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戦力外通告は新しい自分に出会うチャンス…元DeNA・高森勇旗氏が著書に込めた思い

2/13(火) 12:02配信

スポーツ報知

 元DeNA内野手の高森勇旗さん(29)による著書「俺たちの『戦力外通告』」(ウェッジ、1404円)は過去になかった「戦力外になった男が、戦力外になった男に聞く」インタビュー集だ。88年世代で田中将大、坂本勇人らとは同期入団。6年間のプロ野球人生の大半を2軍で過ごした自身の経験をもとに、戦力外通告の現場をリアルに描く。現在はコンサルタント業を営む高森さんに、この本に込めた思いを聞いた。(加藤 弘士)

 幼い子供を抱きながら涙を流す妻の姿―。戦力外通告と聞いて連想するのは、そんな光景ではないだろうか。しかし、高森さんは書く。戦力外通告は環境を変え、新たな自分の可能性に出会うチャンスである、と。

 「ネーミングにインパクトがありますからね。『通告』の方が強烈ですから。『戦力外のお知らせ』なら、ここまで人の心に響かない。でも一つの節目が来たということ。取材してみて、みんなそうでした。決して悲しいことじゃないと表現したかったんです」

 同書は2部構成。第1章は自身が受けた戦力外通告。第2章は井川慶、石井琢朗、中村紀洋ら25人の戦力外通告を受けた人たちを丁寧にインタビューしたものだ。大物の懐に入り、本音を引き出す取材者としての技量は見事だが、6年間で1軍出場2試合の“2軍選手”であった自身の体験記が、とにかく面白い。

 高卒3年目の09年秋、イースタンで最多安打に輝き、1軍でも初安打を放った高森さんは最大のピンチに見舞われる。同じ左打ち、当時は内野手だった横浜高の黄金ルーキー・筒香嘉智の入団だった。

 「誰かが試合に出るということは、誰かが試合に出ないということ。その時、チームに左打者は多数いましたから。開幕直前に『明日から2軍だ』と言われて。春先、2軍の8試合で4本塁打を打ったんですが、1軍に上がれない。そのうち、2軍でも使われなくなって」

 2軍では同期の梶谷隆幸が遊撃、北篤が二塁、新人の筒香が三塁で固定され、高森さんはスタメンから外れた。当時22歳。若かった。一番いい時なのになぜ使ってくれないんだ。情熱はうせ、ふてくされた。そんな姿を叱ってくれる意外な人がいた。対戦する巨人の岡崎郁2軍監督(現スカウト部長)だ。10年7月、横須賀でのイースタン湘南・巨人戦前。打撃練習を終えると、巨人ベンチに呼ばれた。

 「『高森、ちょっと来い』って。その前に交流が全然ないのにですよ。でも、僕のことを見てくれていた。『お前、どうした?』と全て悟っている感じで。『プロっていうのはいろいろあるんだよ、チーム事情が。腐っているんじゃない。高く飛ぶには一度、しゃがまなきゃいけないだろう』と20分くらい話してくれて。『この人は全部分かっているんだ』と感動しました」

 当時の2軍監督は田代富雄氏(現巨人2軍打撃コーチ)。この年の秋、寮の中庭でバーベキューを開き、クビが迫った選手にこう伝えたと高森さんは記す。「俺たちはみんな、いつか野球を辞める時が必ず来る。その時はどうか、『この世界に入ることができた』ということに誇りを持って、胸を張って辞めていってほしい」。戦力外通告を受けられるのは、プロに入れた選ばれし者だけなのだから―。

 「田代さんはクビになりそうな選手へ『お前らの姿を若手は見ている。頑張れ』と勇気づけてくれた。そうするとみんな一塁へヘッドスライディングしたり、一生懸命やるんですよ。本当に素晴らしい方でした」

 高森さんは今、球界と離れ、コンサルタント会社を経営する。これまで約25社にコーチングを行い、現在は8社の14プロジェクトに関わる。

 「業務は企業でコーチングを行い、これまでにない成長をサポートすることです。経営者や幹部の方々に、この事業でどうやって成果を出すのかを、具体的にKPI(重要業績評価指標)を分解し、そこに対して何をどのくらい投資するのか、なぜそれをやるのか、期待を一つ一つ合意して、最終的に文化として根付いていくようなサポートをします」

 プロ野球での成功は果たせなかったが、弱肉強食の中でもがいた6年間があるからこそ、今を楽しめる。

 「プロ野球はすごい、ヤバい、エグい人たちの集まり。そして逆境をいかに受け入れて、その場所でどれだけ頑張れるかが大事だということを、たくさん体験した6年間でした。本当にプロ野球に入れて良かったと今、胸を張って言えます」

 ◆高森 勇旗(たかもり・ゆうき)1988年5月18日、富山・高岡市生まれ。29歳。中京高(岐阜)では1年夏から正捕手。06年高校生ドラフト4巡目で横浜入団。2年目の08年にはイースタンでサイクル安打達成。3年目の09年にはイースタンで最多安打。ビッグホープ賞を獲得。12年オフに戦力外通告を受けて引退。現在は「(株)HERO MAKERS.」の代表取締役としてマネジメントコーチ業に従事。今春から文春オンラインの野球コラム「文春野球」にも参戦する。

最終更新:2/14(水) 6:25
スポーツ報知