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英EU離脱、本命は「カナダ方式プラスα」か

3/12(月) 17:01配信

ニュースソクラ

メイ首相は保守党内で板挟み

 3月2日に英国メイ首相がEUとの通商交渉等に関するスピーチを行った。党内の強硬派(ハードブレクシット派)に厳しい現実に目を向けてEUとの関係がこれまでとは異なったものになる、と自覚を促した。

 一方で、移民制限と関税同盟、単一市場からの脱退方針は維持した。通商交渉ではノルウェー方式(欧州司法裁判所の管轄に入り、移動の自由も保証する一方で単一市場への加盟を認められる)や韓国とのFTAなどの従来の通商協定では「これまでのEU加盟で享受していたアクセスと比べると、格段に劣る」として全く新しいタイプの協定を目指す、と言及した。さらに自動車、医薬品、航空関係などについては単一市場と同等の扱いを受けることが英国、EU双方にとってメリットが大きいと指摘した。当然、これにはEUサイドから「いいとこ取りだ」と怒りを買うことになった。

 メイ首相のスピーチでは否定的であったが、最終的に英国とEUの通商協定は、2013年10月にカナダとEUの間で締結された「カナダ方式」と呼ばれる包括的経済貿易協定(CETA: Comprehensive Economic and Trade Agreement)となる公算が大きい。

 EUのバーニャー首席交渉官が繰り返しているように、英国が、(1)欧州司法裁判所の管轄に入らない、(2)中東欧を中心としたEU域内からの移民数を制限する、(3)EUへの拠出金を支払わない、(4)規制・貿易政策で独自性を発揮したい、という条件にあくまでも拘泥するのであればカナダ方式以外にはない。

 しかし、カナダ方式は、英国経済でウエイトの大きい金融、航空などのサービス産業の取り扱いは含まれていない。英国は実物財の輸出よりも、金融・海運・会計などのサービス輸出のウエイトが圧倒的に高い。しかもサービス輸出全体の36%がEU向けである。英国側ではデービス離脱担当相が強調していたようにサービス輸出の自由化も含めたカナダ方式プラスを目指したいところだ。

 また、英領北アイルランドとアイルランド共和国との国境問題については、EUが「英国の中で北アイルランドのみに関税同盟を残すことにより物理的な国境を設けない」との方針を打ち出したことに強く反発した。長らく内戦を続けたアイルランドの和平合意を守るためにもアイルランド島内での自由な移動は今後も保証していかねばならない。

 しかしメイ首相は「Irish sea(アイルランド島と英国本当の間の海峡)の間に新たに関税、規制上の国境を設けることにつながる北アイルランドの関税同盟残留はのめない」と明言して他の方策を検討すべきだ、と強硬である。しかし、英国はそう言うからにはEU側の提案を上回る対案を出すべきであろう。

 今回のメイ首相のスピーチでは、具体的な方策に踏み込んでいない。保守党内におけるボリス・ジョンソン外相、デービス離脱担当相らのハードブレクシット派と経済的メリットを最重視するハモンド財務相らのソフトブレクシット派の板挟みにあって、明確な方向性を打ち出せないためだ。さらに労働党のコービン党首が「英国は関税同盟に残留すべきだ」と打ち出したのも混迷に拍車をかけている。保守党から20名ほどが関税同盟残留に賛同するとみられているからだ。

 いずれにしても、メイ首相がEU離脱を通告した2017年3月の2年後にあたる2019年3月にはEU協定50条に基づき、英国はEUを離脱することになる。通商交渉で時間がかかるため暫定期間(transitional period)を設けることになりそうだが、EU側は2020年12月末までと区切って、しかもこれ以上の延長は認めないスタンスである。

 日本では英国のフィナンシャルタイムス紙やエコノミスト誌が大きく取り上げられるため、英国内の論調が大きく取り上げられる傾向が強い。しかし、EUサイド、つまり欧州大陸側では「もうブレクジット問題は終わった。メイ首相のいいとこ取り志向はすべて却下されよう。英国はこれから経済的にも苦境に陥ろう」と冷めた見方が多い。

 英国内でもメージャー元首相が「もう一度国民投票をやり直してEU離脱か残留か、国民の信を問うべき」と発言して話題になっている。しかし、世論調査の結果は依然として離脱派が優位である。そもそも、外交的にも一国の首相が正式に離脱通告をして撤回するのは難しい。英国は、このまま、離脱に向かって突き進むことになろう。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:3/12(月) 17:01
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