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【先行き不透明な“ロシアゲート”】4人起訴も共謀疑惑に切り込めず

1/12(金) 16:00配信

ニュースソクラ

ロシア大使と接触のフリン氏、なぜ嘘をついたのか

 米国でドナルド・トランプ政権が発足してほぼ1年。この間、一時はロシアゲート疑惑に加え移民政策などへの批判からトランプ大統領の弾劾、あるいは辞任が必至とも思われる雰囲気もあったが、彼は意気軒昂のままだ。

 米政界を揺るがしてきたロシアゲートとはいったいどのような事件であるのか、疑惑の解明はどこまで進んだのか、またロシアゲートが米ロ関係にどのような影響を与えてきたのか、シリーズで検証してみたい。

 まず、そもそもロシアゲートとはどのような事件であるのか明確にしておきたい。2016年の米大統領選挙において、共和党のトランプ候補の陣営とロシア政府が共謀、民主党のヒラリー・クリントン候補を落選させるため、民主党のコンピュータへのサイバー攻撃を含め情報工作を展開、大統領選に干渉した疑惑と定義されるだろう。

 ここで注意しなければならないのは、ロシアが選挙に干渉したという疑惑と、トランプ陣営がロシアと共謀したという疑惑の2つがあるということ。この2つはもちろん密接に関係しているが、ロシアはトランプ陣営と共謀しなくても勝手に介入できたはずであるから、ロシアによる介入と共謀との疑惑は分けて考えた方がよい場合がある。

 2つの疑惑を合わせて捜査あるいは調査しているのは、公的には米司法省のロバート・ムラー特別検察官と議会両院の情報委員会。さらに報道機関が独自に調査、報道している。

 ムラー氏は司法省から2017年5月に特別検察官に任命された。その指示書には、ロシア政府とトランプ陣営との間の「あらゆる結びつき」と「調整」について調べよと書かれている。彼は30数人からなるチームを編成、FBIなどと協力している。

 ムラー特別検察官が大陪審を通じてこれまでにトランプ陣営の4人を起訴に持ち込んだ。起訴日時順にジョージ・パパドプロス(前トランプ選挙対策本部外交担当顧問)、ポール・マナフォート(前選対本部長)、リック・ゲイツ(マナフォートの元側近)、そしてマイケル・フリン(前国家安全保障問題担当補佐官)。

 それぞれの容疑だが、パパドプロスはFBIへの虚偽の供述、つまり取り調べにウソをついたこと。マナフォートとゲイツは資金洗浄などの容疑。フリンは虚偽の供述だ。このうちパパドプロスとフリンは司法取引のうえ、容疑を認め、マナフォートとゲイツは否認している。

 ここではマナフォートおよびゲイツとフリンへの容疑を具体的に紹介する。

 起訴状に相当する裁判所文書によると、マナフォートとゲイツの2人は2006年から2015年にウクライナ政府、ウクライナの政党「地域党」、当時のビクトル・ヤヌコービッチ大統領、地域党の後継の「反対ブロック」と契約し、米国で彼らのためにロビー活動にあたったが、米国で外国エージェントとして登録していなかった。

 また、ウクライナ関連の仕事で数千万ドルの収入を得たが、米当局に申告せず、様々なルートを使い資金洗浄したとされる。

 一方、フリンはトランプ政権発足で国家安全保障担当の大統領補佐官に就任したが、翌月に解任されてしまった。

 2016年12月29日にロシアのセルゲイ・キスリャク駐米大使と電話で会話した際に米国の対ロ制裁の問題を取り上げたのに、マイク・ペンス副大統領にその問題には触れなかったと政権内で、虚偽の説明をした責任を問われた。フリンとロシア大使の会話はFBIが傍受していた。

 フリンが起訴されたのは、彼がFBIの取り調べに対しても12月29日の会話、さらに12月22日のキスリャク大使との会話について虚偽の供述をしたため。

 22日は当時、国連安保理でイスラエル非難決議が審議されており、フリンはロシアが非難決議の採決を遅らせるか、採択に賛成しないよう求めたにもかかわらず、そのような話はしなかったとFBIに供述した。

 ムラー特別検察官が4人を起訴に持ち込めたことで、捜査は着々と進展し本丸のトランプ大統領への包囲網は狭まっているとみることができるかもしれない。

 だが、一方で、4人への容疑はロシアゲートの核心であるトランプ陣営とロシア政府との共謀に直接関係がないことにも注目したい。

 マナフォートとゲイツへの容疑はウクライナでの仕事での資金洗浄で、ロシアが関係した容疑は何も出てこない。

 また、フリンへの容疑は大統領選が終わった後の12月の出来事に関係しており、選挙運動中の共謀とは別問題だ。

 要するに4人の起訴は、日本でいう別件逮捕のような印象を与える。米国ではfishing expeditionと言われる。共謀の確証は得られていないのだ。

 ただし、これまでに明らかになったフリンの行動については、ロシア大使と接触し様々な外交問題について話をしたこと自体は罪に問われるような行為ではないはずなのに、なぜウソを言ったのかという疑問は残っている。

 フリンは司法取引にあたって、捜査に協力すると述べており、そうした疑問点が明らかになり、特別検察官が今後、共謀という核心に直接する証拠をつかむのかもしれない。

 米国では大統領が絡むような大きな事件が起きた際には特別検察官が任命されている。ロシアゲートという名称の由来である1972~1974年のウォーターゲート事件の捜査でも任命された。これまでの特別検察官による捜査では、結論が出るまでに平均3年弱かかっているという。今回もまだまだ時間がかかるのかもしれない。

 共謀が証明されれば、トランプ政権には正当性がないと米国民、議会で判断され、大統領は弾劾されるか、辞任に追い込まれるかもしれない。しかし、現在、そうした具体的な動きはない。
 (敬称は略しました)

 <この連載は集中連載いたします>

■小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。
現在、国際教養大学客員教授。

最終更新:1/12(金) 16:00
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