ここから本文です

労働法規破りの企業公表、もっとも手軽な「働き方改革」…現状は過労死すら表に出ず

3/15(木) 10:01配信

弁護士ドットコム

野村不動産の過労死問題が物議を醸している。この事件は昨年12月26日付で、2016年に自殺した50代の男性社員の労災が認定されたというもの。東京労働局は同日、全社的に裁量労働制を違法適用していたとして、同社に「特別指導」したことを公表したが、過労死の事実は伏せていた。

過労死を明らかにしたのは、朝日新聞のスクープだ(3月4日朝刊)。異例の社名公表を受け、過労死があったと仮定して取材を進めていたという。

朝日の報道によると、野村不動産に対する東京労働局の調査は、男性の労災申請がきっかけだったという。政府は、特別指導を裁量労働制の取り締まり事例として紹介していたが、実際は悪用を食い止めるのが難しいことを示す事例だったというわけだ。

現状、過労死の事実は遺族が公表するか、報道が独自取材しないと明らかにならない。労働問題にくわしい嶋崎量弁護士は、「過労死に限らず、労働関連法規に違反する企業を公表することが、もっとも手軽にできる『働き方改革』だ」と力を込める。

●「労災申請しないで」遺族に金を積む企業も

過労死に対する直接的な罰則はないと言って良い。たとえば、電通の高橋まつりさんの事件で問われたのは、過労死の責任ではなく、まつりさんを含む従業員4人に対する違法残業(労働基準法違反)。罰金も50万円だった。

しかし、罰則を強化するのは簡単ではない。「厳罰化は無駄だとは思わない。ただ、法改正には時間がかかるし、他の刑罰法規とのバランスも考える必要がある。また、事件を立件する権限がある検察官がその気にならないと、刑罰を科すことはできない」と嶋崎弁護士。

「刑罰法規の定め方として、電通だから10億円、20億円という決め方は立法技術上不可能だろう。本当に抑止になる金額は企業規模によって全く違う。単純に金額を上げても、大企業にとっては痛くも痒くもないのに、中小企業は倒産するということも起こり得る」

そもそもこれだけ長時間労働が問題になっているのに、過労死・過労自死として労災申請されるのは年間500件ほどしかない(認定は約200件)。理由の1つに、企業が「労災は申請しないでほしい」と遺族にお金を積むケースがあることがあげられるという。そう考えると、罰金による制裁は抜本的な解決にならない。

●企業名の公表に法改正はいらない、行政との取引停止も加えると効果的

そこで嶋崎弁護士は、企業名の公表を提案する。

現在、過労死は公表の対象になっていない。厚労省が企業名を公表するときは大きく2つ。(1)労働関係法令に違反した疑いで書類送検された場合、(2)大企業が複数事業所で違法な長時間労働などをさせていた場合だ。

一方、厚労省によると、野村不動産の「特別指導」はどちらにも該当せず、独自の判断で公表したという。そもそも特別指導の基準もないそうだ。裏を返せば、厚労省がその気になれば、企業名は公表できるということになる。

通常なら公表されなかったはずの野村不動産からすれば、不公平感もあるだろう。しかし、原則公表にしてしまえば、みんな平等だ。

「企業名の公表は大きなダメージになる。野村不動産の件では、他にも何らかの違反があった可能性が高い。その段階で報道されていれば、過労死そのものも防げたかもしれない。過労死に限らず、違法な状態はきちんと社会に知らせる必要がある。労働法を遵守している会社もあるわけで、公正な企業間の競争原理を確保することが、労働条件を確保することになる」

さらに嶋崎弁護士は、公契約による規整(制限)も提案する。法律や条令で、行政機関が過労死を起こしたり、労働法を守らなかったりした企業と取引しないように定めるのだ。たとえば、高橋まつりさんのケースでは、経産省やJRAが一時的に電通との新規の取引を停止した。こうした手続きを決まり事にしてしまうというわけだ。

「労働法を守ることで、利益を上げようとする経営者の意向が制約をうけるのは当然。でも、労働法を守らない不正を許してしまうと、きちんと労働法を守っている会社が不利になり、生き残れなくなる。公契約を使う労働条件の確保は、お金もかけずに労働市場を健全化できるのだから、ぜひともやってほしい」

【取材協力弁護士】
嶋崎 量(しまさき・ちから)弁護士
日本労働弁護団常任幹事、ブラック企業対策プロジェクト事務局長。共著に「裁量労働はなぜ危険かー『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。
Yahoo!個人ニュースhttp://bylines.news.yahoo.co.jp/shimasakichikara/
事務所名:神奈川総合法律事務所
事務所URL:http://www.kanasou-law.com/

弁護士ドットコムニュース編集部