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「命さえあれば…」願う家族 1年前、突然消えた沖縄の23歳男性 情報提供求める

3/23(金) 5:00配信

沖縄タイムス

 1052人-。沖縄県警が2017年に届け出を受け付けた行方不明者の数だ。ある日突然、いなくなった肉親を捜す一家族を追った。(社会部・篠原知恵)

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 ◆「ちょっと出掛ける」から1年…

 琉球大学の卒業式を終えたばかりの謝名裕多さん(23)が、糸満市の自宅からこつぜんと姿を消して4月で1年になる。糸満高校バドミントン部で、県大会上位に入る腕前。面倒見がよく、大学進学で1人暮らしの頃は両親に3日に1度の連絡も欠かさなかった。「命さえあればいい」。足取りを追い、帰りを待つ家族らは情報を呼び掛ける。

 「ちょっと友達と出掛ける」。昨年4月4日午後5時すぎ。裕多さんは、父徳次さん(61)に電話口でこう言い残したのを最後に消息が途絶えた。外出前に連絡するのは謝名家のルール。当時、仕事中で慌ただしく電話を切った徳次さんは「震えたような声だった」と振り返る。

 この10日前、裕多さんは母まさみさん(65)と琉大の卒業式に出席。笑わせるのが大好きで同じ工学部の卒業生十数人の中心で白い歯をのぞかせ、集合写真にも納まった。6月の就職試験に向けた対策本を買いそろえ、アパートを出て、実家で受験勉強に本腰を入れると意気込んでいた。

 翌日夕にも自宅に戻らないのを心配し、まさみさんが裕多さんの携帯電話に何度か電話を入れたが電源切れのアナウンスが流れるだけ。5日待っても連絡が取れず「いくらなんでも変だ」と警察に相談した。

 行方不明届を出した糸満署には「成人男性だし、自ら家を出たのでは」とも言われた。だが通帳も、ためた数万円も自宅に残したまま。視力が悪いのに、眼鏡や未使用の使い捨てコンタクトもあった。数千円入りの財布だけを手に自宅を出たとみられる。自らの意思で長く家を空けたわけではない、と家族は思う。

 いなくなる前夜、漫画の話で一緒に笑い転げた姉沙也加さん(28)は「昔から弟は悩みがあれば食欲が減る。でもこの日の夕飯は全部平らげていた」と思い返し「自殺は考えられない」と話す。姿を消す1時間前まで裕多さんとオンラインゲームを楽しんでいた大学の同級生も「全く心当たりがない」という。

 裕多さんの左肘には、幼少期に缶詰で切った傷痕がある。沙也加さんは「事件に巻き込まれた可能性がある」と情報提供を呼び掛けている。連絡は、電話090(9789)0468。

 ◆「母さん」 深夜にかかってきた電話は…

 家族は情報提供を呼び掛けるチラシを千枚以上刷り、SNS(会員制交流サイト)で拡散した。目撃情報は9件。「殴られた顔で足を引きずる若者を見た」。本島北部の情報が相次いだ昨年4~5月は、近所の人も総出で2週間通い詰めた。両親は1カ月仕事を休み、早朝に車を走らせた。

 「母さん」。深夜に公衆電話から連絡も入ったが、すぐ別人と悟った。裕多さんが肌身離さず持ち歩いていたスマートフォンについて警察を通じ携帯電話会社から伝えられたのは「(行方不明当日)家族以外との通話記録はない」。ただSNSを通したやり取りの全容は不透明だ。

 家族や幼なじみは、SNSに残された友人関係や投稿をたどり、裕多さんの友人や恋人も探し当てた。2年以上交際する恋人も、家族の連絡で行方不明を知らされた。

 情報を募る姉沙也加さんのSNSに寄せられたコメントは1500件を超えたが、心ない言葉も目立つ。この1年で目撃情報は激減し家族には疲労がにじむ。「一度でいい。裕多のいる場所の夢を見せて」。まさみさんは毎日ヒヌカンと仏壇に手を合わせる。

最終更新:3/23(金) 15:00
沖縄タイムス