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NEM流出の衝撃 世界に誤解招いた国の“お墨付き” 登録制導入で安心感

2/13(火) 7:02配信

SankeiBiz

 ■登録制導入で安心感、資金流入

 仮想通貨「NEM(ネム)」が約580億円相当流出した仮想通貨交換業者コインチェックに、金融庁が業務改善命令を出した1月29日昼。「迅速に命令が出せたのは登録制を導入したからだ」。東京・霞が関の合同庁舎7号館の一室で同庁幹部はこう、うそぶいた。

 その4日後の2月2日午前7時50分。雪交じりの悪天候の中、コインチェック本社が入る東京・渋谷のビルに金融庁の検査官10人が通用口から入った。

 13日までの再発防止策の報告を待たずに検査に入る異例の措置だが、「検査官はもともと地銀などの担当で、畑違いの寄せ集め集団」(同庁関係者)。金融業界では、監督体制の不備を危ぶむ見方も強い。

 ◆中国規制強化が拍車

 2014年、世界最大級の仮想通貨交換所だったマウントゴックスの運営業者が仮想通貨ビットコインの大量消失で破綻。これを受け、国内の仮想通貨交換業者には昨年4月、改正資金決済法により世界初の登録制が導入された。利用者保護やテロ・犯罪組織による仮想通貨の悪用防止が狙いだ。安全管理など100以上の項目を登録の審査基準としており、登録業者以外は原則、仮想通貨の取引サービスが提供できなくなった。

 取引履歴を追跡できない「匿名コイン」は、マネーロンダリングやテロ資金の温床になる恐れがある。コインチェックが取り扱う銘柄「Monero(モネロ)」もそうしたコインの一つで、北朝鮮との関係を疑われており、金融庁がコインチェックの登録を許可しない一因ともされる。

 ただ、登録制の導入前から運営していたコインチェックを含む審査中の業者も、安全対策などの行政指導を前提に「みなし業者」として暫定的に業務を継続することが認められている。今回の問題は、こうした措置が裏目に出た形で「みなし業者が営業を続けてしまったことは問題」(法政大学大学院教授の真壁昭夫)などと、問題のある業者を“野放し”にしてきた金融庁の責任を問う声も上がる。

 登録制は世界に対して“誤解”も与えた。「国が仮想通貨にお墨付きを与えた」との安心感が広がり、海外を含む個人投資家の資金が日本の交換所に流れ込む動きを加速させた。

 これに拍車をかけたのが中国当局の規制強化だ。昨年9月、企業や個人が独自の仮想通貨を発行する行為を、経済秩序を混乱させる「違法な金融活動」として禁止。今年1月には中国人民銀行(中央銀行)が仮想通貨の取引自体や関連サービスを禁じるよう見解を示した。

 ◆「安全性向上の契機」

 中国国内の主な交換所は閉鎖され、中国人投資家は公然と仮想通貨取引ができなくなったが、仮想通貨に詳しい大和総研研究員の矢作大祐は「抜け道が存在する」と語る。そこで使われているのが「Tether(テザー)」という仮想通貨だ。

 テザーは交換所ではなく、ネットの掲示板などで売りたい人が値段を提示し、欲しい人が申し込む相対取引で交換されているケースが多く監視が難しい。知名度の低さも助けとなり、中国人投資家は当局の目をかいくぐって人民元をテザーに換え、テザーをさらに他の仮想通貨に換えることで、今もさまざまな仮想通貨の売買を継続。その際、日本の交換所も使用しているとみられている。

 今回の問題は今後の仮想通貨取引にどう影響するのか。慶応大SFC研究所上席所員の斉藤賢爾は「価格下落で事業者が撤退し仮想通貨は衰退する」とみる。

 だが、コインチェックの巨額流出から間もない1月31日に、仮想通貨事業への参入を表明したLINE(ライン)取締役の舛田淳は「仮想通貨や、(基幹技術の)ブロックチェーンは、インターネットと同じくらいの社会的インパクトを残せる」と強調。ある仮想通貨交換業者幹部は「仮想通貨は送金やインターネットでの経済圏の拡大など、いろんな潜在性を秘めている」と期待をかける。

 関係者の間では「今回の件がブロックチェーン技術や(不正をした)犯人の追跡技術の発展、安全性向上に必ずつながる」(カレンシーポート代表取締役の杉井靖典)との見方もある。

 仮想通貨の可能性を引き出すには、利用者保護などの規制や業者の健全性向上、利用者の向き合い方などを改めて見直す必要があるのは間違いない。

 日本仮想通貨事業者協会会長の奥山泰全は訴える。

 「仮想通貨をマネーゲームの温床で終わらせてはいけないはずだ」(敬称略)

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 ◇おことわり

 コインチェックの仮想通貨流出問題で、同社を「仮想通貨取引所」などと表記してきましたが、今後は仮想通貨を円などの法定通貨と交換する事業者を「仮想通貨交換業者」とします。2017年4月施行の改正資金決済法では、こうした事業者を「交換業者」と表記しており、金融商品取引法に基づく免許を受けて運営する株式の証券取引所と明確に違うためです。海外の事業者についても同様の表記とします。仮想通貨を交換する場所を示す場合は「仮想通貨交換所」とするケースもあります。

最終更新:2/13(火) 7:26
SankeiBiz