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「全米最優秀女子高生」の母・ボーク重子さんに聞くダイバーシティ重視のアメリカ名門校の教育

3/12(月) 10:15配信

リセマム

 2017年7月、全米の女子高校生が知性や才能、リーダーシップを競う大学奨学金コンクール「全米最優秀女子高生」で優勝したスカイ・ボークさん。このコンクールは60年もの伝統があり、全米の高校生に贈られる賞の中ではもっとも名誉があるもののひとつだ。これまでに参加した高校生の数は80万人近くにのぼるが、過去60年の歴史でアジア系が優勝したことはめずらしく、全米の多くのメディアで大きな話題となった。

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 スカイさんはアメリカ人の父と日本人の母との間に生まれ、現在はアメリカの名門大、コロンビア大学に通う。そんなスカイさんはどのような環境で育ったのか。今般「『全米最優秀女子高生』を育てた教育法 ―世界最高の子育て」(ダイヤモンド社)を上梓した、母であるボーク重子さんに話を聞いた。

ダイバーシティ重視のアメリカ名門校、幼稚園から6割が奨学金利用

--スカイさんは全米でもトップレベルで、大統領ファミリーが通うような名門校に通われていたとのことで、最初はこの本のタイトルからして「もう完全に我々とは別世界!」という印象でした。ところが、アメリカの名門校はそんなセレブリティばかりではなく、多様な人種や家庭環境の子どもたちが在籍していると知り、驚きでした。

ボーク重子さん:たしかに娘が幼稚園から高校まで通った学校(日本の小学校3年生までは共学でボーヴォワール、4年生からは男女別学となり、男子がセイント・アルバンズ、女子がナショナル・カテドラルと呼ばれる)は、ワシントンDCだけではなく全米でも有数の進学校であり、世界的にも名家の子弟が多く在籍しています。

 けれども日本の私立名門校と大きく違うのは、ダイバーシティ(多様性)を非常に重視しているという点です。名門校だからといって、皆が非常に裕福な環境で、似たような考え方の子どもばかり集めては何の発展もない。ひいては国の発展に繋がらないと、学校側も保護者側も認めています。「象牙の塔で浮世離れした生活を送っていては、社会の変革者は育たない」という価値観なのです。

 ですから、お金がないことが理由で良い教育を受けられないということにはならないよう、幼稚園から約6割の生徒が奨学金を受けて通っています。

 我が家はワシントンDCに住んでいるというだけで、推薦状もないまま出願しました。実はボーヴォワールのほかに、オバマ前大統領の娘2人が通ったシドウェルという学校からも合格をいただいたのですが、いずれも学校側がそういったダイバーシティの観点で娘を必要としたことは合格の要因のひとつだったのではと思います。

--名門校でも6割もの生徒さんが奨学金を受けているのですね。ではアメリカの名門校ではどのような選考が行われるのでしょうか。

ボーク重子さん:20年くらい前までは、親がその学校の出身だと間違いなく入れたようですが、現在は入れない人が増えています。今は合格者の約半数がマイノリティで、シングルマザーも少なくありません。

 先生と1対1で行われる知能テストを受ける必要がありますが、これは準備ができないテストなので、いわゆる日本でいうお受験のための「塾」は存在しません。そのテスト結果を学校に提出し、子どもは複数名のグループでの行動観察のみ。親は別室で家庭の教育方針や価値観などを書かされます。

 知能テストの結果は「成績上位者から何名」という使われ方はしません。あくまでもその学校が提供する教育内容をその子が生かしきれるどうかを判断する材料で、学校側が求めるゾーンに入っていればOKです。

先生は教えることに集中、子どもは子どもらしくパッションを!

--アメリカの名門校の先生たちに何か特徴はありますか。

ボーク重子さん:娘の学校を例にとると、皆、修士号を持っており、中学以上になると博士号を持つ先生もたくさんいます。日本と大きく違うのは、先生方にサバティカル(※1)があることです。その間に彼らは大学院で学んだり、自身の教育法などを本に書いたりします。ですから、学術的な最先端の研究との距離がものすごく近いのです。学校でもしょっちゅうワークショップが行われるなど、先生が常に最新の教育メソッドにアップデートできる機会が数多くあります。

 そもそも先生たちは教えるのが仕事なので、教えることしかしません。進路指導はカレッジカウンセラーがいるし、勉強に遅れがある子にはラーニングセンターというところに専門の教員がいます。教えることだけに集中できるというのは、日本の現状と比べて非常に恵まれた環境だと思います。
(※1)サバティカル:職務を離れた長期休暇のこと。使途に制限がない。
--名門校に通わせる親御さんたちに共通する特徴はどのようなものですか。

ボーク重子さん:誰もが口をそろえるのは「子ども時代は子どもらしく」ということです。早くから文字の正しい綴りや計算をさせるなどの早期英才教育は一切なく、小学校3年生までは宿題もありませんでしたから、放課後は学校の校庭や公園で泥んこになって遊ばせていました。小学校では九九も覚えさせないし、綴りの間違いも正しません。その代わり授業は、たとえば掛け算の原理をバスルームのタイルを使って1か月くらいかけ、試行錯誤の連続のなかで学びます。あまりにも回りくどくて、私も見ていてもどかしい思いをすることもありましたが、周囲の親はあたたかく見守っていましたね。

 驚くのは、こんなのんびりした毎日を送っていても、最終的には卒業生の多くがアイビーリーグをはじめとした名門大学に進学していくことです。今になって「大学受験のために秘密の特訓を受けさせてなかった?」とママ友の多くに改めて尋ねたのですが、その質問自体にポカンとされたくらいです(笑)。実はそんな回りくどい学びの過程で思考力がぐんぐん伸びていたわけです。私はアジア系に多い、早く高密度で徹底的な教育を施す「タイガー・マザー」ではなかったので、娘のスカイも同じような調子でしたが、SAT(※2)の数学は満点でした。
(※2)SAT:アメリカの大学進学適性試験のこと。
 振り返ってみると、日本の教育とキーワードが違うなと思うのです。私がママ友たちからよく聞いた言葉は「パッション(情熱)」。勉強も大事だけれど、子どもはパッションを持って好きなことに打ち込むことで、これからの人生に大切なことを学んでいくという考えです。

ボーク重子さん
 好きなことに打ち込むからこそ、失敗しても立ち直れるし、苦手なことにも挑戦しようと思えるエネルギーが湧いてくる。パッションに従って好きなことをやるというのは、勉強の妨げになるどころか時間の使い方が上手くなり、集中力もつくというのです。

--その発想は重子さんが育った日本での環境とは大きく違うものでしたか。

ボーク重子さん:私は福島県出身で、大学院でイギリスに留学するまではずっと日本の教育を受けてきました。当時私の母は「行けば必ず成績が上がる」と評判の英語塾を経営しており、私もとにかくいろんな知識を詰め込まれました。たとえば百人一首を上の句と下の句に分けて書き出し、その紙をトイレにまで貼っていましたからね(笑)。私も言われた通り真面目に勉強し、中学2年生くらいまでは福島県内の学力テストでも上位にいました。

 ところがその頃を境に、ぽきっと心が折れてしまったのです。この先ずっと周囲からの期待に応えられるのだろうかって考えると、急に不安で怖くなってしまったんですね。これからは何もしなければ「やればできるのに」と思ってもらえる。そっちの方が楽ではないかと思い、ある日突然、ぱったりと勉強しなくなってしまいました。

 自分は一体何のために勉強するのか?ということがわからなかったし、教えてくれるロールモデルもいませんでした。

 それでもなんとか高校に進み、今度は音楽に興味を持ち、バンドを始めたのですが、そんなことは勉強の邪魔にしかならないというのが親の考えでした。私の音楽へのパッションはまったく応援してもらえなかったのです。学校でも受験に必要な学力というひとつの物差しだけで周囲と比較され、当時の私には自信とか自己肯定感といったものは一切感じられませんでした。だからこそ、私は子どものパッションを支える親になりたかったし、アメリカに行ってそんなママたちにすごく共感できたんですよ。

--名門校の先生方も親御さんたちも、テストの点数を上げるよりも、子どものパッションを伸ばしてあげることが一番大事だという考えなのですね。

ボーク重子さん:あるママ友が教えてくれた、Lost Opportunity(失われた機会)という言葉があります。時間が無限にあれば暗記やドリルをさせ、テストで高得点をあげることは可能だけれど、現実には時間は万人に有限なものです。人格形成の大事な時期に、子どもがパッションを感じることに打ち込める時間を与えずにテスト勉強ばかりさせていたら、この子は大人になってどうなるんだろう?というのです。

 たしかに高得点を目指すための時間は失われるかもしれないけれど、その時間を自分は子どものパッションのために使わせたい。彼女はそんな強い信念を持っていました。

 私の娘のパッションはバレエでしたが、ボランティアや楽器、スポーツなど、それぞれがパッションを感じる世界があるはずです。

 また、バイオリンに打ち込んでいる娘の友人は「単に好きという気持ちだけでは続けられなかった。金銭面も含めた親のサポートや私の演奏を聴いてくれる聴衆への使命感や責任感があったからこそ続けてこられた」と言っていました。

 パッションとは、好きという思いだけではなく、実はその利己的な思いの上にある、社会に対する使命感や責任感を含めて育んでくれるものです。これは人間力を養うためにとても重要なことだと思います。

日本の教育の強みと親ができること

--日本とアメリカ、両方の教育を見てこられて、日本の強みはどこにあると思いますか。

ボーク重子さん:日本はどこへ行っても知識レベルが均一で、知っていて当然と思うことをお互いが理解し合えています。実はこれは日本にいると当たり前すぎてピンと来ないのですが、欧米の先進国でもなかなかありえない環境です。たしかにこうした知識は詰め込み教育の産物と言われ、簡単に人工知能に取って代わられるという批判もありますが、世界的に見ても高い均一の知的水準というのは今後も日本の大きな強みだと言えます。

 こうした知識の土台の上に、思考力や主体性が加われば、日本は世界でも鬼に金棒ではないかと思うのです。2020年の教育改革はまさにこの流れですよね。2050年になると人口が半減すると言われていますが、少子化だからこそ教育の質を上げられる絶好のチャンスではないでしょうか。

 海外で長く暮らしていて、日本人はすごいなぁと改めて思うことがふたつあります。ひとつはオープンマインドであること。宗教的な偏見がないというだけでも実は大きなアドバンテージです。世界各地での揉めごとは宗教絡みがとても多いですから。

 そしてもうひとつは協働力の強さ。初めてPISAが行なった「協同問題解決能力調査」で、日本はOECD加盟国32か国中1位という結果でした。同一民族だからという理由はあるにせよ、これも強みになります。

 協働力とオープンマインドで、さまざまな背景の人々とうまくやっていけるという日本人のポテンシャル(潜在力)は、多様化の時代だからこそもっと生かされていくべきだと思いますね。

--子育てで一番大事なことをあげるとすれば何でしょう。

ボーク重子さん:「対話」です。親の方が長く生きているから、これがあなたには一番いいとか、あなたのためを思ってこれがもっとも安全な道だとか、つい口出ししたくなるのが親心でしょう。けれど私たちは、自分を満足させるための子育てではなく、子どもが幸せだと思える人生を応援する子育てをしたいはずです。

ボーク重子さん
 アメリカのあるママ友は、「親は子どもをディスカウントし過ぎる」と言います。子どもにも自分の意思や感情がある。けれど大人は「まだ小さいから何もわかっていない。大人の言うことが正しいに決まっている」と思い込んでしまうのです。彼女は、子どもにはすごい能力があるんだから、もっと信頼してあげよう。子どもに表現する機会をたくさん与え、それを親は一生懸命聞いてあげることが大切なんだと言います。

 親がこれと思う道を押し付けることはできても、その人生を歩んでいくのは子どもです。道の途中で子どもが困難に直面しても、親が身代わりになることはできません。だからこそ、子どもがパッションを持って自分の力で生きていける道を選べるよう、親子の「対話」を通じて子どもが何をやりたいのか、なぜそれをやりたいのかなどを主体的に考えていけるようにすることが大事だと思います。

 結果として親が考えていた道を選ばなかったとしても、パッションを支えることで、困難にもめげず一生懸命取り組む子どもの姿、幸せな笑顔が見られることは、親にとっても最高の幸せではないでしょうか。
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 「誰だって才能がある。だが魚が木を登る能力で自分を判断しようとしたら、その魚は一生自分はダメでバカな存在だと思って生きることになる」

 このアインシュタインの名言は、ボーク重子さんの子育ての哲学のまさに根っこの部分だ。そしてそのメソッドは、「子どものパッションを応援してあげよう。そのためにはたくさん子どもと話をしよう」というとてもシンプルなものだ。

 本のタイトルには思わずひるんでしまうかもしれないけれど、その子が主体的にもっとも幸せだと思える人生を選べるという意味で、たしかに「子どもにとっての世界最高」と言えるだろう。
『「全米最優秀女子高生」を育てた教育法 ―世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)
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《リセマム 編集部》

最終更新:3/15(木) 16:39
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