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【尊厳ある介護(29)】どうしても防げない事故以外は、徹底して防ぐ

2/15(木) 18:02配信

ニュースソクラ

防げる介護事故と、防げない介護事故

 「庭の掃除に行ったら、利用者の木川紀子さん(仮名、73歳)が、花壇の側で倒れていました。病院に行って受診すると右大腿骨頸部骨折で手術となり、入院されました」と、施設のスタッフから報告を受けました。

 木川さんは、軽い物忘れはありますが、コミュニケーションは良好です。日常生活は自立されており、骨粗しょう症はありませんでした。

 病院にお見舞いに行って、木川さんに「お庭で何をされていたのですか」とお聞きすると、「お花を見ようとしたら、足がもつれて転げたの」と言われました。木川さんは、お天気の良い日は、庭でお花を眺めるのが日課でした。

 不幸中の幸いですが、リハビリを頑張られたので、入院前と同じ状態で退院されました。

 私たちは、木川さんの転倒事故について会議を開きました。庭の構造に問題はなかったのか、転倒するような物が置かれていなかったのかなど様々な方向からスタッフと一緒に考えました。しかし、これまで庭で転倒した人もおらず、防止方法は見つかりません。

 そして、施設内外を自由に一人で出歩き、これまで転倒したことのない木川さんの事故は、予知できない防げない事故という結論になりました。

 念のため、スタッフはこまめに庭を見回りし、足元に鉢などが置かれていないか、水滴はないかなど確認をするようにしました。

 私たちの施設では、介護事故が起きた場合の「事故連絡票」と、事故につながりそうな時に書く「ヒヤリハット報告書」があります。この記録を通してスタッフ全員が情報を共有して、同じことを繰り返さないようにしています。

 けれども、木川さんのような防げない事故ばかりではありません。

 野村太一さん(仮名、82歳)の場合は、防げる介護事故でした。

 野村さんは、車いすを使用しています。ある日の入浴時、スタッフがシャワーチェアーに座っている野村さんの全身を洗っていたところ、野村さんが急に上体をのけぞりシャワーチェアーからずり落ちて、床に尻もちをつきました。その時、スタッフは1人で入浴介助を行っていました。

 すぐに、ご家族に連絡をして受診をしましたが、骨折はありませんでした。

 その後、ご家族に事故の経緯を説明してお詫びをしました。ご家族から、「心配をかけました。気にしないでくださいね」と言われ、そのお心遣いに返す言葉も見つかりませんでした。

 私たちは、野村さんの入浴時の介護事故について会議を持ちました。その話し合いの中で、以前にもシャワーチェアーに座っていた野村さんが、前のめりになって倒れそうになったことがあり、あるスタッフは、2人介助で入浴を行っていたことが分かりました。

 野村さんの以前の転倒リスクや、入浴介助の変更について一部のスタッフしか情報を共有していなかったのです。

 今後の事故の防止方法として、事故につながるような状況が発生した時は、その都度ヒヤリハット報告書を書くこと、介助方法などが変わった場合は、日誌に下線を引い
て目立つように記入し、さらに口頭で申し送りをすることにしました。
 介護事故にあわれた利用者や家族の肉体的、精神的苦痛を思うといたたまれなくなります。介護事故を起こしたスタッフも悩み、退職にいたることもあります。

 重要なことは、ヒューマンエラーなどが原因で生じる事故と、人が生活する上で回避できない事故は、分けて考えることです。

 これらを一緒に考えると、スタッフは防げない事故まで防ごうとして、いつも強い緊張感を強いられながら介護をすることになり、スタッフが疲れ果ててしまいかねません。

 私たちは、定期的に外部の講師などを呼んでKYT(危険予知トレーニング)を行い、防げる事故を、ゼロにすることを目指して研修をしています。

 それでも介護事故が起きてしまったら、誠意を持って利用者や家族に納得いただけるような説明をして、心からの謝罪することが大切です。

(注)事例は、個人が特定されないよう、倫理的配慮をしています。

■里村 佳子( 社会福祉法人呉ハレルヤ会呉ベタニアホーム統括施設長 )
法政大学大学院イノベーションマネジメント(MBA)卒業、広島国際大学臨床教授、前法政大学大学院客員教授、広島県認知症介護指導者、広島県精神医療審査会委員、呉市介護認定審査会委員。ケアハウス、デイサービス、サービス付高齢者住宅、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護事業所などの複数施設の担当理事。今年10月に東京都杉並区の荻窪で訪問看護ステーション「ユアネーム」を開設。

最終更新:2/15(木) 18:02
ニュースソクラ