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情緒たっぷりの「終着駅」 不便を魅力に転じる知恵とは

3/23(金) 7:30配信

ITmedia ビジネスオンライン

 「終着駅」という言葉は情緒が付きまとう。行き止まり、人生の終着駅、最果ての街、もう逃げ場がないという、切羽詰まった感情だ。歌謡曲も、文学も、国内外の映画も、おしなべて哀愁が漂う。目指すところという意味で目的地でもあるけれど、ほとんどの場合、終着駅は「終わり」であって「上がり」ではない。なんとなく尻すぼみな印象が否めない。結婚は恋愛の終着駅、夫婦の人生の始発駅、なんて言ったりする。鉄道好きとして冷静に考えると、それって「折り返し」ってことだよね、と思うけれど、まあいいか。

【1年前に誕生したJR可部線の終着駅「あき亀山」】

 実際の終着駅は行き止まりだけではない。東京発の新幹線「こだま」の終着駅は名古屋や新大阪などで行き止まりではないし、東急東横線の下り方面の終着駅は横浜で、上り方面の終着駅は渋谷だ。ただし、ほとんどの列車はその先の路線に直通する。だから、列車や路線の場合、終わりの駅は「終点」と呼ぶ。「終着駅」はやっぱり文学的、情緒的な意味が強い。

●終着駅は非効率

 その、情緒たっぷりの「終着駅」は、鉄道事業者にとっては厄介な駅だ。営業上も、列車の運行においても。

 営業面でいえば、終着駅は乗客が少ない。しかも時間帯によって降車が多いか、乗車が多いか、あるいは、どちらも少ないかだ。鉄道会社にとって利益の大きい駅は、乗車も降車も満遍なくある駅だ。線路の両端が終着駅になっている場合、A駅がベッドタウン、B駅がオフィス街とすれば、朝はA駅からB駅へ、夕方はB駅からA駅へ乗客が発生する。逆方向の乗客は極端に少ない。それでも折り返して往復させるから、乗客が多い方向は4両編成にして、少ない方向は2両編成にしよう、なんて運行はできない。

 終着駅を活性化させる方法は2つある。1つは、需要を生み出す施設を誘致し、乗客を発生させる方法だ。大手私鉄の多くはこの方法をとった。学校の誘致である。ベッドタウン付近に大学キャンパスや高校ができると、通勤客とは逆方向の通学客が発生する。学校側も、学生を通勤ラッシュに遭わせたくないし、土地代が安く広い敷地を確保できるため、郊外へ移転する。好景気で都心部の地価が上がったときは、企業も営業部門以外の部署を郊外へ移転させる事例があった。鉄道会社にとって、需要が分散してくれたら大助かりだ。

 もう1つの解決策は、延伸などで他の路線と接続する方法だ。他の路線に乗り換えができれば、乗換駅へ向かう需要が発生する。つまり、終着駅そのものを解消するわけで、終着駅の活性化という趣旨ではない。他の路線と接続して、単独の終着駅にしない。これは鉄道経営のセオリーかもしれない。大手私鉄の路線図を見ると、他の路線と接続していない、徒歩でも連絡しない終着駅は意外と少ない。

●切り捨てられ続けた「盲腸線」

 ただし、これらの施策ができる終着駅は、沿線全体の人口が多いという大前提が必要になる。これが地方鉄道になると、活性化にたどり着く前に存続問題になってしまう。かつて、JRの前身の日本国有鉄道が多額の赤字を抱えたとき、赤字ローカル線を廃止するという動きが2度あった。そして2度とも「終着駅」のある路線が廃止の対象となった。

 1度目は1968年だ。国鉄は東海道新幹線が開業した64年度に初めて単年度収支で赤字となり、66年には繰越利益も追い付かず完全な赤字となった。そこで、赤字路線の整理が検討された。ほとんどの地方路線が赤字だったけれども、特に「営業キロが100キロ以下で、鉄道網全体から見た機能が低く、沿線人口が少ない」「定期客の片道輸送量が3000人以内、貨物の1日発着600トン以内」「輸送量の伸びが競合輸送機関を下回り、旅客・貨物とも減少している」に該当する路線は「鉄道としての役目を終えた」とされた。

 「鉄道網全体から見た機能が低く」――これが、単独終着駅の路線だ。起点と終点の駅のうち、片方が他の路線に接続しない。乗り換えの需要が発生しない。つまり廃止対象というわけだ。

 2度目は80年の「特定地方交通線」指定だ。赤字83線のほとんどは住民の反対が多く、国鉄の赤字が深刻でなかったため、廃止路線は少なかった。しかし、80年になると国鉄の赤字や労働問題が深刻化して、国鉄に対する風当たりが強くなった。そこで、経営改善に本腰を入れる必要に迫られて、本格的に地方鉄道の廃止、バス転換を図る方針になった。

 廃止路線の対象は原則として、輸送密度(1キロあたりの1日平均輸送人員)4000人未満だ。ただし除外対象もあった。「通勤通学時間帯で1時間あたり1000人以上」「代替輸送道路が未整備」「代替輸送道路が積雪で年10日以上通行不可能」「輸送密度が1000人以上で、1人当たり平均乗車距離が30キロ以上」。しかし、終着駅のある路線は距離が短く、除外対象になりにくかった。

 こうしたローカル線はいつしか「盲腸線」と呼ばれるようになった。人間の盲腸は短く、ほとんど機能せず、意識するとすれば盲腸炎の時くらい。そんな役立たずの鉄道路線というわけだ。国鉄の盲腸線の切り捨ては続き、JRに移管した後も廃止論議が起きた。

●地域の意識を高める「終着駅サミット」が始動

 過疎化、少子高齢化が進む現在、地方鉄道路線の輸送密度は4000人どころかもっと低い。地方路線というだけでも維持が難しいという状況の中で「盲腸線」の状況は最悪と言っていい。しかし、その盲腸線の末端である「終着駅」を盛り上げようという動きがある。「終着駅サミット」だ。

 終着駅サミットは、終着駅のあるローカル線の沿線自治体やNPOなどが結成した実行委員会方式で開催される。第1回は2013年、JR西日本城端線の城端駅をテーマに開催された。城端線は北陸本線の高岡駅から分岐する約30キロの単線非電化路線だ。15年の北陸新幹線延伸開業を控え、城端線には新高岡駅が開業予定。だから高岡~新高岡間の約2キロは維持される。しかし、北陸本線は並行在来線として第三セクターになると、JR西日本の路線網からは孤立する。そんな危機感の中で、城端線の存続を目指す取り組みの1つだったかもしれない。

 そこで、終着駅サミットだ。ローカル線サミットではない。「終着駅」がある路線にこだわった。「終着駅」の情緒は観光の動機となる。鉄道の駅としては圧倒的に少数という希少価値。そこで、終着駅を地域の拠点都市、バスやレンタカー、レンタサイクルなどの二次交通の結節点として生かしたい。つまり終着駅を始発駅として生かすことで、ローカル線の活性化を図ろうという取り組みである。全国の「終着駅」のある鉄道や自治体に呼びかけて、ともに研さんしていこうという意図がある。

 第2回は14年、富山県の氷見線の氷見駅。氷見線は城端線と同じく、高岡駅を起点とし北へ向かう路線だ。城端線と同じ悩みを抱える。第3回は16年、石川県の北陸鉄道石川線の鶴来駅だ。石川線は09年に鶴来~加賀一ノ宮駅間が廃止された。トカゲの尻尾切りのごとく、このままでは次に切られるのではないかという不安もあったことだろう。

 第4回は17年、茨城県のひたちなか海浜鉄道だ。ひたちなか海浜鉄道とひたちなか市は、鉄道活性化の取り組みを研究する「ローカル線サミット」を開催しており、共同開催となった。ひたちなか海浜鉄道は自治体の支援のもと、黒字化を目指し、終着駅阿字ヶ浦から国定ひたちなか海浜公園までの延伸計画もある。終着駅サミットに集まった自治体などは、その取り組みに勇気づけられたことだろう。

 そして第5回は18年3月4日、広島県のJR可部線、あき亀山駅をテーマに開催された。可部線の可部~あき亀山間は、17年3月4日に開通した、新しい終着駅だ。可部線はもともと、広島駅に近い横川駅と三段峡駅を結ぶ、約60キロの路線だった。しかし、赤字を理由に非電化区間の可部~三段峡間が03年に廃止された。しかし、当初より電化延伸を望んでいた人々と自治体の粘り強い交渉が実り、約1.6キロの延伸開業にいたった。

●「人々の心の片隅に、いつも終着駅がある」

 終着駅サミットでトークイベントの司会を担当した久野知美さんにお話を伺った。久野さんはアナウンサーとしてテレビの報道、バラエティ番組で活躍するほか、「女子鉄」として鉄道関連番組や鉄道会社主催イベントなどで活躍している。可部線の盛り上がりをどのように感じただろう。

 「私たちがトークセッションなどを行っている間に、並行して終着駅マルシェという市場が開催されていました。あき亀山駅の近くの、かつての河戸駅の隣の建屋です。沿線にお住まいの方が地元で採れた野菜などを販売しました。前日から入念な準備をなさっている姿がとても印象的でした」

 広島市の中学生を対象にした作文コンクールでは、610もの作品が寄せられた。どの作品も可部線の延伸を間近に見てきた臨場感あふれる表現や、未来に向けたメッセージが多数込められていたという。「地元だけではなく、可部線の線路が九州や全国へつながっていると実感した」との声が多かったという。線路があるというだけで、若い世代には、その先の広い世界や未来まで見渡せるチャンスがある。

 「延伸開業前の線路を歩くウオーキングイベントを実施したときのお話も印象深かったです。地元の皆さんの熱意で開通したわけで、その時の思いを、今もなお沿線の皆さんが引き継いでいます。まだ開業1年ですから、これからが実績の積み重ねになると思います。でも、行政やJRだけでなく、沿線の皆さんの気持ちが前に向いていることが、乗車や駅前の散策で実感できました」

 鉄道の維持、存続に必要な要素は収支だけではない。沿線地域の未来をどう描くか、沿線の子どもたちに、どれだけの可能性を提供できるか。地域と鉄道が共生するためには、沿線の人々が、いつも鉄道の価値を気に掛けておかなくてはいけない。それは終着駅に限らないけれど、ローカル線問題の縮図が終着駅だ。

 盲腸だって役に立つ場面がきっとある。切り取った後で気付いても遅いのだ。

(杉山淳一)