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美術愛好家たちの「大切な場所」 画材専門店が閉店

3/15(木) 8:01配信

両丹日日新聞

32年続けた大沼美術

 京都府福知山市内で唯一の画材専門店、篠尾新町の大沼美術(大沼裕美さん経営)が、3月末で閉店する。豊富な塗料、額縁など確かな品ぞろえと気さくな会話で、市内外の美術愛好家らにとってはなじみの店だった。惜しまれながら32年の歴史に幕を下ろす。

 店は篠尾郵便局そばのタナカビル1階にテナントで入り、兵庫県丹波市在住の大沼さん夫妻が1986年10月9日に開店した。最初は脱サラした夫に引っ張られる形での二人三脚だったが、5年ほどして夫は再就職。そこからは裕美さん(62)が店主となり、一人で切り盛りしてきた。

 夫は絵が趣味だったが、裕美さんはからっきしで、注文の電話が入ってもさっぱりわからない。「『それは何の画材でしょうか?』とお客さんに聞き返して教えてもらったこともありました」と振り返る。開店を機に油絵を始め、今は水彩画を続ける。日々勉強で、美術についての見識を深めていった。

 来店者が訪れると、気さくに声をかけて迎える。何度も顔を合わせていると、その人の好みが分かり、喜んでくれそうな画材を先に仕入れて提案することも。高額の品を安価の品で代用できる時には「こっちでいけるから!」と勧めるので「まったくもうからない」と笑う。

遠方から来店 話し込む人も

 来店者は丹波、丹後、兵庫県北部からもあり、やりがいは大きい。しかし、福知山市内で続けていた両親の介護に一区切りがついたことや、体調を崩した時など自身の今後の高齢化による運営への支障を考えた。

 アート系がある市内の高校、中学校美術部など定期的な取引をしているところがある。万が一、自身に何かあって突然閉店した時の迷惑は計り知れない。「どこかでけじめをつけて辞める必要がある」と決心し、できるだけ新年度に影響がないようにと、今年の正月明けに各校へ閉店の旨を伝えた。

 閉店セール中の店内。訪れる人は「寂しい」「ここがなくなったらどこで買ったらいいの」と口をそろえ、惜しむ声が尽きない。

 京都市在住の会社員、谷川真規子さん(41)は「来店すると、小一時間話をし、そういえばと画材を購入するのがいつものことでした。大沼さんの笑顔が見られなくなるのは寂しいですが、今まで温かな時間をありがとうございました」と感謝する。

 前田の井上かおりさん(39)も「絵を始めた当時、画材の知識の少ない私にとって、たくさんのことを教えてもらえる心強い存在でした。画材を買うだけでなく、いろんなことを相談したり、教えてもらったり、時にはただおしゃべりを楽しんだりして、ずっと大切な場所です」と思い出を語る。

 裕美さんは「画材と全然関係ない話のほうが多かったかもしれません」と目を細め、「子ども連れの方が来られて『昔、学生の時にお世話になりました』と声をかけていただいたこともありました。多くのみなさんとの出会いに本当に感謝しかありません」と目頭を押さえる。

 店は3月31日まで営業する。1月からは定休日の日曜日も開けて、来店者を迎えている。営業時間は午前10時から午後6時30分まで。在庫整理で4月以降も店を開ける場合がある。問い合わせは、電話0773(23)9588。

両丹日日新聞社

最終更新:3/15(木) 8:01
両丹日日新聞