ここから本文です

夜逃げされても…インドでラーメン店 元構成作家、現地スタッフと熱い日々

2/10(土) 15:28配信

朝日新聞デジタル

 インド南部のチェンナイにあるラーメン店「AKI BAY 秋平(あきべい)」。本格的な日本風ラーメンが楽しめる店として、日本からの駐在員や現地の人に親しまれています。そこで働くインド人スタッフを束ねているのが能條(のうじょう)ジョーさん(27)。日本とは異なる習慣に四苦八苦しながら、経営者の秋元聡さん(44)と二人三脚で店を運営してきました。そこで役に立ったのが意外な資格でした。

及川奈央らの応援メッセージが書かれた色紙が店内に飾られている=インド南部のチェンナイ


 ラーメン店「AKI BAY 秋平(あきべい)」はチェンナイに2店舗ありますが、2015年7月の1号店開店から携わっています。

 インドは学生時代にバックパッカーとして1カ月旅行したことがあり、また行きたいと思っていました。当時は構成作家をしていて、知人から誘いが遭ったときは「ネタになるな」とも思い渡航を即断しました。インドに渡って2年半がたち、現在はインド人スタッフ10人を束ねています。

■店のスタッフが消えた…

 インドでの店の運営は大変なことばかりです。なかでも大きな事件は、1号店開店から1年半がたったころに起きました。

 ようやく順調に店が回り始めたと実感していた17年1月の夜、4人の従業員が突然いなくなったのです。夜逃げです。残りの従業員は帰省中で、すぐには戻れません。スタッフが一時ゼロになる窮地に陥りました。

 すぐに別の従業員を雇い、私と秋元さんが厨房(ちゅうぼう)に入ることで休業は1日だけで済みましたが、すごくショックを受けました。

 実はスタッフが夜逃げする直前の昼、12月分の給料を渡したうえで「給料を2月からは10日払いにしたい」と告げていました。周辺の飲食店では10日払いと聞いていたのでそれに合わそうとしたのです。しかし、スタッフにとっては1カ月先のこととはいえ給料の支払いが8日ずれるのは死活問題だったかも知れません。4人との信頼関係がまだまだ足りなかった、と反省しています。

■胸が熱くなった、うれしい言葉

 日頃、インド人スタッフには「遅刻はやめよう」「あいさつをしよう」とマナーを教えています。ときには怒鳴りつけたりもします。一方で、こちらに非があるときは誠心誠意謝ります。給料の支払いが1日でも遅れた時には、理由をきちんと説明してわびました。仕事が遅くまで終わらなかった時は「ありがとう。助かった」と言って10ルピーほどですがポケットマネーから渡したり、たまには食事をおごったりすることもあります。

 一緒に働いていて、うれしいこともあります。ある日、従業員の控室で昼食を食べていたときのことです。自分より1歳年下の古参のスタッフが「給料は上がらないのか」と話しかけてきました。二人きりだったので、ラーメン店の経営が厳しいこと、他の事業で巻き返しを図っていることを正直に説明しました。そして「いつかお前にも責任あるポジションについてもらう。それまで俺たちと夢を追いかけてくれないか」と語りかけました。

 そうしたら、そのスタッフが「給料が少なくてもジョーについていくよ」と言ってくれたのです。その言葉を聞いて胸が熱くなりました。

 彼らは地方から出稼ぎに来ていて、より高い給料を求めて転職を繰り返すのは当たり前です。それでも彼が残ってくれたのは、信頼関係が築けたからだと思っています。

■人生は一度きり、可能性に全力で

 インドに来る前の構成作家の仕事は3年間していました。女優の及川奈央さんのネット番組を担当したこともあります。

 大学は、東京福祉大の教育学部です。もともとは障害がある子どもたちの教育に関心がありました。小学校と特別支援学校の教員免許も取りました。しかし、2年生の時に「このまま教員になっても子どもたちのためにならない。色々な経験をして自分をもっと高めたい」と思い、まずは教師とは違う道に進もうと決めました。芸能界にも興味があり構成作家になりました。

 今は大学入学当初考えていたのとは、まったく別の道を歩んでいますが、教育学部で勉強しておいてよかったなと思っています。もちろん従業員は生徒ではないのですが、彼らの心をどう引きつけたら良いのかを考えるときに大学で学んだことを思い出します。厳しくするだけではなく、たまには一緒にふざけることも大切なんです。

 昼食は、スタッフが自らカレーを作って食べています。たまに私もその輪の中に入ります。重要なのはみんなと同じように手で食べること。「ジョーは我々の文化を尊重している」と感じてくれていると思います。本当はすごく辛くて、顔から汗が噴き出し涙も出ているんですけど、一言「このカレーとても甘いな」。このギャグでみんなと一緒に笑っています。

 教員になることをやめたわけではありませんが、今は目の前のラーメン店の運営をがんばりつつ、構成作家時代の人脈を生かした芸能関係の仕事にも挑戦しはじめました。及川奈央さんや国内外で活躍するお笑い芸人のぜんじろうさんを店に招いてイベントをしたり、ネットで音声を配信するポッドキャストやユーチューブで日本人に役立つインドでの生活情報を発信したりしています。「人生は一度きり」がモットーです。自分が今できること、楽しいと思えることを全力でやることで人生の新たな可能性が出てくると思っています。(聞き手・山本晋)

朝日新聞社