーである「アムラー」も別にオシャレだと感じなかった。沖縄アクターズスクールにしても、「スクール」と聞くだけで、戸塚ヨットスクールや『スクール☆ウォーズ』のトラウマを思い出してしまった。

 彼女は常に独自の価値観を大切とし、自分の世界観を創ってきた。それが、彼女の「安室奈美恵性」であり、「安室奈美恵的」なものである。紅白出演は正直「らしくない」と思った。出演することは結果として彼女にとってマイナスだったのではないか。

◆我々中年が安室奈美恵に共感できない理由

 このように書き綴っていて、ふと気づいた。我々中年が安室奈美恵に共感できない理由を。自ら新しい世界を創っていった安室と、信じていた世界がありつつもそれが崩れていく一方で新しい世界を創り切ることができなかった我々中年。さらに言うならば、同世代からホリエモンや藤田晋のような今までのレールとは違う成功をおさめた者がいる一方で、そうはなれなかった自分のことを。

 思えば幼い頃、未来は素晴らしいと思っていた。消費文化に私たちは踊らされて過ごした。東京に出れば、いい大学、いい会社に入れば何かが変わるのではないか、幸せになれるのではないかと思っていた。

 でも、そうならなかったんだよ。クルマを買えば、いい服を着ればモテると思っていた。そんなのは幻想さ。尾崎豊よりも、hideよりも長く生きてしまった。自由を歌った彼らのようにはなれなかった。「お前ならできる」と期待されたけど、何も成し遂げることはできなかった。

 私たち中年は、何を信じて生きればいいんだ? いつも、「すみませんすみません」と謝り続け、将来に不安を抱く日々をいつまで送ればいいんだろう? 同じアムラーでも、当初はイヤイヤ戦っていた『機動戦士ガンダム』のアムロみたいなもんだ。いや、実際はアムロにもなれない、ジムに乗る無名の兵士レベルなのだ。リュウのようにコア・ファイターで突撃する勇気すらない。セイラさんに「軟弱者!」と罵倒されそうな人生を送っている。いや、その軟弱者にすらなれないんだ。自分の存在が何なのかさえ分からず震えているのだ。

◆安室の引退表明に「邪魔者が消えた」と思った

 自分の心の奥に秘めた闇を吐露するならば、ぶっちゃけ安室奈美恵が引退表明したとき、「邪魔者が消えた」「勝った」と思ったんだ。新しいことをやって注目されている人が去って、旧来のレールにも乗れず新しいレールも見つからなかった私は、何かこう救われた気がしたんだ。もう安室のことを意識しなくていいんだって。

 でも、だんだんそう思う自分が可愛そうで、かっこ悪くて、辛くなったんだ。安室奈美恵は、「Stop the music」を決断し、降りることができたんだ。私たちはレールのない、列車に乗り続けなくてはならないんだ。どうやったら、この「スペランカー」みたいな、無理ゲー的な人生から降りられるんだろうって真剣に考えるよ。毎日「たけしの挑戦状」を叩きつけられているような日々なんだ。

 はぁ、はぁ。水を飲ませてくれ。水を飲ませてくれ。笑え。笑えよ! 情けないだろ。かっこ悪いだろ。俺みたいに、なりたくないだろ!

赤裸々に心情を吐き出してしまったが、そういうわけで、同世代のようで決してそうではなく、尊敬できそうでできない中年と安室奈美恵という問題を議論していて、何だか辛くなってしまったのだった。

 人生、山あり、谷あり、モハメド・アリ。安室奈美恵の引退後の人生を考える余裕なんてないけれど、私たちは私たちの人生を生きよう。

 「CAN YOU CELEBRATE?」

【プロフィル】常見陽平 つねみ・ようへい

 千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長

 北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。

 専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

最終更新:1/8(月) 10:00
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