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あらためて「デジタルトランスフォーメーション」って何?

1/13(土) 8:15配信

@IT

●「モノからサービスへシフト」って言うけど、サービスって何? あなたはどうするべき?

 ビジネスの主戦場がモノからコトへとシフトしている。こうした競争原理の大転換期を迎えて、あなた個人はどうするべきか? これが本連載で皆さんと模索したいテーマである。

 消費者が商品やサービスを選ぶとき、そのモノ(製品や商品)の品質だけで決着が付く時代は終わり、コト(商品に伴う体験や周辺の実現サービス)の品質を見定める時代にシフトしてきた。例えば、店頭と同じ商品(モノ)を私たちはAmazonで買うようになった。それも喜んで買っている。なぜなら、Amazonが提供しているサービス(コト)が気に入っているからだ。

 海外からディスラプター(創造的破壊者)やスタートアップと呼ばれる企業が現れている。彼らもコトを通して顧客を虜にしていく。出現するやいなや、業界にイノベーションを起こして、既存ビジネスの競争や均衡の構図を根底から覆し、既存企業や業界そのものを破壊するほどの勢いがある。

 こうした「競争原理の大転換期」を迎え、消費者の価値観が変われば、企業の価値観も変わる。当然企業が従業員に求める価値観も変わる。つまり、企業のITに関わる皆さんも、価値観や発想、仕事のアプローチを変える必要が出てくる。

 ただしこれは、新たなリーダーシップを発揮するチャンスでもある。なぜなら、創造的破壊はITを武器にしているからだ。ITが企業間競争を勝ち抜く武器になるなら個人が生き抜く武器にもなるはずだ。

 ではサービスを売りにする時代のIT人材像とはどのようなものか? これを一緒に考えてみよう。

●Uberは何を「変えた」のか?

 ディスラプターとして、よくUberやAirBnB、Amazonなどの例が挙げられる。Uberは、日本では法規制の関係でメジャーな存在になっていないが、カーシェアリングサービスという新たな業態で、米国西海岸を皮切りに既存のタクシー業界を破壊していったことは広く知られている。

 想像してみてほしい。アメリカでタクシーを利用するのは大変である。空港やホテルに設置されたタクシー乗り場以外でタクシーを拾うのは難しいし、乗ったら乗ったで、目的地を伝えるために色んな訛のドライバーと英会話をする必要がある。国土が広いのでよほど土地勘がないと料金の不安が拭えない。おまけにチップの相場も意外と曖昧だ。

 しかしUberなら、そのモバイルサービスがこれら全てを網羅してくれる。直感的で使い勝手の良いモバイルアプリがタクシーに乗る全ての手続きをサポートしてくれるからだ。

 具体的にはこうだ。モバイルアプリで乗りたい場所と目的地を指定し、事前にルートとおおよその料金を把握する。GPSにより、近くにいる車が配車されるが、車種とドライバーの評価(ドライバーは利用者の評価に基づきポイント付けされる)を見て、複数候補から任意に選択したってよい。選択後は、アプリの地図上で車が近づいてくるのが見えるので、待ちぼうけのイライラや不安も少ない。目的地はドライバー側のモバイルアプリにも共有されているので、会話は原則不要。後は乗車して目的地に着いたら降りるだけ。料金はあらかじめ登録済みのクレジットカードで自動決済される。チップもいらないし、何より料金が既存のタクシーより安い。

 高校1年生の息子は、留学経験もなく、英会話は中学義務教育以上の訓練を受けていないが、夏休みを活用して行ったシリコンバレーで、滞在先のホテルから1人でUberを呼び、Googleの本社やスタンフォード大学の見学に出掛けてきた。いかにUberが提供するサービスが直感的で使いやすいか、いかにアメリカのタクシー乗車に伴う雑事を削ぎ落としたかを、ご理解いただけると思う。

●Uberを支える「ITサービスマネジメント」という生命線

 ここでUberの提供サービスを整理してみよう。お伝えしたいのは、Uberは「サービスマネジメント」の本質を理解するには格好の材料だということだ。

 Uberが提供している「コアサービス」は、人の搬送サービスだ。現在地から任意の目的地への搬送を有償で提供するという観点では、従来型タクシーと全く同等だ。しかし「概算を把握する」「タクシーをつかまえる」「目的地を伝える」「料金を決済する」という、「コアサービスを支援する実現サービス」は従来型タクシーとは全く異なる設計がなされている(※1)。ここにイノベーションがある。

※1:コアサービス、実現サービス、強化サービスの考え方はすでにITILでは整理されている

 Uberの売りは、コアサービスの廉価性よりもむしろ、この「実現サービスに対するユーザー体験の素晴らしさ」にある。これがモノからコトへのシフトだ。Uberの実現サービスには、シンプル、透明、完結、スピードがあり、しかもこれら全てが手のひらの上で完結する。利用者はUberというサービスに対して、望んだ目的地に着くという有用性のみならず、使い勝手が良いという利便性、時と場所に制限されないという可用性を価値(有用性+利便性+可用性)として感じることができる(※2)。

※2:ITILでは価値は有用性と保証から成ると定義している。ここでは保証を更に利便性と可用性とに分解してみた

 今度はUberサービスの実装面・管理面の特徴を見てみよう。Uberはサービスインテグレーターである、これが実装面での特徴だ。サービス提供に必要なさまざまな要素を、自社で丸抱えするのではなく、社外からも効率よく調達し、インテグレーション(組み合わせ)を施すことでサービスを完成させている。

 まずドライバーとその車だが、ドライバーはUber社の従業員ではなく、個々人がUber社と独立契約を結び(注:状況は国により異なる)、サービスに使う車とモバイル端末をドライバー側が供出している。このようにUberのコアサービスの要素は社外から一定の流動性を持って調達されている。

 さて、この流動性、独立性が高く、標準化とはほど遠い(車種、勤務時間、接客態度が不ぞろいな)ドライバー要素を効率良くサービスに連携させているのが、専用のドライバー用モバイルアプリであり、独自のITプラットフォームだ。

 ところが、このITプラットフォームも、既存の公衆モバイル回線やクラウド、地図情報サービスを最大限活用し、そこにアプリケーション、ミドルウェアやセキュリティなど、複数のテクノロジーを組み合わせて実装している。

 さらに既存の金融サービスプロバイダー(クレジットカード会社、信用会社、ドライバー手当用銀行)を統合することで、Uberの実現サービスまでを成立させている。Uberが提供するサービス(とその価値)は、まさに「インテグレーションを基調とした実装」により支えられていることがご理解いただけると思う。

 こうなると気になるのがその管理面だ。Uberのサービスが提供する、スピードに裏打ちされた価値(有用性+利便性+可用性)を維持するためには、これを徹底して管理する必要が出てくる。動作の遅延や不安定さは、Uberが持つスピードや完結性を毀損してしまう。

 要約すると、「複数のテクノロジー、プロセス、組織、外部サービスプロバイダーやサプライヤーの組み合わせから構成される一連のITサービス」をエンドトゥエンドで維持管理できるかはUberの死活問題だ。これはまさにサービスマネジメントそのものといえる。UberのサービスマネジメントはITサービスマネジメントの上に成り立っているビジネスサービスマネジメントなのだ。

●モノからコトへ――その基本となる「ITサービスマネジメント」とは

 今回、Uberの例を掘り下げたが、他にも身近なところでモノからコトへのシフトは確実に起こっている。ぜひ周りを見渡してみてほしい、「製品とアプリの組み合わせで新たな価値を提供する」などということが当たり前になってきている。そしてその組み合わせはより斬新で複雑になり、イノベーションを起こしている。

 こうした「モノからコト(体験・サービス)へのシフト」を支えるのがITサービスマネジメントだ。繰り返しになるが、Uberのサービスとは、「複数のテクノロジー、プロセス、組織、外部サービスプロバイダーやサプライヤーの組み合わせから構成される一連のITサービス」であり、これをエンドトゥエンドで維持管理できるか否かがサービスの成否を分ける、そしてこれを支えているのがITサービスマネジメントだ。

 言うまでもなく、ITサービスマネジメントはIT部門が今まで経験してきたことだ。この経験を生かしてイノベーティブなサービスを支え、主導する時が来ているのだ。

 ただ、こういう話をすると「ITILは古い」という人がいる。だが状況は全く正反対だ。今こそITILの考え方と手法をますます活用する時が来たといえるだろう。本連載も、ITILについて語ろうというものではない。IT人材として「今」を生きる上では、ITサービスマネジメントの考え方が自ずと必要になるのである。

 ITILの基本的な考え方はこうだ。ビジネス要求に基づいて「1.サービス戦略を立てる「2.サービスを設計し構築する」「3.オペレーションへトランジションする」「4.日々のオペレーションを実施する」「5.継続的改善を実施し価値を高める」。

 この考え方はビジネスサービスマネジメントと完全に合致する。ITサービスマネジメントで培った経験を、ITの枠を超えて、「サービスを売る」というビジネスサービスマネジメントへ適用する。ビジネス貢献に最大限生かして、ビジネス革新を主導するチャンスなのだ。

 今、ご自身が携わっている業務を「サービスマネジメント」という観点で眺めてみても、それを実感できるのではないだろうか。例えば、エンドユーザーにとって意味のある「コアサービス」とは、どのような製品やテクノロジー、プロセス、実現サービス(実現サービス、支援サービス)などの組み合わせから成り立っているのか、考えてみるのだ。

 そしてコアサービスをコアサービスとして成り立たせるためには、各構成要素をどのような考え方やプロセスを持って管理すればよいのか――ITサービスマネジメントの考え方やプロセスが不可欠であることに、あらためて気付くのではないだろうか。

●著者プロフィール

○久納 信之(くのう のぶゆき)
ServiceNow ソリューションコンサルティング本部 エバンジェリスト

米消費財メーカーP&Gにて長年、国内外のシステム構築、導入プロジェクト、ITオペレーションに従事。1999年からはITILを実践し、ITSMの標準化と効率化に取り組む。itSMF Japan設立に参画するとともにITIL書籍集の日本語化に協力。2004年からは日本ヒューレット・パッカード株式会社、その後、日本アイ・ビー・エム株式会社においてITSMコンサルタント、エバンジェリストとして活動後現在に至る。「デジタルビジネスイノベーション=サービスマネジメント!」が標語・座右の銘。EXIN ITILマネージャ認定試験採点を担当。著書として『アポロ13に学ぶITサービスマネジメント』『ITIL実践の鉄則』『ITILv3実装の要点』(全て技術評論社刊)などがある。

○鉾木 敦司(ほこき あつし)
ServiceNow ビジネス推進担当部長

日本ヒューレット・パッカード株式会社に19年間勤務。顧客システム開発プロジェクト、ハードウェア・プリセールス、ソフトウェア・プリセールス、プリセールス・マネージャー、ソフトウェアビジネス開発に従事。2017年より現職。一男三女の父であり、30年後も多くの日本企業が世界中で大活躍する野望実現のため、サービスマネージメント・プラットフォームの重要性啓蒙活動にいそしむ。電気情報通信学会発表論文に『OSS市場と市販製品の動向-市場成熟度が製品シェアに与える影響』がある。

最終更新:1/13(土) 8:15
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