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貸出機の破損がまかり通る、メーカーと量販店の行き違い

3/16(金) 15:00配信

ITmedia PC USER

 2018年2月末にネットでちょっとした騒ぎになったのが、オーディオ関連製品の卸業者であるミックスウェーブが、ビックカメラとの取引停止を発表したことだ。店頭試聴機が破損した状態で返却されたことが原因とのことで、同社サイトには破損した機材の写真などとともに、取引停止を決断した理由がつづられている。

写真:破損状態で返却された貸出機

 ネット上で本件に言及しているユーザーのほとんどが、ミックスウェーブに同情的な見方を示していたわけだが、その是非はさておき、これがめったに起こらないアクシデントかと言うと、決してそんなことはない。Webサイトでの取引停止の発表というあまりない形で表面化したために、騒ぎが大きくなっただけだ。

 事実、同様のケースは氷山の一角どころではないレベルで頻発しており、現場では常態化してしまっている。この業界では伝説的に語り継がれている、スプリンクラーの誤作動で水をかぶった店内全ての製品を丸ごとメーカーに不良品扱いで着払い返品した某量販店のエピソードなど、今回以上にひどい話は探せばいろいろと出てくる。

 もっとも、一般の消費者からすると、なぜ量販店側のそうした対応がごく当たり前のように行われるのか、感覚的に理解しにくいはずだ。こうした店頭展示サンプルや貸出機に対する量販店側のスタンスについて、今回の一件を例に見ていくことにしよう。

 なお本稿はあくまでも一般論であるため、必ずしも今回の件に当てはまらない場合もある。また今回のミックスウェーブのような、メーカーとの間に立って量販店に製品を納品している卸業者もまとめてメーカーと呼称しているので、必要に応じて読み替えていただきたい。

●量販店「メーカーはサンプルや貸出機を言われるがままに用意すべき」

 「サンプル」と「貸出機」の違いをご存じだろうか。一般的に量販店では、サンプルと貸出機は明確に区別する。サンプルはメーカーから無償で提供された機材であり、基本的に返却の必要もない。一方、貸出機はその名の通りメーカーから貸与されたもので、棚卸が必要な資産だ。それ故、メーカーに対していずれ返却することが条件となっている。

 ただこれはあくまでも建前の話で、だからといって貸出機をサンプルよりも丁寧に扱うかというとそうではない。そもそもサンプルと貸出機という区別をつけられることについて、量販店の側は快く思っていない。盗難に遭わないように最低限の配慮はするが、サンプルであろうが貸出機であろうが、破損等があった場合はメーカーは直ちに完動品と入れ替えるべしというのが、量販店側の本音である。

 そもそも量販店にとって、メーカーは表向きは対等なビジネスパートナーだが、現場では限りなく見下しているのが実情だ。メーカーはモノを作るしか能がなく、自分たちがいなければ売ることすらできない存在なので、チラシや店頭POPなどの販促物、そしてサンプルや貸出機といった販売ツールは、言われるがままに用意するのが当たり前というのが、量販店を問わず、販売の現場に多くみられる認識だ。

 それ故、サンプルや貸出機の破損や紛失については、メーカー側で処理されるべき問題であって、量販店が弁償するとか、補填(ほてん)するといった考え方自体が存在しない。今回の件で、破損した機材が量販店から送り返されてきたのは、サンプルではなく貸出機であるため、勝手に処分するのはマズいので返却だけはしておこうという、量販店からするとむしろ最大限配慮した結果だった可能性すらある。

●「仕方ない」と諦めてしまっているメーカー

 いずれにせよ、メーカーがサンプルや貸出機の提供を拒否するようであれば、そのメーカーの製品は自然と売れなくなり、結果として定番から外れ、さらに売れ行きが下がる。量販店からすると自業自得、お好きにどうぞ、というわけだ。特に他社と差別化しにくい製品、例えば海外からの取売製品が中心のアクセサリーメーカーなどは、こうした要求にあらがいにくい。すぐに他のメーカーと立場が逆転してしまうからだ。

 逆に、オンリーワンで市場の評価も高い製品を擁しているメーカーであれば、量販店が扱いを中止すると量販店自身も売上機会を損失するため、メーカーも多少は強気に出ることも可能だが、とはいえ量販店が譲歩したとしてもせいぜい取引条件のレベルだ。さまざまなメーカーのあらゆる機材が店頭で試用できる中で、その1社の製品だけ特別扱いしてもらえることは考えにくい。

 もちろん他のメーカーも、こうした扱いをされることを快く思っているわけではないが、一言で言うと「仕方ない」と諦めてしまっている。もし貸出機が破損した状態で返却されてきたならば、出入りしている営業マンが「これは本当は買い取ってもらうべきですが、今回だけは私の力で何とかしますので次回からはお願いしますよ」などと恩を売ることくらいしかできない。

 もしそれ以上の強硬な要求をして量販店から出入り禁止になるようなことがあれば、その量販店に対する売り上げをどうやって補填するのかという、責任問題になってしまう。そうしたリスクも込みで判断できる責任者、つまり営業部長ないしは取締役クラスまで話が行かなければ、実際に取引停止などといった判断はできない。逆に言うと、冒頭で紹介した件は、それらのリスクを全て込みで判断が行われたということになる。

 ビジネスルール的にどちらが異常なのかと言われると、壊れた機材を平然と返却する量販店側と、日頃からそうした量販店の行為に特に文句を言わず「仕方ない」と割り切っている他のメーカーの側にあることは間違いないのだが、上のような事情から、特に量販店の側は(表向きは謝罪したとしても)、実感がほとんどないというのが現状だろう。

●ユーザーが自由に製品を試せる場をどのように確保するか

 では、メーカーはどのようにするのが正解だったのだろうか。

 答えは簡単、「量販店では試用機材を用いた店頭販売を行わない」こと。これが最も安全だ。販売自体は行っても問題ないが、それは開封することなく、パッケージのまま売ることが絶対条件だ。

 なるほどその意図は理解できるが、製品の良さをユーザーに体験してもらう何らかの場は必要……というのであれば、そのカテゴリーの製品だけでメシを食っているレベルの専門店に限定して試用機材を用意し、製品の価値をきちんと理解している店員の立ち会いのもとでのみ試用できるよう、話をつけるしかない。

 これが量販店だと、同じような約束を事前に取り交わしても、いずれ有名無実になる。量販店は1つの売場に関わる人数が桁違いに多く、かつ異動も頻繁に行われるため、口約束レベルの決め事が引き継がれることはまず期待できないからだ。高価な製品でまさかそんなことはないだろうと思うかもしれないが、彼らにとって試用機材はゼロ円であることを忘れてはならない。

 ただ、ユーザーが自ら試用したいと考えるほどの製品であれば、むしろ常設での展示よりも、スポットでの展示を行う発想に切り替えた方がよい。週末のみ店頭に試用を目的とした特設コーナーを用意してもらい、担当者も立ち会った上で、質問に答えつつユーザーが試用できるようにするのだ。

 この場合、量販店の動員力を有効活用して商売をさせてもらう形になるので、ビジネス上の立場はかなり対等に近くなる。何より常時担当者が立ち会うことから、機材の破損はまず起こらないので、高額製品を扱うのにも適している。事実、このようなスタイルで人員と機材を確保し、週末ごとに量販店を巡回しているメーカーは存在する。

 もちろんこの場合、担当者が週末ごとに拘束される上、特設コーナーの設営や撤収を行う分だけコストが掛かるわけで、使い物にならなくなるのを前提に試用機材を店頭に放置しておくのとどちらかよいかは、メーカー個々の判断になる。どちらが身の丈に合ったビジネスモデルなのか、メーカーによっても判断は変わってくるだろう。

連載:牧ノブユキのワークアラウンド(PC周辺機器やアクセサリー業界の裏話をお届けします)

最終更新:3/16(金) 16:29
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