テレビ局顔負けの科学実験動画を物質・材料研究機構が配信している。動画1本当たりの再生回数は10万1500回と国研の中では断トツだ。内容は極めて地味な材料科学だが、宇宙を扱う宇宙航空研究開発機構(JAXA)の動画の再生回数を超えた。制作するのは元NHKディレクターの広報室長と研究者のコンビ。動画の編集やアフレコは一人で行う。研究機関が動画投稿を行う「ユーチューバー」として成功する日が来るかもしれない。
物材機構は科学の実験や研究成果の紹介などの動画を90本作成し、動画投稿サイトの「ユーチューブ」で公開している。物材機構のPRよりも材料研究の面白さに焦点を当てた。
果糖水で液晶の偏光を学び、ブドウの実で強磁性を理解する。90本の投稿ながら、総再生数は914万3000回、配信登録者は4万5000人を超えた。
コンセプトは「まず気持ちを動かすこと」。初めに「なんで?」、「ホント?」と思わせ映像に引き込むのがコツだとか。
例えば偏光の実験では、まず身近な糖を溶かした水で電卓のように数字を描き「なぜ?」と思わせ、その後で液晶ディスプレーや偏光の原理を紹介した。
これまで科学コンテンツの多くが“わかりやすい解説”に注力してきた。だが解説に関心をもつのは、もともと科学が好きな人が多い。ゲームや会員制交流サイト(SNS)に夢中な普通の市民を引き付けるには、まず「知りたい」と思わせる必要がある。
動画を制作する小林隆司室長は、「前職の科学番組制作で『理屈はいい。その前に知りたいと思わせないと』と落語家の立川志の輔さんに鍛えられた」と振り返る。
動画の主要視聴者は10―20代の若者だ。「ゲームやSNSと競争する必要があった。興味をひければ、解説で原理を理解し、科学の面白さに触れられる」と自信をみせる。
現在はサイトの配信登録者数が増え、双方向のコミュニケーションが可能になってきたのが強みだ。「物材機構で開発した新素材を配布し、実験動画を投稿してもらうなど市民参加型の取り組みを試したい。形状記憶ポリマーを配り、おもしろ装置を作ってもらうなど、材料の可能性の広さを感じてもらえれば」と期待する。
さらに、「宇宙やロケットのような華がないと国研の広報は難しいという声が多い。地味な材料分野でも工夫次第だ。大学や国研の担当者をトレーニングするなど、知見を共有する仕組みがあれば」と提案する。
日刊工業新聞科学技術部・小寺貴之
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