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妻が女の子に…小室哲哉さんが明かした家族追い詰める「高次脳機能障害」つらさと苦労

2/13(火) 10:10配信

産経新聞

 週刊誌の不倫疑惑報道を受けた音楽プロデューサーの小室哲哉さん(59)が1月19日に開いた記者会見で引退を表明した際、くも膜下出血で倒れて療養中の妻で歌手のKEIKOさん(45)が「高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)」であることを明かした。介護の苦悩を吐露する小室さんに、ネット上では介護のつらさや苦労に共感する声が広がっている。高次脳機能障害とはどんな障害なのだろうか。

 小室さんがKEIKOさんと結婚したのは2002年。11年にKEIKOさんがくも膜下出血で倒れた後は、小室さんが献身的に介護する様子がたびたび報道された。引退会見のなかで小室さんは、KEIKOさんの病状について次のように明かした。

 「高次脳機能障害とか、脳のちょっとした障害ということで、少し欲がなくなってしまったりとか、女の子みたいな優しげな性格になりました」

 「脳のどこの部分がつかさどっているのか分からないのですが、音楽には興味がなくなってしまって。ほぼ歌うこともなくなりました」

 「今は小学4年生ぐらいの漢字のドリルを楽しんでやったり。すべてがそういうレベルというわけではないのですが、大人の女性に対してのコミュニケーション、会話のやりとりができなくなって」

 東京慈恵医科大付属第三病院(東京都狛江市)リハビリテーション科の渡辺修教授によると、人間の脳は注意を払ったり、記憶したり、相手の気持ちをおもんぱかったり…と高度な働きをしている。「高次脳機能障害は、病気や交通事故などによって脳が損傷し、記憶力や集中力の低下などが起こってしまっている状態です」と渡辺教授。

 原因で最も多いのは、脳卒中だ。なかでも、脳の血管が詰まる「脳梗塞」が多く、「脳出血」や「くも膜下出血」でも起こる。また、交通事故などによる「脳外傷」のほか、「低酸素脳症」「脳腫瘍」も原因となるという。08年に東京都が発表した実態調査によると、都内の高次脳機能障害者数は推計約5万人にのぼった。60歳以上が67・4%と推計されている。「日本全体では、50万人以上存在するとみられています」(渡辺教授)。

 高次脳機能障害の症状は、脳の損傷した部位や大きさによって症状が異なる。主な障害は次の通りだ。

 ・「注意障害」=物事に集中できない▽ぼーっとしてしまう

 ・「記憶障害」=新しいことが覚えられない▽昔のことが思い出せない

 ・「遂行機能障害」=自分で計画して行動ができない

 ・「社会的行動障害」=感動や行動を調節したり、抑えたりすることができない。具体的には、やる気がわかない▽自分のことが分からない▽相手の気持ちが分からない▽怒りやすい

 渡辺教授は「症状は重複していることが多く、障害の状態は個人差が大きい」と指摘する。さらに問題となっているのが、本人や家族も症状に気づきにくい点だ。「見えない障害」と呼ばれるゆえんだ。「手がまひするなどの身体障害なら、本人も周囲も気づきやすい。高次脳機能障害は、外見上は目立たず本人も周囲も気づきにくいんです」と渡辺教授。症状に気づくのは退院後が多いという。入院中は、やることが決まっていて、看護師やスタッフのケアを受けられるからだ。その後、体がある程度回復して帰宅し、日常生活が始まると、障害に直面する。

 たとえば、記憶障害があるなら、髪を洗ったことを忘れてしまうため、繰りかえし、洗ってしまう。空間認識能力に障害があると、洋服をうまく着ることができなくなってしまうこともある。本人も家族も理由が分からずに戸惑い、トラブルになることも少なくないという。

 実際に、介護する家族の負担は、重くなりがちのようだ。都内の家族会など約30団体で作る、NPO法人、「東京高次脳機能障害協議会」(東京都港区)の細見みゑ理事長は「本人が障害に気づかないので、困っていても支援を求めない。何をしてあげたらいいのか分かりづらいのが、介護する側にとって辛い」と話す。細見さんも介護経験者だ。1997年に交通事故によって長男が高次脳機能障害になっている。

 細見さんは「介護側が、気をゆるめられる瞬間はなかなかありません。たとえば、出されたら食事をすることはできるけれど、自分では用意ができない。つまり、1人で生活することが難しい。自分がいる場所を判断できない『地誌的障害』があれば、家の外に出ても1人では戻ってこれない。介護する家族が目を離すことが難しいのです」と明かす。

 小室さんは、会見で次のように語った。「あきらめないことが精神的サポートなんだと重々承知の上だったんですが、僕も疲れてしまったところは、3年ぐらい前からあったと思います」。ネット上では「私の母も高次脳機能障害なので、介護するのに精神的な負担がどれほど大きいか分かる」「小室さんの気持ちが痛く刺さります。会話が成立しないって本当に辛いものです」などと、小室さんに共感する声があがった。ただ、高次脳機能障害は、回復スピードに個人差はあるものの、よくなっていくという。

 渡辺教授は「完全に元には戻りませんが、ゆっくりと回復していきます。焦らないことが大切。環境を整えてあげてほしい」と話す。小室さんによるとKEIKOさんは「非常に正常になるときが年に数回あります。そのときに『私、普通じゃないよね』ということを言ってくれることもあります」という。周囲が障害を理解し、共感する姿勢を見せることも大切だ。また、得意なことと苦手なことを把握し、対応策を講じておく。

 たとえば、記憶障害があるなら、本人は、メモ帳に書く癖をつける▽日記に書く-などが考えられる。周囲は、何かを伝えるときには言葉だけで説明するのではなく、メモ書きにする-などの対応ができる。働き盛りで障害を持つ人もいるが、渡辺教授は「適切な支援を受けた上で、医療側から就労先への情報提供を行い、仕事が決まったこともあります」と話す。「4~5人に1人が脳梗塞になるといわれています。高次脳機能障害は誰もがなる可能性がある。周囲は温かな視線で見守ってほしい」と渡辺教授は言う。

 高次脳機能障害について支援を受けられる拠点が、全国に整備されている。国立障害者リハビリテーションセンターのホームページでは、全国の相談窓口を紹介しているので参考になる。また、介護する側の家族にとって、大きな支えになるのが家族会だ。細見さんは今もさまざまな家族会に足を運んでいる。「ご家族や当事者が来ていて、希望が持てました。個人差があるものの、将来的にはこれくらい回復するかも、と見通しが立てられます」と振り返る。

 細見さんは「回復のための社会資源はある。孤立せずに、支援拠点の相談窓口や自治体の障害福祉課などに相談に行ったり、自分に合った家族会に参加したりして、知識を身につけ、うまく活用してほしい」と話している。小室さんは、会見を次のような言葉で結んだ。「この10年で介護の大変さなどに触れてきました。僕1人の言動で社会が動くとは思っていませんが、こういったことを発信することで、何かが響けばいいなと思っています」(文化部 油原聡子)

最終更新:2/13(火) 12:54
産経新聞