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「風雲!たけし城」〝進出〟も日本の大企業が金満国家「サウジアラビア」に及び腰なワケ

1/12(金) 15:28配信

産経新聞

 石油依存の脱却を急ぐ産油国サウジアラビア。権力を掌握しつつあるムハンマド皇太子(32)は2017年11月、汚職撲滅に乗り出し、大勢の王子や閣僚らを拘束した。その一方、皇太子は自ら主導した経済改革「サウジ・ビジョン2030」で脱石油依存や産業強化など野心的な構想を掲げ、日本にも企業誘致のラブコールを送っている。サウジは「金満国家」として知られ、世界最大の海水淡水化市場を抱えるなど魅力は十分だが、進出に二の足を踏む日本企業も多いという。そのワケは…。

 サウジと聞いてまず思い浮かぶのは「オイルマネー」ではないだろうか。17年3月、サウジのサルマン国王(82)が約1500人の随行員とともに46年ぶりに来日し、その金満ぶりが話題を集めた。サルマン国王が専用機から特設エスカレーター式タラップで降りたり、随行員らが秋葉原で買い物したりする姿が面白おかしく報じられたからだ。

 ところが、サウジの国家財政は意外にも厳しくなりつつあるという。“元凶”は原油価格の下落だ。

 原油価格は14年半ばまでは1バレル=100ドル前後で取引されていたが、同年後半から価格下落が進み、一時は約4分の1に縮小。産油国のシェアで常に世界首位を争うサウジ経済も苦しくなっている。海外とのモノやサービス、投資の取引状況を示すサウジの経常収支は15年から赤字に転落している。このため、ムハンマド皇太子らは「脱石油」に向けた経済改革に乗り出したのだ。

 サルマン国王の来日も日本企業の投資や技術協力などを呼び込むのが狙い。国王来日に合わせ、日本とサウジは「日・サウジ・ビジョン2030」を取り交わした。それによると、サウジが成長を目指す9分野について、「省エネ・低コストの海水淡水化の実証事業」など31件の先行プロジェクトが選ばれ、日本の官民が協力するという。

 早々とサウジに進出するのがメガバンクだ。みずほ銀行は09年に証券の現地法人を設立。三井住友銀行も17年11月に現地法人設立の認可を取得したと発表した。

 さらに、三菱東京UFJ銀行は18年中に邦銀として初めてサウジに支店を設ける計画だ。

 ソフトバンクグループは17年5月にサウジの政府系ファンドと共同で10兆円規模のファンドを設立するなど、突出した存在だ。

 商機にめざとい孫正義社長は、サルマン国王と東京都内で会談し、脱石油を目指すサウジを支援する考えを示した。

 同年10月には、ムハンマド皇太子が、産業都市の開発に5000億ドル(約56兆円)を投じる計画を公表すると、孫氏もすぐさま投資への協力を表明し、蜜月ぶりをアピール。米ブルームバーグ通信は同年11月、ソフトバンクグループと傘下の投資ファンドが今後3~4年で、都市開発などに最大250億ドルを投資する計画だと報じた。

 ニッポン技術の最大の商機は、日本企業が強みを持つ水処理事業とみられる。サウジは世界の海水淡水化総量の約20%を占める有望市場だからだ。背景には、人口急増による水需要の高まりがある。

 東洋紡とJFEエンジニアリングは、サウジで淡水化プラントを運営する海水淡水化公団と新型の水処理膜の共同開発を進める。

 海水より濃度の高い特殊な溶液を使って、水処理膜を通すことで海水を淡水にする「正浸透膜」を採用。電気を使って海水に圧力を加えて分離する主流の「逆浸透膜」に比べて電力など運転費用を約25%抑えられるという。

 東レや日立製作所、日東電工のほか、ポンプメーカー各社もサウジの水事業に強い関心を示している。

 サウジは、厳格なイスラム法解釈で長く娯楽が制限されてきたが、ムハンマド皇太子の肝いりで娯楽庁やスポーツ庁が新設された。

 17年12月には、映画館の開設を認めると発表。35年ぶりの解禁で、18年3月にも第1号がオープンする。30年までに300以上の施設に2000以上のスクリーンが設置される見通しという。3万人の雇用をつくり、240億ドルの経済効果を見込む。 

 皇太子は人気漫画「ワンピース」のファンとしても知られ、日本企業とのコンテンツ制作にも期待している。

 実際、TBSは17年11月、かつて人気を博したバラエティー番組「風雲!たけし城」をサウジスポーツ庁と現地制作することで合意。同番組は世界150以上の国・地域で放送実績があり、「タケシズ・キャッスル」の名で人気という。サウジで「たけし城」を建設する計画もある。

 東映アニメーションも、アニメ・映画の共同制作で現地企業と合意。現地の民話を題材にしたアニメ制作に乗り出す。

 一方、及び腰なのがトヨタ自動車だ。過去10年以上のサウジ側のラブコールに慎重姿勢を貫き、サルマン国王来日に合わせ、ようやく事業化調査に乗り出した。市場としての魅力は大きいものの、企業に課せられるサウジ独特の義務や規制が、投資のハードルになっているようだ。

 同国では、サウジ人の雇用を義務づける「サウダイゼーション」が導入されており、業種などに応じ一定比率のサウジ人を雇用できない場合は罰金が科される。

 インドなどからの出稼ぎ外国人労働者に比べ、サウジ人労働者の賃金は約2倍と高く、残業や夜間シフト、転勤などを嫌がる傾向も強いため、サウダイゼーションに真剣に取り組む企業ほど価格競争力を失いつつある。

 さらに、外国人労働者への「人頭税」も各社の収益を圧迫しつつある。同伴家族への課税も始まり、家族を帰国させる企業もある。

 また、女性職員の雇用には、女性専用の執務室や礼拝所、キッチンなどを整備しなければならず、積極的な雇用の阻害要因となっている。

 このほか、女性の入国規制により、日本の化粧品大手は日本人女性の販売スペシャリストを派遣しにくいという。

 17年3月に東京都内で催された「日・サウジ・ビジョン2030」のビジネスフォーラムでは、国際商慣行とは相いれない“珍風景”が日本側の出席者を戸惑わせた。

 サウジの閣僚らが日本の協力による先行プロジェクトをプレゼンしたのだが、彼らの視線は前方席のサルマン国王に向けられ、「取引先」にもかかわらず、後方席の日本企業の首脳にはお尻を向けたままだったからだ。

 サウジが本気で「殿様商売」的思考を改めなければ、日本企業の積極的なサウジ進出は難しそうだ。(経済本部 上原すみ子)

最終更新:1/12(金) 15:28
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