ここから本文です

新たな手術への信念=難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏

1/11(木) 11:04配信

時事通信

敵は病気、犠牲は覚悟

 「完璧な手術は今まで一度もしたことがありません」。脳外科医として多くの命を救ってきた上山博康氏はそう話す。命が助かり後遺症もなく、患者が元気に退院したケースは成功だが、完璧とはいえない。出血を少なく、できれば1滴の血も出さない手術を、短時間で終えることを目指しているという。
 手術がうまくいかなかった患者は鮮明に覚えている。約6年前、沖縄・宮古島から来た女性には、夫との間に2歳、3歳、5歳の子どもがいた。リスクの高い脳底動脈流の症例で、「このままじゃ死ぬのは分かっているから、どうしても手術をしてほしい」と上山氏を頼ってきた。
 上山氏は検査結果を見て「リスクが高すぎる。やめませんか」と2度にわたり説得。それでも女性は「どうしてもやってほしい」と同氏に強く依頼した。
 「病気と闘いたくても、患者には武器がなかった。他の医者は自分が責任を取りたくないから『手術は無理だ』と言っていた。チャンスさえあげられないでいいのか、自分が患者だったらどうするか、真剣に考えて勝負にいきました」
 しかし、女性は術後1日しか生きられなかった。2日目に亡くなり、夫は「ありがとうございました」と言って、泣きながら病院を後にした。
 「残された子供たちの顔が何度も夢に出てきて、僕は脂汗をかいて飛び起きました」と上山氏。「手術で亡くなった患者のことは決して忘れない。なぜ、うまくいかなかったのか、どうすればうまくいくのか、徹底的に考え、新しい方法を見つけ出すまであきらめません」

命懸けの医師育てたい

 「ずっと批判される側に居続けろ」は、恩師の伊藤善太郎氏(故人)の言葉だ。
 上山氏は「批判され続けるには、常に仕事をしていなければいけない。同業者の中には僕を嫌っている人はたくさんいると思います。でも、僕の闘う相手は人ではなく病気そのもの。人の命をうばう悪魔みたいな病気と闘うためには、手段は選ばない。患者のために命懸けで闘う脳外科医を育てていかなければならない」と話す。
 挑戦し続けるのは、前人未到の手術。誰もやったことのない治療をすれば必ずたたかれる。EBM(根拠に基づく医療)が主流になり、過去の臨床結果や論文などをもとに治療結果を比較し、治療方針を決めることが求められる現在の医療においては、なおさらだ。
 「でも、世界初のことをやらなければ患者が死ぬんです。種痘法を開発したエドワード・ジェンナーは8歳の少年に牛痘を接種しましたし、世界初の全身麻酔手術を行った華岡青洲は実母と妻を実験台にして、実母は亡くなり、妻は失明という大きな犠牲を払っています。今なら医師法違反で逮捕されるでしょうけど、信念を持ってやっている。僕もそれぐらいの気持ちでやっています」(ジャーナリスト・中山あゆみ)

この連載は毎週木曜日に掲載しています。

最終更新:1/11(木) 11:04
時事通信