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AIの勉強をする必要はない。AIが向こうからやってきてくれるから。

2/14(水) 14:28配信

ITmedia エンタープライズ

 Googleが、AIの知識がなくてもAIを活用できるというサービスを始めました。

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・Google、データさえあれば素人でもAIを構築できるサービスを展開

 つまり、AIを使うためにAIを勉強する必要がなくなったということです。

 これはコンピュータの歴史からいって、正常な進化といえるでしょう。技術は必ずコモディティ化するからです(AIのコモディティ化の速度は過去に例がないほどに速いとは思いますが)。2017年あたりは、どんどんAI技術が進んで、一般の人がそれについていけずに不安になるという状況が出始めました。しかし、技術の方から人間に歩み寄ってきてくれているのです。

 もちろん、お仕着せの解析だけでは他社との差別化ができないような、競争の激しい業界では別の話でしょうが、AI利用のハードルが下がることはよいことです。今後はこれがさらに進み、さまざまなサービスにあらかじめ(見える形でも見えない形でも)AIが組み込まれているという状況になっていくでしょう。

●Ponanza開発者が言う「技術的失業」とは

 そんなおり、2017年の「将棋電王戦」で人間の名人に初めて2連勝した将棋ソフト「Ponanza」の開発者である山本一成さんが、ブログに次のような記事を投稿しました。

・Alpha Zeroの衝撃と技術的失業

 「Alpha Zero」は、2015年に人間のプロ棋士を破った「Alpha Go」の最新バージョンです。冒頭に紹介したGoogleのAI構築サービスとは直接関係はないとは思いますが、この時期にこういった「AIの自動化」の話が重なったのは、偶然ではないように思います。

 山本さんによると、Alpha Zeroは「“人間流”、以前の“コンピュータ流”とは異なる“第3の道”」を歩んできたということです。Alpha GoもPonanzaも「以前のコンピュータ流」に分類されます。過去の棋譜を大量に読み込ませて学習させ、コンピュータ同士を対戦させることで強化するのです。しかし、Alpha Zeroとその原型であるAlpha Goは、過去の棋譜は読み込まず、いきなり自分自身との対局を行って強くなっていったということです。

 山本さんはこれを「Alpha Zeroは強いだけではなく、全く異なる思考方法でチェスと将棋の山を登ってきた」と表現し、自らについて「多分これが技術的失業なのだろう」とつづっています。これまで山本さん(を含むコンピュータ流の研究者)が極めようとしてきたアプローチとは全く異なるアプローチが圧倒的に有効であるという可能性が突き付けられ、この先はもう、これまでのアプローチの研究を続けることは無意味である(かもしれない)ということが提示された――それを「技術的失業」と表現したのではないでしょうか。

●もはやAIにビッグデータは必要ない?

 今は第3のAIブームといわれます。第1のブームが1960年代で、このときはパーセプトロンなどの現代につながる研究成果がありましたが、コンピューティングパワーが足りなかったり、アルゴリズムが成熟していなかったりして実用に足るAIは実現できませんでした。第2のブームが起こった1980年代には、人間の知識をルール化して推論を行おうというエキスパートシステムを目指しました。日本でも第5世代コンピュータプロジェクトが立ち上がりましたが、このときも目に見える成果を上げられませんでした。人間の知識は明文化できないものが多く、ルール化できなかったのが一因といわれています(ただ、このときに育った人材が今の日本のAI研究を支えているという見方もあります)。

 この反省に立って、人間がルールを作るのではなく、大量のデータからコンピュータが自動的にルールを生成して学習するという仕組みが生まれ、第3のブームにつながります。これが機械学習です。AIのために大量のデータ(ビッグデータ)が必要とされるのは、こういった理由からでした。

 しかし、Alpha Zeroの登場で、ビッグデータは必ずしも必要なくなるのかもしれません。もちろん、まだAlpha Zeroの適用分野は未知数であり、囲碁やチェスではなく、画像認識の分野では、まだビッグデータが有効といったことなのかもしれません。ただ、以前書いたように、画像認識の分野でも少ない学習データで成果を上げている例も出てきています(Alpha Zeroとは異なるアプローチと思いますが)。

 冒頭に紹介したGoogleのサービスは、面倒な設定をしなくても手持ちのデータを与えるだけで機械学習してくれるというところを自動化するサービスですが、おそらくAlpha Zeroの技術が一般化すれば、やりたいことを指示するだけで勝手にAIができてしまうことになるのかもしれません。「過去の例に倣う」ことで成長してきたAIが、自ら道を切り開き始めたということなのでしょう。これは、将来から今を振り返ったときに、大きな転換点だったということになるのかもしれません。