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「ITの未来はAPIで形作られる」と、このベンチャーキャピタリストが断言する理由

1/12(金) 8:15配信

@IT

 マーティン・カサド(Martin Casado)氏が、米有力ベンチャーキャピタル、Andreessen Horowitzのゼネラルパートナー(エンタープライズIT分野を担当)に就任して1年9カ月。同氏が自身の投資活動における最重要キーワードに掲げるのはAPIだ。

 同氏がSoftware Defined Networking(SDN)ブームの核となったOpenFlowの仕様を開発し、その後ネットワーク仮想化のスタートアップ企業、Nicira Networksを創業して大成功を収めたという経歴からすると、意外な気もする。だが、大学で分散システムを研究していた同氏にとって、API関連は本来の専門に近いという。2017年末に行った、カサド氏へのインタビューの内容をお届けする。


●「APIエコノミー」は、単なる現象を超えたうねりになる

――これまで私は、(エンタープライズ)ITにおける新たな潮流を追い掛けてきたつもりですが、最近は大きな動きと呼べるものが以前より少なくなってきたように感じることがあります。そう考えるのは間違っていると思いますか?

 あなたは間違っていないと思います。

 私は投資する側としてさまざまなスタートアップ企業と会いますが、その30%はITに特化した企業ではなく、非常に成熟した産業を対象にしています。今日におけるイノベーションの多くは、ロボティクスやソフトウェアを駆使して、成熟産業のこれまでのやり方やビジネスモデルを変えていくことです。

 例えば、私が投資したわけではありませんが、面白い企業の1つに、植林をするドローンを開発しているところがあります。ドローンが飛行しながら、多数の苗木を地面に打ち込んでいくというものです。鉱業会社は採掘後の土地に植林をしなければなりません。しかし、土地が広く、植えなければならない樹木の数も多いので、非常に長い時間と大きなコストがかかります。これを完全に自動化できるわけです。

 つまり、ITそのものではなく、ITを使って、伝統的産業における物事のやり方を変えるところにイノベーションがあるわけです。あなたや私が過去20年にわたって関わってきたのとは違う世界です。ですが、これまでないほど、ITが世界を変え始めています。

――すると、ソフトウェア開発者はますます既存産業とITの橋渡しを考えなければならなくなってくるということですか?

 そこで私が注目しているのが、APIの広がりです。

 私は長年にわたって、シリコンバレーとサンフランシスコの間を自動車で往復してきました。ハイウェイ沿いに掲げられた看板の内容は、IT産業の移り変わりを反映しています。

 1990年代はドットコム企業、2000年台初めはeBayなどのEコマース企業、2000年代中ごろはFacebookやゲームなどのソーシャル系企業が広告を出してきました。現在では、こうした広告の約半数が、APIやインタフェースを提供する企業のものです。

 これは過去に比べて、画期的な変化だと私は考えます。

 以前はIT企業を設立する際、人間が利用する製品を開発することを考えました。しかし今では、(最終的には人間が利用するものの)プログラムが活用する部品を提供することを考えるようになってきたということです。

 IT業界で何が起こっているかをあらためて説明すると、次のようになります。

 ヘンリー・フォードが自動車の大量生産を始めたとき、工場では部品から作らなければなりませんでした。それが自動車市場の拡大に伴い、特定の部品だけを作る企業が多数生まれました。自動車工場は組み立てを行えばよくなりました。

 コンピュータ業界では、以前メインフレームベンダーが、ハードウェア、ソフトウェア、そしてアプリケーションを一括して提供していました。その後、ソフトウェアとハードウェアが分離しました。1990年代には、データベースをはじめとした代表的なアプリケーション分野で、各分野に特化した企業が次々に生まれました。2000年代にはオンラインサービスが成長しました。今起こっているのは、アプリケーションが分解され、これを構成する各機能に特化した企業が生まれているということです。これからはAPI企業が爆発的に増え、ソフトウェア開発を次のレベルに進化させる起爆剤となります。

――「APIエコノミー」という言葉が数年前からありますが、それがIT業界全体に広がるということですか?

 確かに、「APIエコノミー」という言葉は数年前から知られています。しかし、API経由で機能を提供することのみをビジネスとする企業が成立することがはっきりしたのは、最近のことです。

 最近になって初めて、世界に対するインタフェースがAPIのみで、アプリケーションやWebページを持たない企業を創業できるようになりました。こんなことはこれまでに考えられませんでした。

 例えば、コミュニケーションサービスをAPIで提供するTwilioの時価総額は数十億ドルに達しています(筆者注:2016年6月に株式上場した同社は、2018年1月初めの時点で時価総額23億ドルとなっている)。他にも、決済サービスのStripe、メッセージングサービスのPubNubなど、人気を獲得する企業が続出しています。

 私はSigOptという会社の社外取締役にもなっています。これは、非常に複雑な数学的最適化を提供する企業です。同社もサービスの提供に、Webページやアプリケーションは使いません。APIのみです。社員も博士号を取得した数学者しかいません。それでも、世界でトップクラスの企業が顧客になっています。なぜなら、こうしたソリューションのためのノウハウが、顧客の社内に存在しないからです。

 市場が十分な規模に拡大したため、このような「部品」の提供に専念する企業が成立するようになりました。

 そしてこうした部品をつなぎ合わせることで、例えば先ほどお話ししたようなドローンを開発したい企業は、認証をはじめとした面倒なIT機能のエキスパートを雇うことなく、良い製品を生み出すことに専念できるようになるのです。

●次の抽象化レベルはコンテナではない、APIだ

――最近の開発環境に関連する話題として、コンテナに注目する人が増えています。しかし、コンテナよりもAPIのことを考えろということですか?

 次のアプリケーションのエンドポイントはコンテナだと考える人が多いですが、それは間違いです。

 コンピュータの仮想化があまりに強力だったため、コンテナが登場したとき、多くの人は「次の抽象化レベルはこれだ」と思い込みました。確かにコンテナは役に立ちます。しかし、運用という観点では、適切なレベルの抽象化とは言えません。人々が最終的に気にするのはAPIです。アプリケーションがコンテナで動いていようが、サーバレスコンピューティングで動いていようが、APIのパフォーマンスが低かったり、APIとしてのセキュリティが確保できなかったりするのでは意味がありません。

 実際、数年前にコンテナセキュリティやコンテナネットワーキングで多数のスタートアップ企業が出資を受けました。しかし、成功している企業は1社もありません。これらの企業は今、マイクロサービスへのピボットを進めています。

――すると、カサドさんが自身の担当する投資で力を入れているのは、API経由で機能をサービスとして提供する企業と、APIの管理に関連する企業ということですか?

 その通りです。APIとして機能を提供する企業と、APIインフラを提供する企業です。

 後者については、APIをエンドポイントとしてとらえ、これを対象としたパフォーマンス管理、セキュリティ、ネットワーキングなどの機能を提供する企業に注目しています。従来のルーター、ファイアウォール、アプリケーションパフォーマンス管理ツールなどは、APIを理解できません。今後はAPIを理解できるツールが求められます。良い例がAPIゲートウェイを提供するKong(筆者注:2017年にMashapeから社名を変更)です。

●なぜ、APIゲートウェイのKongに出資したのか

――Kongに投資した理由を、あらためて教えてください(筆者注:Kongは2017年3月、シリーズBとしてAndreessen Horowitzから1800万ドルの出資を受けた。カサド氏はこれを担当し、Kongの社外取締役にもなっている)。

 エンタープライズIT分野でも、コンシューマーITと同様な出資の仕方をするようになっていくと、私は考えています。

 コンシューマーITでは、初期の段階でどの企業が成功するかは分かりません。このため、人気が出た段階で投資を判断します。エンタープライズITでは、これまで早い時期に出資するのが一般的でしたが、これが通用しなくなってきました。開発者がツールの購入に影響を与えるようになってきたからです。

 開発者の間で人気を勝ち得ない限り、エンタープライズITで成功することは非常に難しくなっています。例えばAndreessen Horowitzが投資しているSlack、GitHub、Mesosphereは、いずれもオープンソースで大きな人気を獲得した企業です。このように、私はエンタープライズITで、人気の高い企業にしか投資しません。

 一方、人気が高くても、DockerやNginxのようにマネタイズができない企業は存在しています。私が投資を決める際には、マネタイズが可能な製品であると確信できる必要があります。一般的には、開発者に人気が高いだけでなく、運用担当者に対して付加価値を提供できなければなりません。運用担当者の方が予算は大きいし、有償サポートを喜んで使ってくれるからです。

 Kongは、私の知る限り、オープンソースプロジェクトで最も急速に成長しています。また、APIゲートウェイは、開発者が使うだけでなく、運用担当者によるセキュリティ確保やパフォーマンス管理などが不可欠な分野です。この2つの理由に加え、私の信じる「世界はAPIに向かう」というトレンドに合致していることが決め手となりました。Apigeeや3scaleが買収された今、Kongは唯一の独立したAPIゲートウェイ企業でもあります。

 また、KongはコマーシャルなAPI(筆者注:社外に対して提供するAPI)だけを対象としているのではありません。社内アプリケーションのマイクロサービス化やサービスメッシュ化という大きな変革の波に乗ることができます。つまり、APIゲートウェイの市場は、これまでよりもはるかに大きなものになります。

――マネタイズの観点からは、プラットフォームとしての機能を果たせることが望ましいと思います。Kongは必ずしも「プラットフォーム」と呼べないのではないでしょうか?

 Kongはまだ若い製品です。しかし、アーキテクチャとしては、プラットフォームになることを前提としています。

 当初はカナリアリリースなどに使える従来型のAPIゲートウェイでした。キー管理、レート制限などについては基本的な機能にとどまっていました。しかし、分散アーキテクチャを採用しており、現在ではサードパーティーが活用できるAPIも充実していて、NginxやEstioなどから多数のプラグインが提供されるようになっています。確かに、あなたが指摘した通り、Kongはまだプラットフォームとは言えませんが、プラットフォームに進化する兆候は既に見えています。

 プラットフォームになったとしたら、どんなアプリケーションが構築できるかを考えるのは面白いことです。すぐに思い付くのは強力なパフォーマンス管理やセキュリティ管理です。特にセキュリティ機能は、セキュリティに特化したベンダーが開発する必要があります。

●カサド氏が今、最も興奮を覚えることは2つ

――最後に、カサドさんが現在、(仕事上)最も興奮を覚えることは何でしょうか?

 1つは(API分業により)プログラミングがブロック玩具の組み立てのようになろうとしていること、もう1つはインターネットにまだ接続できていない人々をどうつなげるかにあります。

 ブロック玩具のようなプログラミングについては、長い間多くの人々が語り続けてきましたが、今までお話しした通り、ブロック玩具のピースに相当する機能に特化した企業が次々に登場することで、ようやく現実化しようとしています。これで、(Andreessen Horowitzのスローガンである)『Software is eating the world』が加速します。ソフトウェア開発が非ITエキスパートにとって非常に簡単なものになり、例えば役に立つ機能を備えたドローン製品を短期間で提供できるようになります。

 もう1つとしては、「インターネットにまだつながっていない30億人を、どうつなげるか」という命題に、ますます関心を抱いています。

 実際に数年前、ネイティブアメリカンの人たちの居住地に、携帯電話通信サービスを提供する非営利団体を設立しました。山岳部に住んでいる人たちが多く、通常の携帯キャリアの電波は届きません。電気も水もありませんが、携帯電話端末は持っています。町へ車で出掛けてはFacebookをやり、家に戻ってくるといった生活です。

 問題は、子供が家で宿題をする際にインターネットを使えないこと。そこでこのプロジェクトを始めました。数年やって分かったのは、問題解決のカギが、携帯基地局からインターネットへの、バックホール接続にあるということです。

 この分野ではソフトバンクの出資したOne Web、GoogleのProject Loonなど、有力な技術が幾つか登場しています。そこで私はこの分野に、多くの時間を費やしています。考えてもみてください。この問題が解決すれば、30憶人が新たにインターネットに参加し、世界は大きく変わることになります。

最終更新:1/12(金) 8:15
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