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「多メディアの時代だから、映画館に人を連れ戻したい」手塚眞監督30年ぶり「星くず兄弟」の理由

1/13(土) 9:13配信

産経新聞

 パソコンソフトや動画サイトといった最先端のメディアにも果敢に取り組んできた手塚眞監督(56)が、劇場用映画にじっくりと向き合った。1月20日公開の「星くず兄弟の新たな伝説」は、1985年の商業映画デビュー作「星くず兄弟の伝説」の30年後を、さまざまな娯楽の要素を詰め込んで作り上げた意欲作だ。若手から大物まで多彩な出演陣によるSFファンタジーで西部劇でロックミュージカルという、何でもござれのにぎやかさだが、「僕らが今、映画って面白いんだよと一生懸命に言わないと、みんな自発的には映画を見なくなってしまうんじゃないか」と危機感を募らせる。(文化部 藤井克郎)

■SFと西部劇のロックミュージカル

 実は記者は、この映画の撮影現場を見学している。2015年の12月、東京・渋谷のダンスフロアで、主人公のカンとシンゴが出会う場面のロケが行われていた。薄暗いラウンジに大音量の音楽が流れ、まばゆいばかりのスポットライトが飛び交う中、前作の「星くず兄弟の伝説」で主役を演じた高木完(56)と久保田慎吾(59)が握手を交わす。ミュージシャンとして活躍する2人だが、前作から30年後の同じ役で、再び役者として相まみえた瞬間だった。

 「これが10年後、20年後だったら、多分やらなかったと思う。30年ぐらいたつと、こういう映画の存在価値に改めて気づいて、もう1本くらい作ってもいいかなという気がしたんです」と、手塚監督は2人の演技を楽しそうに見つめながら語っていた。

 それからさらに2年ちょっと、ついにこの新作が劇場公開される。16年の東京国際映画祭でお披露目されており、完成してからもすでに1年以上が経過しているが、「インディーズ(独立系)映画の悲しいところで、なかなか予定通りに進まないんですよ」と、改めて取材した手塚監督は苦笑いを浮かべる。

 新作は、前作と同じミュージシャンの近田春夫(66)の原案によるもので、やはり同じロックミュージカルのスタイルを取っている。前作はカンとシンゴの「スターダスト・ブラザーズ」が音楽業界でのし上がっていくまでの葛藤を、あふれる音楽と豪華な出演陣で織り上げた異色作だったが、今回はさらにSFと西部劇の要素が加わった。

■こんな人が出ているという楽しみ

 再びスターとしての栄光を夢見るシンゴは、地球がダメなら月世界で一旗揚げようと、カンとともに若返って月に向かう。ここでもパッとしない2人だが、酔っぱらいの老人に「ロックの魂を探せ」と言われ、西部を舞台にした新たな冒険が始まる。

 若返った2人を三浦涼介(30)と武田航平(31)が演じるほか、浅野忠信(44)、夏木マリ(65)、井上順(70)、内田裕也(78)らがとんでもない役で出演。さらにカメオ(ほんのちょっとだけ顔を出すゲスト)出演として、映画監督や漫画家など意外な人物が登場するのも見ものだ。

 「前作もそういう側面があったので、それを継いでやったという感じです」と打ち明ける手塚監督によると、カメオ出演は子供のころの映画体験に寄るところが大きい。テレビの洋画劇場の類いが好きで、よく両親とともに見たが、「八十日間世界一周」(1956年)や「007カジノロワイヤル」(67年)といった大勢が特別出演している映画だと、両親が「あ、あそこにこんな人が出ている」「あんな人もいた」と楽しそうに話していたことが強く記憶に残っている。

 「それが原体験としてあって、どうしても自分の映画には隠れスターがいるという癖がある。それは学生時代からで、『MOMENT』という8ミリ映画には、鈴木清順監督(1923~2017年)、作家の横溝正史さん(1902~81年)、元キャンディーズの伊藤蘭さん(62)とかに出てもらっている。なかなか抜けない癖なんですが、見つける人にとっては楽しみでもあると思うんです」

 ほかにも、豊富な映画体験に基づくお楽しみの部分がたくさん隠されている。例えば、西部の場面では、主人公の2人はあろうことか女性に変身し、谷村奈南(なな)(30)と田野アサミ(30)がカンとシンゴを演じているが、これなどはマリリン・モンロー(1926~62年)が主役を演じた「お熱いのがお好き」(59年、ビリー・ワイルダー監督)のパロディーだという。さらに発想の原点には、ジャン=リュック・ゴダール(87)の作品も入っていると明かす。

■もう一度映画館に人を連れ戻す

 「月に行くというのも、ジョルジュ・メリエス監督の『月世界旅行』(1902年)から始まっているわけだし、映画ファンとしていろんな映画にオマージュをささげているという部分はある。ただ古い映画ファンなので、今の人たちには通じないネタもたくさんあるかな」とほほ笑む手塚監督だが、どちらかというと映画人というより、メディアを選別せずにさまざまな映像表現を追求してきたというイメージがある。

 例えば、前作の「星くず兄弟の伝説」で商業映画デビューを飾った直後には、オリジナルビデオ作品の走りともいえる「妖怪天国」(86年)を発表。さらには開発初期のハイビジョンで「東大寺伝説・金剛奇譚」(91年)を監督したり、富士通のパソコンソフト「TEO~もうひとつの地球」(95年)をプロデュースしたり、最近では動画サイトのニコニコ動画で「国際ニコニコ映画祭」を企画したりと、新たな可能性に果敢に挑戦してきた。

 「ちょうど僕らが映像を始めたころから、ビデオにパソコン、ハイビジョンとどんどんメディアが広がりを見せてきて、それに間に合わないという感じでみんなが作品を作っていった。でも今は逆で、スマートフォンも含めて映像が街に氾濫している。そういう時代だから、もう一度、映画館に人を連れ戻したい。今の学生と話をすると、映画館に行ったことがないという人もたくさんいる。きっかけはスマホだとしても、最後はちゃんと映画館に行って作品を鑑賞してほしいという気持ちは強いです」

 そういう意味でも、いろんなタイプの映画があるということを率先して示さなければならないという責任を感じている。今後もいばらの道かもしれないが、頑張って新作を作っていこうという気構えでいる。

 「今はあまりにも予定調和的な映画が多い。それに非常に身近な世界しか出てこなかったりする。今回の新作は、前作を全く知らなくても、この世界観に入りさえすれば楽しんでもらえると思う。ただ世界観に入るまでに若干、時間がかかるかもしれない。最初のうちは多分、これは何なんだっていう混乱があるんじゃないかと思うが、それも含めて楽しんでもらいたいと思いますね」



 「星くず兄弟の新たな伝説」は1月20日から東京・テアトル新宿、27日から大阪・シネ・リーブル梅田、名古屋・シネマスコーレ、2月10日から茨城・瓜連あまや座、17日から京都・出町座、神戸・元町映画館など全国順次公開。

 ●手塚眞(てづか・まこと) 1961年、漫画家の手塚治虫の長男として東京に生まれる。高校時代から映画製作を始め、数々の映画賞で入賞。日本大学芸術学部在学中に撮った8ミリ作品「MOMENT」が人気を呼び、85年「星くず兄弟の伝説」で商業映画監督デビューを飾る。映画はほかに「白痴」(99年)、「ブラックキス」(2004年)など。宝塚市立手塚治虫記念館など父親の業績を後世に伝える企画、プロデュースも手がけている。

最終更新:1/13(土) 9:13
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