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【分析・埼玉県予算案 未来への投資】(上)AIで人口減・高齢化に挑む

2/15(木) 7:55配信

産経新聞

 「熟練技術が必要な『摘果』が人工知能(AI)で簡単にできれば、他の人にも頼め、かなり作業が楽になる」。こう語るのは梨農家を営む久喜市の鈴木靜(せい)さん(67)。県は平成30年度一般会計当初予算案に、不要な梨の実を間引く摘果を表示するAIメガネの開発費用を計上した。

 梨の木は1つの枝に8つの実が付くが、栄養を分散させないように1つだけを選ばなければならない。摘果作業は梨農家の大きな負担となっており、熟練者になるには最低でも2~3年の修業が必要だという。

 梨の生産量(28年)が全国で9位の県だが、梨農家の高齢化が進み、後継者不足が深刻化している。県はAIメガネを3年で実用化し、未経験者でも簡単に作業できる体制をつくり、新規就農者を増やしたい考えだ。

 県が13日に発表した同予算案は、こうしたAIやモノのインターネット(IoT)を活用した新規事業を目玉とし、「未来への投資」を大きなテーマとして掲げた。背景にあるのは、進展する人口減少と少子高齢化の波だ。

 現在、県の人口は731万人だが、47年に689万人まで減少する見通し。さらなる高齢化が見込まれ、人手不足も懸念される。このためAIの活用で生産性を向上させる取り組みが不可欠と判断したのだ。

 「良いところを突いている」と表情を崩すのは上田清司知事。県の先行きに危機感を強めていた昨夏、AIやIoTを活用した施策を各課で1本ずつ出すように指示していたが、約210件のアイデアが寄せられ、最終的に26件が採用された。関連予算として計14億円を計上した。

 特に重点を置いたのが中小企業への対応だ。すでに大手企業ではAIの導入が進んでいるが、中小企業は人材や資金が少ない。そこで人材育成や工場での活用調査に予算を計上した。

 このほか、産業技術支援センターで工場内の機械の故障をAIで診断するシステムを開発し、中小企業に導入を促す施策にも予算を付けた。渡辺充産業労働部長は「これらの施策で中小企業が抱える生産性の向上や人手不足といった課題を解消したい」と話す。

 一方、県も民間同様に人手不足や生産性の向上が大きな課題となっている。24時間の救急相談や県庁職員の問い合わせ業務でAIを活用した対話システムを開発する。上田知事は「行政サービスでAIの可能性は県民にとって大変有益なものになる」と大きな期待を寄せる。

 ただ、AIを活用した取り組みは始まったばかりで民間企業も手探りの状態。成果を出すには、まだ時間がかかる。三菱総合研究所の村上文洋研究員は「まずはAIを使ってみて、可能性や限界を把握し、その上でデータを蓄積する必要がある」と指摘する。

 人口減少や少子高齢化の進展が避けられない中で、県は未来への投資対象にAIを選んだ。多くの花を咲かすことができるのか、挑戦が始まる。

最終更新:2/15(木) 7:55
産経新聞