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<無知の知 「てんかん」という現実>序章 治療の現場で(2) 母子、望み託す

1/13(土) 14:20配信

@S[アットエス] by 静岡新聞SBS

 2017年12月上旬、国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター(静岡市葵区)の脳波室から音楽が聞こえてきた。ベッドとカメラ、脳波を映し出すモニターが置かれた部屋の中央で、脳波検査技師が男児(2)の頭に22個の電極を付けていた。治療の効果をみるため、これから約18時間にわたって脳波を記録する。男児の母親(31)がそっと語り掛けた。「今日はおりこうだね。頑張ろうね」

 母親は15年10月、地元香川県の病院で男児を出産。その翌日、おかしな動きに気付いた。顔を真っ赤にして力む。医師に伝えたが原因は分からない。母親は注意して観察するようになった。生後2カ月を過ぎた頃、「ぴくん」と一瞬体が動く発作が頻発した。感染症などさまざまな可能性が指摘され、薬による治療が始まった。生後7カ月。病院で告げられた診断結果に耳を疑った。「ウエスト症候群です」

 乳児期に発症する難治性のてんかん。すぐにインターネットで調べると、不安でいっぱいになった。発作が止まらない。発達面でも気がかりなことがある。笑顔が少なく、お腹がすいてもおむつが汚れていても、泣いて知らせてくれない。「治療例が多い病院で原因と治療方針をはっきりさせたい」。診断から1カ月後、母子は静岡にやって来た。

 薬を調整したり、ホルモン療法を受けたりと、入退院を繰り返した。だが、いずれの治療法も効果は一時的だった。

 現在は食事療法を試みている。抗てんかん作用のあるケトン体と呼ばれる物質を体内に作り出すため、高脂肪低糖質の食事を毎食食べる。最低3カ月続けないと効果が判定できないとされるこの療法は、始まってまだ1カ月。ただ、毎日午後に5回ほどある発作が、母親の目には強くなっているように映って仕方ない。発作とともに泣きだす息子。そんな時、母親は幼子を抱きかかえ、「つらいね」「怖かったね」と涙を拭ってあげることしかできない。「最終手段」という印象だったこの食事療法も駄目だったら-。脳裏にかすめてしまう。

 息子は最近、おしゃべりをしたり、体を動かしたりと感情表現が活発になってきた。成長が感じられる瞬間のうれしさは他の母親と同じだ。だが、だからこそ焦りもある。「早く治療の道筋を付けてあげたい」

 <メモ>ウエスト症候群は点頭てんかんとも呼ばれ、生後3~11カ月に発症。小さくうなずいたり、両手を挙げてお辞儀をしたりするような発作を数秒から十数秒間隔で繰り返す。脳波では、「ヒプスアリスミア」と呼ばれる特徴的な異常波が見られる。生まれる前からの、もしくは出生前後の脳障害が原因とされるが、異常がないケースもある。服薬や副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)治療のほか、食事療法や外科治療が有効な場合がある。多くの場合、精神運動発達の遅れを伴う。

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