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言葉が切り開く未来 千葉の津波被災地・旭で文芸賞 詩人・高橋順子さん「心から心へ」【3・11大震災】

3/11(日) 11:42配信

千葉日報オンライン

 人々を癒やし、共感を呼び、そして時に、命をも守る-。こうした「言葉の力」に着目し、語り継ぐことに主眼を置いたのが、詩人・高橋順子さん(73)が審査委員長を務める「旭いいおか文芸賞『海へ』」だ。

 東日本大震災の津波で死者・行方不明者16人を出した千葉県旭市で地域住民らが作り上げ、本年度で2回目。「海」をテーマに作品を募集しており、これまでに3千点を超える作品が集まった。重い口を開いた被災者の声や、明るくはじけるような海の楽しさ-。さまざまな言葉が、地域の未来を切り開いていく。

 手書き文章が条件の作品を、作者に朗読してもらい審査する。絵や写真を付けてもいい。この特徴的なスタイルは、語り継ぐことを大切にする中で生まれた。高橋さんは「心から心へ伝わる感じがする。非常に温かみのある、人間味のある文芸賞」と評価する。

 2月18日、千葉県東総文化会館(同市)で開かれた本審査会では、地元を中心に全国各地から集まった作品のうち35点が発表された。作者たちは、津波の体験談や海での思い出を紹介。地元の方言で読み上げるなど、思い思いに朗読した。

 文芸賞は、飯岡出身の高橋さんの詩に勇気づけられた市民が立ち上げた「囲む会」を母体とする実行委員会が主催している。

 実行委員会会長の渡辺昌子さん(71)は、同市で定期的に発行される1枚紙の無料新聞「復興かわら版」の執筆にも取り組み、多数の被災者の声を記録してきた。渡辺さんは「被災者も高齢化して、直接体験を語る人が少なくなってきた。どうしたら震災の記憶をとどめておけるか考え、文芸に行き着いた」と語る。

 渡辺さんと出会い、文芸賞の審査委員長を請われた高橋さん。震災津波では同級生も犠牲になっていた。「300年前に大きな津波が来たことを、人々は忘れていた。誰も伝えない中で震災の津波があり、この浜で多くの人が亡くなった。だから、伝えていくことが大事」と共感し、大役を引き受けた。

 本審査会では、地元団体のおはやしやコーラスが披露され、今年だけで約50人のボランティアが協力するなど、地域住民らが作り上げている。会場運営のボランティアとして参加した銚子市立銚子高校1年、日下部美友さん(16)と同、永嶋佳奈さん(16)は「自分から動けるようにと取り組んだ」「素晴らしい発表が見られてとても良い機会だった」と充実した表情を浮かべていた。

 実行委は早くも、3回目の開催を目指している。高橋さんは「昔は文芸賞なんて考えられない町だったけれど、継続している理由は、若い人たちやこれから生まれてくる人たちの命を守ろうという動機が大きい」ととらえる。

 震災から7年の歳月が流れる中、本審査会には、津波の記憶がほとんどない世代の子どもたちも参加。明るく楽しい海の一面をのぞかせる作品も朗読していた。高橋さんは「来場した子どもたちは、大人の朗読を聞くことで刺激を受ける」とした上で「言葉が介在することによって、直接自分が経験していないことでも、心に刻み、何かを考える契機になる」と強調。「文芸賞を通じて、『言葉の力』を感じてもらいたい」と穏やかなまなざしに熱い思いを込めた。

(政経部・高橋律孝、銚子・海匝支局・田村理)