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家事代行サービスは「家事をしすぎている日本女性」を救えるか?

2/14(水) 7:51配信

ITmedia ビジネスオンライン

 日本の女性は家事をしすぎている。女性の社会進出は進んでいても、家事の時間は15年間でほとんど減っていない。しかも負担の男女差は1:5と非常に大きく、「共働きでも夫は家事をせず、妻ばかりが家事をしている」という状態。子育て世帯の国際比較を見ると、日本の男性の家事分担率は世界最下位だ。

【画像】日本の女性の家事時間

 政府は「女性活躍」を推進しているが、家事の負担は活躍を妨げる大きな“重石”の1つ。その対応策として注目されているのが家事代行サービスだ。家事代行サービス「CaSy(カジー)」を運営するCaSyの加茂雄一CEOに、日本の家事代行のイマを聞いた。

●「逃げ恥」効果は?

 2016年には家事代行サービスをきっかけに出会った男女が契約結婚をするドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」が大ヒット。監修を行ったベアーズでは、スタッフに応募する人が増えたなどの効果があったという。加茂さんも「『逃げ恥』効果はあった」と語る。

 「ドラマ開始当初と最終回のタイミングを比較すると、申し込みは1.5倍ほどになりました。家事代行サービスの存在を知らない方や、興味を持っていたが踏み切れなかった方に、初めの1回を利用してもらうきっかけになりました」

 とはいうものの、まだまだ家事代行を使ったことがある人は多くはない。利用の壁になっているものはなんだろうか。加茂さんによると、男性と女性で理由が異なる傾向があるのだという。

 「男性……特に1人暮らしのビジネスパーソンの場合、『自分の時給』を考える方が多いようです。CaSyは1時間2,000円台のサービスなので、自分の時給や自分でやった場合の手間やクオリティーを比較・検討し、割に合うと思ってもらえれば利用していただけます。女性の場合は、『家事は私がやらなければいけない』という責任感や、『家の中に知らない人を入れたくない』という感覚によって、ニーズはあっても利用に至らないことがありますね」

 中には“夫ブロック”が発生するケースも。家事を妻に任せきりにしている夫が、自分でやらないために家事の大変さを分からず「家事なんて簡単。すぐにできることに2000円以上掛かるのは高い」と妻の要望を却下することもあるのだという。

 しかし加茂さんは「かつては介護も家の中だけで行われていましたが、少しずつプロの手を借りることが一般的になっていきました。周囲が家事代行を使うようになっていけば変わっていくはずです」と希望的だ。日本での家事代行サービスの利用率は2%未満にとどまるが、女性の社会進出が進んでいるシンガポールでは25%以上。日本もシンガポールのように変わっていく可能性はある。

●自身の経験から生まれたサービス

 CaSy自体、加茂さんの経験から生まれたサービスだ。

 加茂さんは公認会計士として働き、100社以上のベンチャー企業を見ていく中で「世の中のためになるサービスを作りたい」と考えるようになった。ビジネススクールに入り、新規ビジネスプランをチームで考える授業を受けた。その時、たまたま同じテーブルに座り、チームを組んだ相手――池田裕樹さんと胡桃沢精一さんの3人で、のちにCaSyを創業することになる。

 「池田と胡桃沢と一緒に、徹夜でビジネスプランを数百個考えました。念頭にあったのは『自分たちが一番欲しいサービスがいい』。僕たち3人は偶然同年代で、結婚していて、共働きでした。平日は深夜まで仕事をしていて家事をする時間がなく、家事は土日に分担して片付けてはいるけれど……そんな日々を送っていたんです」

 共働き家庭での家事の負担は大きい。3人に共通していたのは、家事代行サービスの利用経験があるということだった。加茂さんの場合、家事を任せきりにしていたが、妻の妊娠を機に家事をするようになる。

 「全然ダメで、うまく回りませんでした(苦笑)。家事代行サービスを利用することで、ようやく家族の時間を確保できるようになりました」と振り返る。しかし「料金が高い」「使い勝手があまりよくない」といった不満を抱くことがあったという。

 自分たちが使いやすい家事代行サービスを作りたい――3人の“欲しいサービス”が一致し、テーマが決まった。13年7月に授業がスタートし、9月にクラスで発表。最高評価を獲得し、ベンチャーキャピタルから出資の声がかかった。そして翌1月、会社を設立。6月にはサービスを開始した。出会いから約半年のスピード起業だ。加茂さんが会計士、池田さんが大手SIerのエンジニア、胡桃沢さんが大手証券会社勤務と、3人の得意な分野が分かれていたこともプラスになったと加茂さんは話す。

 「妻に反対されたらどうしようと思っていたのですが、起業について相談すると『いいんじゃない?』と。むしろサービス設計について意見をどんどん出してくれました。CaSyのサービスは、僕たち3人の考えが3割ぐらいで、残りの7割は各家庭の妻からの意見でできています」

●「徹底的なシステム化」で実現した低コスト構造

 CaSyが目指しているのは、「時間がなくて忙しい人をサポートすること」。できるだけ手間をかけずに使ってもらうために、料金を抑えつつ、Webサイトかスマホアプリだけで簡単に申し込めるようにした。電話をかけることなく申し込めるのは、日中仕事に追われているユーザーに好評だ。

 もともとは共働きファミリーの利用を想定していたが、ふたを開けてみると1人暮らしの男女の利用も多かった。現状はファミリーが6割、1人暮らしが4割。一番申し込み多い層は、共働きで子どもが小さい30~40代の女性だという。

 「家事代行サービスの認知度は上がってきていますが、『料金が高いから、自分でやったほうがいい』と思われるのが1つの“壁”になっています。低料金を実現するために、低コスト構造を作ることが必要でした」

 家事代行サービスは、実際に家事作業をするスタッフ以外にもコストがかかる。CaSyはシステムを構築することで、営業やマッチングをするために必要なスタッフ数を最小限にした。評価データやスタッフの日報などから、申し込み者に合ったスタッフをマッチングする仕組みだ。利用者が増えれば増えるほどデータは増えるので、精度は上がっていくのだという。

 「家事代行業界は、システム化があまり進んでいませんでした。スタッフとお客さまとのマッチングを“人力”で行っているところがほとんどです。現場でのやりとりもノートなどでアナログ管理されているので、問題が起こったときに対処しづらいこともある。マッチングや評価をシステム化したり、メールを自動化したりすることで、社員1人あたり150人のスタッフをマネジメントできる低コスト構造を作りました」

 スタッフの教育コストも、家事代行サービスにおいては負担が大きい。当初はシンプルなマッチングプラットフォームにすることも視野に入れたが、「『変な人が家に入ってくるのは不安』という妻の意見を取り入れました」という。しかし大きなコストはかけられなかったため、当初、面接や研修会場は加茂さんの自宅で行った。研修マニュアルも、登録したスタッフと一緒に作り上げていったという。

 現在は教育も仕組み化。スタッフに10段階のランクを設定し、一定以上のランクになると面接や研修が担当できるようになっている。スタッフは面接や研修を一件担当するごとに報酬を得られ、管理側も教育のための専任スタッフを最小限にできるというメリットがある。

●新しい働き方を提案

 CaSyのスタッフの平均年齢は30代後半。主婦が全体の3~4割だが、ダブルワーカーや学生もいる。「子どもが小学校に上がって時間の余裕ができた。いつもやっている家事のスキルを生かして、隙間時間で働きたい」というニーズに応えているという。

 スタッフからは「家事を家庭でやっていても『ありがとう』と言ってもらえないが、お客さんからは感謝の言葉があって、しかもお金がもらえる」という声が寄せられているそうだ。Uberが「運転スキル」に注目して新しい労働力を発掘したように、家事代行サービスには「家事スキル」を持った層に新しい働き方を提案する側面もある。

 しかし家事代行サービス業界は、現時点でも有効求人倍率は4倍と、労働力が不足している。サービスの担い手が足りず、良い人材の取り合い状態になっている。CaSyは「働く環境を自分で選べる」ことをアピールしつつ、「スタッフの話をしっかり聞く」「相談会などのスタッフ向けのイベントを定期的に開催する」などを行っている。加茂さんは「既に働いているスタッフの紹介から募集が来ることが多い。主婦がストレスなく働ける環境を作ることが、人材を確保することで重要です」と話す。

 「僕たちのビジョンは、家事代行を一般的にすることです。まずは家事代行を知ってもらって、使ってもらいたい。その時にサービスの質が低ければ、『もう使わない』と思われてしまう。ビジョンの達成のためにも、良いスタッフを育てる努力は欠かせないですね」