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【漢字トリビア】「松」の成り立ち物語

3/11(日) 11:30配信

TOKYO FM+

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「松・竹・梅」の「松(ショウ)」です。

「松」という字は木へんに「公(コウ・おおやけ)」と書きます。
「公」は漢数字の「八」の下にカタカナの「ム」に似た形を書きますが、「ム」は両手で抱え込む、囲い込む様子を表し、漢数字の「八」は、左右にものを分ける様子を表しているといいます。
このふたつを組み合わせた「公(コウ・おおやけ)」という字が意味するのは、抱え込もうとする両手を左右に開き、つつみ隠さず公開する、ということ。
松の葉は、手の指を開いたような、向こう側が透けて見える形をしています。
風通しがよく、背景を隠さずに生える葉っぱをつける木が「松」。
そこで、木へんに「公(おおやけ)」と書くようになったというのです。
ちなみに「おおやけ」という言葉の語源は「おおきい・邸宅」の「宅」。
「宅」は「やけ」とも読みますから、「おおきなやけ」、「おおやけ」になりました。
いつも変わらない姿で立つ「松」の木は、「大きな邸宅・大きな家」のような存在だったのです。

「松籟(しょうらい)」「松涛(しょうとう)」「松韻(しょういん)」。
松の葉が風に吹かれてたてる音に様々な呼び名をつけ、耳を澄ませては心の平安を得た先人たち。
厳しい寒さに耐えながらつややかな緑の葉を保つ姿にも感銘をうけ、長寿や永遠の命を象徴するめでたい木として親しんできました。
そして何より松は、神々が依り代として降り立つ神聖な木でもありました。

茶室の釜が沸く音のことを「松風」といいます。
茶人たちはその音を聴いて松の梢を通り抜ける風を感じ、心を落ち着かせてお茶をたてるのです。
茶の湯に影響を与えた禅の修行においても同じこと。
無彩色の墨絵に描かれた松林の絵を眺め、そこから吹き渡る風の音を聴き、騒がしい俗世を離れて静寂を想い、悟りをひらくのです。

ではここで、もう一度「松」という字を感じてみてください。

二○一一年三月十一日。
人々の心の拠り所だった美しい松原は、一瞬にして失われました。
岩手県・陸前高田市の海岸沿いに広がっていた「高田松原」。
かつての名勝に残されたのは、たった一本の松の木でした。
樹齢二百年以上、先の震災を含めて四度の津波に耐えてきたこの松は、「奇跡の一本松」として、復興への希望をつないできました。
一旦は塩水の影響で枯れてしまいますが、現在はモニュメントとして復元され、再び凛とした立ち姿を見せています。

あれから七年。
私たちもそれぞれの空の下で立ち止まり、一本松が奏でる音に、心の耳を澄ませてみることにしましょう。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『植物の漢字語源辞典』(加納喜光/著 東京堂出版)
『松 日本の心と風景』(有岡利幸/著 人文書院)
『東日本大震災 7巻 伝えなければならない100の物語(7)希望をつむぐ』(学研教育出版/編 学研プラス)

(TOKYO FM「感じて、漢字の世界」2018年3月10日(土)放送より)

最終更新:3/11(日) 11:30
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