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天宮1号間もなく大気圏再突入、8トンの衛星を落とす「宇宙開発のマナー」とは?

4/2(月) 5:00配信

sorae.jp

中国の軌道実験モジュール「天宮1号」は、2018年3月31日~4月2日中(日本時間では4月1日午前 7時から4月2日午後3時の間)に大気圏に再突入すると予測されている。3月後半に入ってからはほぼ毎日、天宮1号の高度情報を公表している中国有人宇宙飛行プロジェクト弁公室の3月29日発表によれば、天宮1号の高度は近地点で188.5キロメートル、遠地点204.3キロメートルとなっている。
 
全長約11メートル、直径は3.3メートル、重量8500キログラムの宇宙実験施設はかなりの部分が燃え尽きると見られ、燃え残りの破片があったとしても人口密集地に落下する確率はごく低いとされる。過去には、天宮1号よりもはるかに質量が大きいロシアの宇宙ステーション・ミール(約120トン、2001年に再突入)、米NASAの宇宙ステーション・スカイラブ(約74トン、1979年に再突入)といった例があるが、いずれも人的被害は出ていない。また、規模は宇宙ステーションよりも小さいが2010年に日本は「はやぶさ」、2013年にESA(欧州宇宙機関)は科学衛星「GOCE」の大気圏再突入を経験している。
 
過去に例があり、かつ観測情報も刻々と公表されている天宮1号の再突入だが、報道で「制御不能」といわれるなど、中国の情報公開の姿勢に対して微妙に批判的なトーンが存在するようだ。これは、批判されるような理由があるのか、それとも月探査や有人宇宙計画で米露を猛追する立場となった宇宙大国・中国に対するやっかみを含んでいるのだろうか?
 
少なくとも、中国は情報公開に対してオープンかつ積極的とはいい難い部分があると考えられる。2017年5月、中国は「天宮1号の最新状況について、中国航天局のサイトで中国語及び英語で公表する」と国連で明言した。同サイトを見てみると、天宮1号の高度など最新状況が中国語と英語で掲載されている。だが、同じ文書にある「軌道離脱に関する重要なマイルストーンや出来事について、タイムリーな情報をニュースメディアを通じて公開する」という部分はどうだろうか。報道ソースとなるニュースリリースで天宮1号について最後に英語で発表されたのは、2017年9月25日だ。英語圏からすれば、詳細なFAQを設けて「宇宙機の再突入で何が起きるか」など情報公開やレーダー画像公開などアップデートの努力を続けているESA(欧州宇宙機関)のスペースデブリオフィス、米NPO法人エアロスペース・コーポレーションの方が積極的に動いているように見えるだろう。

また、英語圏の情報と中国の公開情報で大きく食い違う点がある。2017年9月の英語版中国情報では、天宮1号は「Controlled De-orbit」と明言し、制御落下だとしている。これは、適切なタイミングでエンジンを燃焼させ、空気抵抗を増やして燃え尽きる量が多くなるように、かつ落下地域が海上など無人の地域になるように調整するということだ。だが、ESAとエアロスペース・コーポレーションの情報では、天宮1号は2016年5月の段階で地上から制御できない状態となっているため、今回の大気圏再突入は制御落下ではないとい
う。
 
中国は天宮1号が制御されていない事実を公式には認めていない。だが、実際に制御可能な状態であれば、再突入が近づいてきた段階で調整のためエンジン燃焼を行ったという「重要なマイルストーン」の発表があってもよいはずだ。それが今にいたるまでないということは、制御できていないという情報を裏付けていると考えられる。

こうした情報公開の食い違いや中国の姿勢にまつわる不信感ともいえるトーンについて、北海道大学公共政策大学院の鈴木一人教授は次のように見る。
 
「天宮1号が過去のミールなどの例と比べて決定的に違うのは、いつ、どうやって落とすかコントロールできる再突入ではないということですね。中国自身も天宮1号について、ESAと同じように追跡した情報しか持っていないし、どうなるのかわからないのです。ですから、情報公開に責任を持つ、ということが一番重要なところですが、そこが欠けている。自分たちが作って運用していた衛星がコントロールできなくなったとすれば製造物責任といったものがあるはずで、その責任感の表れとして情報公開があります。ESAが情報を出す前に自分たちで予測情報をアップデートする、といったことが必要になります。それができていないために、不誠実さというものがまとわりついてしまうわけです」
 
だが、制御落下できなかった人工衛星の例も過去にはあった。旧ソ連時代にはサリュート2号が、アメリカもアポロ計画の中で実験機の再突入を制御されていない状態で行っている。天宮1号が初めてではないならば、制御されていないことを明言すればよいのではないかと思える。この点について、鈴木教授は次のように分析する。
 
「『これは中国が責任を持つものです』と明言してしまうと、落ちてきて実際に事故が起きた場合に損害賠償といったものに責任を持たなくてはいけなくなってしまう。中国自身は、『不具合で落ちてくる』ということをあまり公にしたがらないですね。それは、自分たちにとって『失敗』だととらえているからだと思います。天宮1号は有人宇宙計画のひとつですから、中国にとって有人プログラムの失敗はあってはならないことだという意識があるのでしょう。また、かつてアポロ計画のような有人プログラムの先駆けの時代では、予測しようがない部分も多かった。ゆえに、失敗があったとしてもそれはチャレンジの結果である、という文化がNASAにはあったと思います。ですが中国は、以前に別の誰かがやったことをしているわけで、リスクは予測できるものになっています。それなのにリ
スクを低減できていないとすれば、中国の能力が至らない、失敗だということになってしまいます。中国の巨大な宇宙コミュニティの中で、失敗を認めるということは組織の存亡にも関わりかねない、という懸念があるのかもしれません。ただ、それは宇宙開発の観点からすると健全ではないと思いますね」
 
中国の天宮1号関連サイトには、2011年9月の打ち上げからその成果を振り返る「さよなら、天宮1号」といった動画やコンテンツがいくつも掲載されている。宇宙飛行士を迎え、多数の科学実験の成果を挙げてきた天宮1号が再突入のときを迎えるならば、世界から感謝や声援、自発的な観測の取り組みが寄せられる最後にもなり得たはずだ。ただ、それが成立するには積極的な情報公開という「マナー」が不可欠であったはずで、疑問や不透明な部分が残ってしまったことに対し、残念だと感じられてならない。

最終更新:4/2(月) 5:00
sorae.jp

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