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教えて! キラキラお兄さん「AIは転職エージェントの職を奪いますか?」

2/7(水) 7:00配信

@IT

 先端的なIT企業がエンジニアを採用するとき、GitHub上のソースコードや技術ブログ、勉強会での発表など、インターネットで公開されている情報を参考にする話をよく耳にする。ここでAI(人工知能)の力を借りることはできないだろうか──。島田寛基さんが代表取締役を務める「scouty」は、この発想を形にしたサービスを提供するスタートアップ企業である。

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 scoutyが提供するのは、機械学習を駆使した人材マッチングサービスだ。インターネットで公開されているオープンデータと機械学習を組み合わせ、企業が転職希望者を探す活動を支援する。背景には機械学習の取り組みに関する世界的な盛り上がり、そして島田さんが抱いていた「雇用のミスマッチをなくし、本人も知らないようなより良い環境や職場の情報を届けたい」という思いがあった。

●「早く出たかった」から英エディンバラ大を選んだ

 島田さんは、起業をターゲットとして自らの進路を作り上げてきた。起業には早い段階から関心を持っていた。中学生のときに「会社を作る」と言っていたそうだ。「自分が世界に与える影響を最大化したい。それに一番いいのは起業ではないかと思っていた」と島田さんは言う。

 プログラミングは小学5年生のときに初めて経験した。京都大学に在学中、グーグルのインターンを経験したこともある。大学卒業後は英エディンバラ大学の大学院修士課程に進み、1年間みっちり機械学習を学んだ。テクノロジーを強みとする企業を作り上げようと考え、そのための最短コースを自ら設計して歩んできた格好だ。

 エディンバラ大学を目指した理由は、まず、コンピュータサイエンス全般ではなく機械学習に特化したコースがあったこと。そして、日本の大学院であれば2年かかる修士課程を1年で終えられることが大きかった。

 「早く出たかった」と島田さんは言う。「なるべく若いうちに、時間を最大化、有効化したかった」。

 大学を卒業する半年前には、エディンバラ大学大学院で機械学習を学ぶことを決めていた。日本の大学の卒業から英国の大学院入学までは半年の空き時間が出るが、その間はベンチャーキャピタルのインキュベートファンドで働いた。当時の島田さんは未経験の新卒だったが、「知り合いの紹介でランチを一緒にして、そこで『働きたい』と話したらOKになった」。

 ここでは複数のスタートアップ企業を支援する立場で経験を積んだ。「スタートアップ企業が抱えていた技術的な問題を解決する」ことが主な仕事だった。プロダクトの骨組みを島田さんが作ることもあった。投資委員会でプレゼンテーションするときのデモンストレーションを担当したこともあった。島田さんはこのときの経験を「複数の会社の違いを横断的に見ることができた」と振り返る。

 英エディンバラ大学での1年間の修士課程は「圧縮されている感じ」だった。並行して起業の準備も進めていたから、ほとんど毎日が、勉強か仕事の日々だった。

 島田さんにとって良かったことの1つは、機械学習の理論を学ぶだけでなく実践する経験を積めたことだ。例えば自然言語処理の授業では「文体から著者を予測する」手法を実践する経験を積んだ。大学院時代の経験は、scoutyのサービスを構築する上で良いヒントになった。

●機械学習を軸に事業案を考え、HR分野に焦点を絞る

 起業するに当たり、島田さんは技術を使って「新しい何か」をやらなければ勝てないと考えた。事業のアイデアは、当然のようにAI(人工知能)/機械学習を軸に考えた。アイデアをたくさん書いた。さまざまな事業アイデアを検討し、その中からHR(人事)分野を選んだ。

 島田さんが考えた筋道は次のようになる。ITを取り巻く業界では働き方が変化してきている。フリーランスも増えたし、新卒採用を取りやめた会社もある。求人広告ではなく紹介に基づくリファラ採用も増えた。そのような人材採用に関する最新事情をヒアリングする中で、転職エージェントたちが人を探す部分に多くの時間を費やすにもかかわらずマッチングがうまくいかないことが分かってきた。

 この状況を「一昔前の広告業界と一緒だ」と島田さんは表現する。インターネット広告の分野では、広告をターゲットの属性に合わせて機械的にマッチングして表示する技術(アドテク)が浸透しつつある。広告とメディアをマッチングする上で、人間の経験や判断ではなく機械的な処理を活用する動きが進んでいるのである。

 現状、多くの人材採用の現場では、「人探し」は転職エージェントの仕事だ。IT分野では、エンジニアがソーシャルメディアで自らのエンジニアとしてのスキルに結び付く情報をインターネットで公開している場合が多い。それを参考にすれば、「探す部分は機械に任せられる部分があるのではないか」と島田さんは考えた。そうすれば、転職エージェントが、説得やクロージングの部分により多くの時間を費やせるようになるのではないか――。

 このような考えが、scoutyのサービスに結び付くことになる。

●雇用のミスマッチをなくしたい

 島田さんがscoutyのサービスによって解決したい問題は「雇用のミスマッチをなくすこと」だ。

 友人の進路を見ると、デザインやプログラミングの才能があるのにExcelの書類作りに追われているなど、雇用のミスマッチの問題を感じる場面が多々あったのだ。その人の資質に会った転職機会を多数の選択肢の中から提案してくれるサービスがあれば、世の中の雇用ミスマッチを減らし、本人も知らないようなより良い環境や職場への転職が可能になると考えた。

 エンジニアがソーシャルメディアなどに残した痕跡から、より良い選択肢を提示できるようになれば、そしてそれがスケール(規模拡大)できるなら、雇用のミスマッチはなくなっていくはず。それに社会に影響を与えるという点でも面白い──島田さんはこう考えた。

 scoutyという名称が示すように、サービスの基本的な枠組みはスカウトだ。求人企業が採用したい人材をデータに基づいて探しだし、転職を薦めるメールを送る。スカウトのメールそのものは人事担当者が書くが、その材料となる情報はscoutyのサービスが提供する。例えば「この人はRubyの能力が高く、スキルセットが自社の採用要件にマッチしている」といった情報を教えてくれる。メールは頻度が多いと迷惑に思われるので、同じ人にメールを送信する回数に制約を設けている。

 前述したように、人探しのために活用するのは主に公開されているデータである。インターネット上の複数メディアの情報を手掛かりに、求めている人材を探せることがscoutyの強みだ。例えば、オープンソースソフトウェアのソースコードを公開するGitHubでの活動、TwitterやFacebookのようなソーシャルメディア、技術情報を投稿できるQiita、IT勉強会サイトconnpassの情報なども見る。エンジニアの場合は特定の技術の「クラスタ」の中で似た人が集まっている場合があるので、ソーシャルメディア上のつながりも重要な情報になる。

 機械処理により人探しをする上で重要なことは、人材の属性を機械処理できるように表現することだ。scoutyではエンジニアリングのスコア、ビジネス経験のスコアなどを数値として表現し、評価尺度として使う。scoutyに基づく転職活動の実績が蓄積されていけば、その情報もscoutyが学習するデータとなる。つまりサービスが使われるほど、サービスの推薦精度は上がっていく仕組みだ。

 scoutyの仕組みで興味深い機能が「退職率予測」だ。機械学習により、過去のデータに基づき退職傾向を予測する。会社により平均在職期間が違うが、その点も考慮に入れる。個人についても、例えば「2年ごとに転職している人」はそれが考慮材料になる。

 scoutyによる人探しのターゲットとなるのは、今のところエンジニアに限定している。将来的にはエンジニア以外の職種にも対応する予定だ。もちろん海外展開も視野に入れている。

●先進的な会社に限定してサービスをリリース

 scoutyのサービスの話を聞くうちに、疑問が湧いてきた。採用活動を完全に機械化することはできるのだろうか?

 島田さんの考えは、「人を探す部分は自動化するが、クロージング、エンパワーの部分はむしろ人事担当者の役割が増していく」というものだ。

 人探しの機械処理が進めば、採用の基準も変わっていく可能性がある。島田さんは、「将来は履歴書よりオープンデータが大事になる」と考えている。研究者の世界では論文発表が最も重要な評価尺度だが、エンジニアの世界でも公開された情報の蓄積が重要になりつつある。この傾向がさらに強くなるとみている。

 scoutyのサービスの考え方は、公開情報を集めて横断的に検索することだ。その対象となる公開情報の範囲を広げていくことも考えている。例えば論文、特許、メディアへの掲載などだ。他のデータを持っているサービスと提携することも考えている。

 さらに今後の展開として「自社の社員が引き抜かれないようにする」ためのソリューションも考えている。エンジニアのスコアが数値化されることから「この人にこのポジションは低過ぎる」といった客観的な指標による指摘もできるようになる。

 島田さんの取り組みが示しているのは、公開された情報を充実させるほど、転職でも有利な時代が来ているということだ。Webエンジニアを取材していると、世の中に向かって情報を発信していたことが転職に有利な形で結び付いた話をよく聞く。他の分野や業種でも、このような傾向が広がっていく可能性はあるだろう。

最終更新:2/7(水) 7:00
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