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ゆうちょ、貯金集めるほど損失膨らむ

4/2(月) 7:05配信

ニュースソクラ

それでも、日本郵政が限度額引き上げ求める事情

 政府の郵政民営化委員会は、現在1300万円となっているゆうちょ銀行の預入限度額を撤廃もしくは引き上げる方向で検討しており、3月下旬にも提言をまとめる予定だ。撤廃が実現すれば完全国営時代からの懸案だった経営の頸木がまたひとつ解かれることになる。

 しかし、肝心の日本郵政グループ内では、預入限度額撤廃を巡り意見の対立が燻る。早急な限度額撤廃に前のめりな持株会社・日本郵政(長門正貢社長)に対し、当事者であるゆうちょ銀行(池田憲人社長)は限度額撤廃には慎重な姿勢を崩していない。

 3月15日に開催された政府の郵政民営化委員会、日本郵政の長門社長は「通常貯金の限度額を撤廃することを希望したい」と述べた。この長門発言は、前回の1300万円までの預入限度額引き上げが決まった2015年12月の民営化委員会の所見で「通常貯金を限度額管理の対象から除外する方法が最も多くの人々のニーズにかなう」とも明記されていたことを踏まえた政治的な発言と受け止められている。

 当時、事実上のヘゲモニーを握る自民党の「郵政事業に関する特命委員会」の議員からは、「そもそも当初の預入限度額の引き上げは1500万円プラスアルファということであったが、金額が圧縮され、時期も半年以上も延ばして16年4月1日からとなった。

 また、結論が先延ばしされるのではないかと不信感を持っている」「もはやゆうちょ銀行に優位性はない。民間金融機関では平成3年の時のことをあげつらって資金シフトの懸念があると指摘するが、現実に沿わない反論だ。

 当時と違い現在は他行から預金を移し替えるような状態ではないことは明白。ゆうちょ銀行の上場を受けて、限度額を緩和した方がゆうちょ銀行にとっても、金融市場の秩序にとってもよい。過去10年で都銀、地銀においても預金は増えており、ゆうちょ銀行の預入限度額を引き上げても影響はない」等々の意見が出されていた。

 実際その後、預入限度額が1300万円に引き上げられた16年4月以降、ゆうちょ銀行の貯金の伸びは民間金融機関の伸びを下回っており、家計の金融資産に占める割合も15年3月末の9.9%から17年9月末では9・6%に低下している。自民党の郵政族が指摘する通り、資金シフトは生じていない。

 しかし、これはゆうちょ銀行が資金吸収に苦慮しているということではなく、意図的に抑えた部分が大きいのではないかと見られている。運用ができない貯金をこれ以上集めてもコストばかりがかかって無駄という判断だ。

 事実、超低金利下にあってゆうちょ銀行には運用しきれない資金が大量にだぶついている。日銀の当座預金にブタ積みされている資金は推定10兆円に達するが、マイナス金利政策が導入されて以降、この資金にペナルティが課されており、単純計算で毎年100億円近い損失を被っているという。

 集めれば集めるほど損失が膨れ上がる悪循環だ。さらに、預金保険料の負担もバカにならない。ゆうちょ銀行の通常貯金、定額貯金とも全ての預入期間を通じて金利は年0.010%に過ぎないが、貯金残高に課される預金保険料は決済用預金で0.049%、一般預金等で0.036%と高止まりしている。

 それでも日本郵政の長門社長が限度額撤廃を要求するのは、限度額管理に必要以上の事務コストがかかることと、1300万円の限度額では相続資金や満期で1300万円を超える資金がごっそり他の金融機関に流れてしまう懸念があるためだ。

 また、日本郵政が限度額撤廃を主張する背景には、急ピッチで進める運用の多様化もベースにある。ゆうちょ銀行は2015年に元ゴールドマンサックス証券副社長の佐藤勝紀氏を運用担当者に迎え、運用ポートフォリオの組み換えを進めている。安定資産であった国債への運用比率を下げ、株式や外国証券、オルタナティブ(代替投資)等のリスク資産の比率を上げている。

 14年3月末に50%を超えていた自己資本比率は、昨年9月末時点で19.64%、昨年末には18%まで低下している。国内銀行の範疇に入るゆうちょ銀行に求められる最低自己資本比率は4%であるため、まだ余裕があるともいえるが、ショックに対する余力は確実に低下している。

 特に「現在のような超低金利下では顕在化していないものの、今後、金利が上昇していく局面においてゆうちょ銀行が大幅な金利リスクを負うことが懸念される」(メガバンク幹部)と言っていい。ゆうちょ銀行がバランスシートコントロールに失敗すれば、公的資金注入という悪夢もないわけではないだろう。

■森岡 英樹(経済ジャーナリスト)
1957年生まれ、 早稲田大学卒業後、 経済記者となる。
1997年米国 コンサルタント会社「グリニッチ・ アソシエイト」のシニア・リサーチ ・アソシエイト。並びに「パラゲイト ・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年 4月 ジャーナリストとして独立。一方で、「財団法人 埼玉県芸術 文化振興財団」(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。