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グリーが家庭用ゲーム市場に参入、ゲームビジネスのキーパーソン荒木英士氏にその理由を聞く

3/9(金) 12:02配信

ファミ通.com

文・取材:古屋陽一

 既報の通り、グリーが家庭用ゲーム市場に参入することを決定。第1弾として、Nintendo Switch向けに『釣り★スタ』を2018年内に発売することを発表した。2004年の創業以降、ソーシャルゲームなどで一世を風靡してきたグリーが見据えるつぎなる戦略とは? 同社にてゲーム事業を取り仕切る、取締役 上級執行役員の荒木英士氏に、家庭用ゲーム市場参入の理由や今後の展望などを聞いた。





グリー
取締役 上級執行役員
Wright Flyer Studios事業統括
荒木英士氏(文中は荒木)


家庭用ゲーム市場への参入はユーザーとの接点を広げるという決意表明

――家庭用ゲーム市場に参入するにいたった経緯をお教えください。

荒木 グリーでは、これまでフィーチャーフォンからiOSやAndroidなどのモバイル端末向けを中心にタイトルを開発してきました。しかし、ゲーム事業の今後の戦略として、“より多くの方におもしろいゲームを遊んでいただきたい”と考えたときに、グローバルに地域を広げていくことと同じように、プラットフォームを広げるという意味で、家庭用ゲームに参入するというのは、自然な判断でした。

――これまでグリーは、家庭用ゲームへの取り組みは慎重だったようにも思うのですが。

荒木 ここ2、3年をかけて社内でいろいろ議論して改めて共通の認識として至ったのは、グリーとして“ゲーム事業はいままで以上に本気に、腰を据えてやっていかないといけない業界だ”ということです。IP(知的財産)を育てるという意味でもそうですし、開発力をつけるという点でもそうです。「いま盛り上がっているからやろう」というような判断で通用するような業界ではないことを改めて認識しておりまして、「ゲーム業界で長くやっていく」という思いも込めての家庭用ゲームプラットフォーム展開というのはあります。

――決意表明みたいな感じでしょうか。

荒木 ビジネス的な理由としては、世界的に見ると、家庭用ゲーム市場とPCゲーム市場が伸びているという事情もありました。もちろん、モバイル市場も伸びているのですが、それと同じか、それ以上に家庭用ゲームとPCゲーム市場は勢いがあって、これからグリーがゲーム事業をより大きくしていくことを考えるときに、家庭用ゲーム市場は外せないという判断はありました。

――一時期はスマートフォン向けゲームの勢いがすごかったように思うのですが、状況が少し変わった感じですね。

荒木 実際に数字を見ると、家庭用ゲームとPCゲームの市場が伸びていますね。おそらく、もともと一部先進国でしか売られていなかった家庭用ゲーム機が、全世界的に経済力が上がってきたり、流通網の発展に伴い、売られている国や買える人が増えていったということではないかと思います。

――プラットフォームとして、Nintendo Switchを選んだ理由はなんでしょうか?

荒木 家庭用ゲームへの参入を決意したのは昨年の春ころだったのですが、そのころはNintendo Switchが出たばかりのころで、まだブレイクしているという状況ではありませんでした。ただ、グリーもゲーム好きの社員ばかりなので、個人的にNintendo Switchを買って触ってみたところ、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を遊んで「これはすごい!」と衝撃を受け、「いいプラットフォームだ」と手応えを感じたんですね。

――グリー社員の皆さんがNintendo Switchを気に入ったのですね。グリーではVRにも取り組んでいますが、会社として「新しいものに取り組みたい」という気風があったりもするのですか?

荒木 そうですね。そこはかなり意識的に取り組んでいます。ゲーム事業において、ずっと同じプラットフォームであり続けるということはなく、そのときどきによって変わっていくという大前提がある。将来的に大きくなると自分たちが信じられる新しいプラットフォームに対しては、まだ市場が立ち上がっていないような、少し早い時期から参入して、きちんとノウハウを貯めていこうという気概ではありますね。

――たしかに、ゲーム業界で長くやっていこうと思ったら、複数のプラットフォームで展開していかないといけないわけで、そういった意味では、今回の家庭用ゲーム参入も、ある意味では自然のなりゆきと言えるのかもしれませんね。

荒木 我々としては、自然かなと思っています。自分たちが手掛けているゲームをより広く提供していくためには、モバイルだけではなくて、ほかのところも広げなければ……という気持ちがありますね。

――では、参入第1弾として、『釣り★スタ』を選ばれた理由をお教えください。


荒木 釣りゲームって世界的に見て、必ず一定規模の市場がありますよね。ニッチかもしれないけれど、絶対に存在すると思っています。これまで僕らは10年にわたって釣りゲームをモバイルで展開してきたのですが、これだけ多くのお客さまに親しまれている釣りゲームって、ほかにないと思うんです。だからこそ、「これは釣りゲームのナンバーワンプレイヤーになるしかない!」なと。とにかく全プラットフォームで釣りゲームを出して、釣りゲームのリーディングカンパニーになりたいと思っています。

――釣りゲームというIPにおいては、世界でナンバーワンのメーカーであるという認識がおありだと?

荒木 比較がないので明確なところはわからないのですが、これほど長いあいだ釣りゲームを作り続けているところもあまりないと思うので、挑戦していきたいなというところです。あと、リアルな釣り自体にゲーム性があるじゃないですか。ルールもわかりやすいですし、異なる文化や地域でも、世界共通なので、受け入れられやすいかなと思っています。

――Nintendo Switchと、釣りゲームとの相性のよさも考えていますか?

荒木 そうですね。釣りとJoy-Conの相性はいいと思います。竿を振ったり、ルアーを巻いたり……という釣りならではの操作性は、Joy-Conに適しているかと。

――決算説明会で田中社長が、「家庭用ゲーム機向けに出すことで、モバイル版のユーザーが増える」といった趣旨の発言をされていましたが、そのあたりにも期待しているのでしょうか?

荒木 他社さんでも過去にそのような例がありましたし、相乗効果は期待しています。たとえば、Nintendo Switch版を出すことで、かつてモバイルで『釣り★スタ』を遊んでくれていた方が戻ってきてくれたらいいなと思いますし、Nintendo Switchで初めて『釣り★スタ』を知った方が、さらにもっとカジュアルに遊びたいということで、モバイル版『釣り★スタ』があるのもいいでしょうし。



――モバイル版『釣り★スタ』は基本プレイ無料のアイテム課金ですが、Nintendo Switch版『釣り★スタ』は、売り切りスタイルでの販売とのことですね。

荒木 はい。私は、ゲームデザインとビジネスモデルは不可分だと思っています。モバイル版『釣り★スタ』はアイテム課金ですが、同一のIPだからといって、異なるプラットフォームでもアイテム課金に固定するつもりもないですし、かといって、家庭用ゲーム向けなら全部売り切りにすると決めたわけでもありません。あくまでプラットフォームの特性とゲームデザインの相性というもので、ビジネスモデルは選んでいけばいいかなと思っています。そもそも、Nintendo Switch版『釣り★スタ』は、モバイル版の移植ではないので、ゲーム性もまったく異なります。「Nintendo Switchでいちばん人気の釣りゲームを作る」というシンプルなミッションに向けて『釣り★スタ』という名前を冠していますが、中身は別物です。“いろいろな場所でいろいろな魚を釣って楽しむ”というコンセプトは変わらないのですが、遊びかたや操作方法、グラフィックなどは全部新規になっています。

――なるほど。さきほどおっしゃったビジネスモデルの補足となりますが、家庭用ゲーム機向けでも、必ずしも売り切りだけではないということですね? ゲーム性に合わせて変えるということでしょうか?

荒木 はい。プラットフォームがどういうタイトルを欲しているかは、そのときどきで違うと思うんです。プラットフォームの意向も大事かなと思っていますので、相談しながら判断していきたいです。たとえば、「この時期にすごい大作が続くので、大作の隙間に遊ぶ箸休め的なゲームがほしい」という時期もあるでしょうし、あるいは、「売り切りゲームが多いから、そろそろアイテム課金のゲームを試したいと思っている」ということもあるかもしれない。そこはプラットフォームの意思があると思うので、プラットフォームホルダーさんと話しながら、ゲームデザインと我々の持っているいろいろな各種資産を掛け合わせて、いちばんいい形を選ぶことにしています。

――グリーでは、いままでモバイル端末を中心に展開されてきて、家庭用ゲームにも取り組むわけですが、これまでの開発の方針に変更があったりしますか?

荒木 現在グリーでは、“エンジン×IP×グローバル”という戦略を掲げています。エンジンは、何でもかんでもいっぱい作るというよりは、自分たちが得意なゲームジャンルやゲームデザインに対して継続的に投資していって、エンジン資産というものを積み上げていくことです。IPというのは、自社IPだったり、他社との共同原作だったり、他社からお借りするIPだったりしますが、いずれにしてもいいIPを作る、育てる、活用するということをやっています。グローバルは世界展開ですね。この方針は家庭用ゲームでも変わらないです。

――ちなみに、エンジンというのは、グリーで独自のゲームエンジンをお持ちということですか?

荒木 我々が言うエンジンというのは、Unityやアンリアルエンジンといったレイヤーでの、ミドルウェアや開発環境、レンダリングエンジンといったエンジンとは異なります。たとえば弊社では『アナザーエデン 時空を超える猫』で開発した“2DコマンドバトルRPG”のエンジンの資産があって、それを拡張、進化させてつぎのタイトルを作っています。僕らのいうエンジンとは、ゲームデザインと技術スタック、アセットパイプライン、カスタマサポートツールといったものが渾然一体となったものです。

――『釣り★スタ』もエンジンがあったのですか?

荒木 『釣り★スタ』はもともとウェブブラウザゲームで、家庭用に展開するにはプラットフォームがまったく異なるため、今回はゼロから作っています。


IPはファンとの信頼関係、それを大切にしていきたい

――今後、家庭用ゲーム市場で取り組んでみたい領域などはありますか?


荒木 いまグリーでは、『釣り★スタ』などはありつつも、おおむねRPGをメインでやっていますので、いずれは家庭用ゲーム機ならではのRPGを作っていきたいと思っています。

――それは、ファンにとってはうれしい話ですね!

荒木 最近JRPGも世界的に見直されてきていますし、需要もできてきているので、挑戦していきたいなと思っています。

――なかなかのビッグブロジェクトになりそうですね。

荒木 そうですね。『釣り★スタ』は社内の資産を使いながら、まずは1作目のチャレンジなのですが、徐々にノウハウが積み上がってくれば、よりリスクも取れるようになってくるでしょうし、大型タイトルも手掛けていきたいなと思っています。

――RPGというのは、既存IPの家庭用ゲームへの展開なのですか? それともまったくの新規IPでの展開になるのでしょうか?

荒木 そこはとくに定めていなくて、タイトルごとに判断したいと思っています。今回の『釣り★スタ』のように、すでに自社で持っていたIPを家庭用ゲームに展開するというアプローチもあるでしょうし、家庭用ゲーム機向けに新規でというのもあり得ると思います。今後手掛けていきたいと考えているのは、力を入れるIPに対して、モバイルゲーム版と家庭用ゲーム機版、そしてアニメ化などを同時展開することです。

――それは大きな話になりそうですね。ちなみに、グリーでは3つのIP戦略を掲げているとか?

荒木 そうですね。IP戦略には3つのカテゴリーがありまして、まずは自社のIP。これは『消滅都市』や『アナザーエデン 時空を超える猫』など、自社で展開しているIPです。ふたつめが共同原作IPといって、A-1 Picturesさんと作った『ららマジ』や、アイディアファクトリーさんとのコラボによるオトメイト作品のキャラクターが登場する『LibraryCross∞』などがこれにあたります。グリーのグループ会社であるポケラボがスクウェア・エニックスさんと共同開発した『SINoALICE -シノアリス-』もそうですね。これらは共同原作ということでお互いがいっしょに権利を持っているケースです。そして3つめが他社IP。これは、ラノベの『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』のIPのゲーム化や、テレビアニメ『戦姫絶唱シンフォギア』のゲーム化などです。いまグリーでは、自社、共同原作、他社と3つのIPをバランスよく作っています。


――ということは、ご自身で家庭用ゲームを作っていらっしゃる会社と組まれているので、ことによると「どちらが家庭用ゲーム機版をやるのか」といったことで、今後調整の必要が出てくるかもしれませんね。

荒木 そうですね。とはいえ、今回の発表については概ね各社さんに好意的に受け止めていただけているのかなと思っています。といいますのも、何かIPのゲームタイトルを作るときに、いままでだと「グリーさんはモバイルだけですよね?」と思われていたのが、「家庭用ゲームも行けるんですか? ならば、まとめてお願いしたいです」みたいなこともあり得るので、展開の自由度が上がるのかなと。

――グリーでは、“エンジン×IP×グローバル”を戦略として掲げているとのことですが、ひときわIPを重視している印象ですね。改めての質問になりますが、IPのどの点に価値を感じているのですか?

荒木 そうですね……。IPというのは、ファンとの信頼関係だと思っています。

――信頼関係ですか?

荒木 先程お話ししたように、ゲーム産業というのはプラットフォームがつねに変わっていくじゃないですか。人気のプラットフォームもどんどん入れ替わるし、人気のゲームジャンルも変化する。そうした状況のなかで、お客さまに長期的に“好き”だとか、手に取っていただけるものって、最後にはIPだと思っているんです。プラットフォームの変遷を超えられる長期的な自社の価値、資産がIPなのかなと。

――そういう意味で言うと、プラットフォームよりもIPのほうが価値があるのでしょうか?

荒木 寿命は長いですよね。IPはいきなりは作れないですよね。“自分が好きなIPの続編を定期的に作ってくれる”とか、“大好きなアニメIPがゲームになる”というものが積み重なって、“このIPを好きでいていいんだ”という安心感が出る。要は作り手とお客さまとの信頼関係だと思います。

――それがために、自社IP、共同原作IP、他社IPという、幅広いIP戦略を展開されるのですか?

荒木 自社で作っているものは、100%自社の所有になるので、長期で保有できる資産としてIPを育てていきたいと思っています。あとは、自分たちでオリジナルIPを作るのは純粋に楽しいという思いもあります。自分たちのIPのファンになってもらえたらそれに勝る喜びはないので、積極的に展開していきたいです。共同原作というのは、自分たちだけでは開発できない作品や世界観を、ほかのクリエイターさんとごいっしょすることで、お互いの強みを合わせて作れることがあると思っています。可能性を広げるという意味では、共同原作IPはとても意義があります。他社IPに関しては、我々の持ち物ではなくてお借りしているだけなので、長期的には弊社の資産にはなりません。ただ、すでに存在しているファンに向けて、いかに喜んでもらえるゲームを出していくかということに集中すればいいので、成果を上げるまでの時間軸が違うんですよね。

――3つのIP戦略は、それぞれ意義があるということですね?

荒木 それぞれメリット・デメリットが違うので、組み合わせてやっています。

――そして、それぞれのノウハウがほかで活かし得るという感じですかね?

荒木 そうなんですよ! たとえば他社IPだと、そのIPを盛り上げるためのメディアプランを練ったりイベント展開をする会社さんがほかにいるので、イベントのやりかたひとつにしてもファンの方々に喜んでいただけるポイントを、ふだん仕事をしている中で学べるんですね。そういった意味で、いろいろと勉強させていただいて、自分たちのIPを育てるのにそのノウハウを使っていければと考えています。

――IP展開をされてきての手応えはいかがでしょう?

荒木 絶対に短期で立ち上がらないとわかっているので、一喜一憂せずに、腰を据えてやるのが大事かなと思っています。

――IP展開をするうえで、とくに心掛けているポイントはありますか?

荒木 とくに自社IPで言うと、驚かせないといけないと思っています。ファンの皆さんも、“楽しい”とか“うれしい”とか、何かしらの驚きを求めていると思うので、「つぎはこう来たか!」とか、「予想以上だった!」といった驚きを提供し続けることを大切にしています。

――2018年は何タイトルをリリースされる予定でしょうか?

荒木 家庭用ゲーム機向けだと、いま明確にお伝えできるのは『釣り★スタ』1タイトルです。もちろん、それ以外も準備を進めていますが、まだ具体的なお話ができるところまでは至っていません。

――ずばり、プレイステーション4に参入するご予定はありますか?

荒木 プレイステーション4に関しては、昨年スクウェア・エニックスさんと『乖離性ミリオンアーサーVR』を共同開発していまして、それなりのノウハウは溜まっています。今後もチャンスを見つけて、挑戦してみたいと思っています。さきほどもお話しましたが、プラットフォームと求められるゲームとの相性があると思っていて、私自身Nintendo Switchもプレイステーション4も遊びますが、それぞれのプラットフォームで遊びたいゲームは違いますので、そのプラットフォームに適したものを展開していきたいです。

――田中社長を筆頭に、グリーにはゲーム好きの方が多いと認識しております。家庭用ゲーム市場(ことに任天堂様プラットフォーム)に参入されるということで、感慨もひときわかと思いますが……。

荒木 自分たちが子どものころから任天堂さんのゲームを遊んできているので、ファンなんですよ。ファンだったプラットフォームにゲームが出せるのはうれしいことですよね。『スター・ウォーズ』を見て育ってきた人が、最後に『スター・ウォーズ』の監督になるような感じでしょうか(笑)。いずれにせよ、自分が好きで育ってきたものに仕事で関われるのはすごくうれしいことです。グリーの開発陣はゲームが好きなので、Nintendo Switchで開発できることに喜んでいる社員も多いですし、「グリーでも今後Nintendo Switchの開発に関われるチャンスがあるかも」ということで、モチベーションアップにもなっているようです。

――最後にグリーのタイトルを楽しみにしているファンに向けてひとことお願いします。

荒木 これまでは、グリーのタイトルはモバイル向けに提供してきましたが、これからは家庭用ゲーム機向けにも配信していきます。デバイスが増えると遊ぶシチュエーションの幅も広がり、より多くの場面でグリーのゲームを楽しんでいただけるようになります。今後もいろいろなタイトルをリリースしていきますので、楽しみにしていてください。

最終更新:3/9(金) 12:02
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