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商船三井社長、「遅ればせながら、お客様の声を聞き始めまして」

2/13(火) 11:04配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る 池田潤一郎商船三井社長(2)

 ――昨年、2017年度から始まる新経営計画「ローリングプラン2017」を発表し、「商船三井グループの10年後のありたい姿」を示しましたね。これに池田社長は、どのような思いを込めているのでしょうか。

 経営環境が大きく変化したことが大前提です。右肩上がりで成長するという2008年のリーマンショックまでの基本シナリオは、合わなくなりました。このため経営計画の立て方を、変えなければいけないと考えたわけです。

 以前は、右肩上がりは所与のものと思っていたので、3年計画を一生懸命やるという連続でよかったのです。先行きはそんなに変わらないというのが前提で、キーワードは「成長」でした。

 ところがリーマンショック後、スロートレードの動きとか、化石燃料はどうなるのかといった問題が出てきました。今や、何が起きるかわからない変革の時代ですから、単純に次はこのシナリオだとは決めかねます。

 だけど、わからないなりに、頭をしぼって10年くらい先を考えて、最善と考えられる進むべき方向はこっちかなという具合に決めたのです。

 ただし、具体的な事業のために、10年先を見据えて、取り合えず足元3年の行動計画を決めますが、これは毎年見直します。

 ――先はわからないと言ったら、身もふたもないですね。

 船は15年か20年使えます。この船を造ろうと決めても、出来るのは2年先くらいで、それから15年くらい動くとすると、私が今決めた船が儲かるかどうかわかる時に、実は私はいないのです。

 船への投資は10年先を考えないと決められないわけです。つい足元のマーケットがいいと、造ろうとなりがちですが、それだけではもう決められません。だから我々の目線を常に、足元の2、3年ではなくて、10年先に向ける癖をつけなくはいけないと思っています。

 ――「10年後のありたい姿」は3つの柱を立てて、まず世界中の顧客に「使い勝手がよくストレスフリーなサービス」を提供するとあります。

 我々は伝統的に、船を造っておけば、それでいいという考え方があるんです。あとはA地点からB地点に荷物を運びますというだけ。これは我々が提供する揺るぎない基本的バリューですが、それが全てなのか。

 海運業はシンプルなビジネスなので差別化できる要素がほとんどないと、言い訳も含めてよく言うんです。船はどこで造ったって同じだし、何か違いがあるのか。結局、運賃で勝負となるわけです。

 実際にそうした歴史があって、コストが競争力を大きく決めると認識していますし、そこを疎かにでません。一方で、お客様が「海運なんてこんなもんだ。これ以上期待しても無理だね」と思っている部分もあるのではないですか。

 これまで、そこまでできませんという部分がありましたが、テクノロジーが進歩して、一歩踏み込んだサービスができるのではないか。それを一歩でも二歩でも競争相手より早くできれば差別化につながるとの思いがあるのです。

 我々は、お客様と長い歴史を積み重ねて、深くお付き合いしています。その関係をもとにお客様から要望を突っ込んでうかがえれば、新しいサービスのアイデアを出せるのではないか。運賃競争とは違う世界があると言いたいのが、ストレスフリーのサービスを目指す意味なんです。

 ――長い付き合いの顧客なら「特別なことは要らない。荷を運んでくれればいいよ」という意見もあると思いますが。

 「AからBにちゃんと運んでくれればいい」と、明確に言うお客様もいます。ですが、中には「もっとやってくれ」と言うお客様もあるのです。

 長い付き合いに、あぐらをかいていると、お客様は3社、4社の船会社を使っていますからね。この海運会社は使い勝手がいいし安全品質も高いとなると、「そっちのシェアを50%に増やそう」というお客様もいます。油断するとズルズルと減って、荷物が無くなりましたということが往々にしてあり得ます。

 ――「ストレスフリーのサービス」とは具体的に何ですか。

 例えば、鉄鉱石や石炭などを船から降ろすとき、ストックヤードが狭いと一気に降ろせないので、船の大きさに影響します。また大きな船を使う場合は、どこかにいったん降ろして、分けて運ぶとか、こちらからアイデアを提案する場合があります。

 荷物が水分を含みすぎていると、鉄鉱石の場合、陸揚げすると真っ赤な水が流れ出して、沿岸の方に迷惑をかけます。だったら輸送中の荷物の状況を連絡して、前もって対策を講じてもらうとかですね。

 ――顧客のニーズをよく聞けば、いろいろ出てきますね。

 現場には、全てもうやっているという感覚があるようですが、どうもそうではないのではないか。お客様の側でも、物流全体を見ている方々は、こういうことを海運ができればいいのだがと考えているのではないでしょうか。

 不思議かもしれませんが、我々は顧客調査を会社としてやったことがないのです。1回やってみようと、主要なお客様に調査会社を使って聞き取り調査をしました。

 辛らつなご意見がいろいろ出てきましてね。中間報告をもらいましたが、担当が「まだ全部を見ないでください」と言うのです。「見ると、あなたは言いたがるだろう。『何々部はお客様がこんなことを言っているのに、知らなかったのか』とね」(笑)。モチベーションが下がるというわけです。

 消費者を対象にした業界の方にすれば「そんなこと、やっていなかったの」ということですが、お客様の声をしっかり聞いていこうと思います。

■聞き手 森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:2/13(火) 11:04
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