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HTMLに著作権なんてあるわけないでしょ:IT訴訟解説

4/6(金) 7:00配信

@IT

 IT訴訟事例を例にとり、システム開発にまつわるトラブルの予防と対策法を解説する本連載、今回は「著作権」を考察する。

一般的なストライプの組み合わせですが、このコーディネートは私のオリジナルです。著作権を認めてください(画像はイメージです)

 著作権については、過去にも本連載で「プログラムや設計書、画面デザインなどが著作権法で定める著作物として認められるためには、作成者独自の工夫や創意が必須である」と解説した。

 今回はこの著作物の定義について、より分かりやすい判例を紹介する。あるユーザー企業(以降、ユーザー)がベンダーに依頼して作成したHTMLが著作物に当たるかどうかを争った裁判だ。

●HTMLファイルに著作権は認められるのか

 HTMLファイルは、作成者が一生懸命に頭を悩ませて作り上げるものであり、全く同じものは他には存在しない。

 その一方、他のプログラミング言語に比べると使用する単語や文法が限定的であり、誰が作っても同じようなものになりやすい。これを「著作物」としてしまうと、HTMLの作成者は、何を書いても「あれは自分が作ったものに類似している」「これは自分のものをコピーしているに違いない」と著作権侵害を主張され、開発ができなくなってしまうという弊害も予測される。

 HTMLファイルの著作権を、裁判所はどのように判断したのだろうか。判決文を見ていこう。

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知財高等裁判所 平成29年3月14日判決から

通販業者であるユーザーが、自社の通販サイト開発をベンダーに委託した。

開発ベンダーはユーザーに対し、当該サイトのプログラムを使用することを契約期間に限り許諾していたが、ユーザーはこの契約期間を過ぎても、プログラムを複製して使用し続けた。ベンダーは、このプログラムのうちHTMLファイルについては、ベンダー社員の創作であり、ユーザーが使用することは著作権侵害にあたるとして、ユーザーに不法行為に基づく損害賠償を求めて訴訟を提起した。
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 私は開発者だったころ、顧客向けサイトの画面をHTMLで作成したことが何度もある。顧客企業のイメージに合った色やデザインを考えながら、利用者が使いやすく操作ミスが起こりにくいHTMLファイルを書く作業は、楽しくはあるが、いろいろと頭を悩ませるものでもあった。

 そこには確かに自分で考えた「工夫」があったし、自分なりに「文法」も駆使した。そのころの私だったら「HTMLも立派な著作物として認めてほしい」と考えていただろう。

 しかし、世の中のWebサイトのソースを見ると、どれも、どこかで見たことのある単語が一定の規約に沿って書かれているものだ。その表現範囲が非常に狭いことはすぐに分かる。「今日は雨が降っている」と、無数の方法で表現できる「小説」とは比べものにならない狭さである。

 どんなに一生懸命に苦しんで作っても、出来上がりは似たり寄ったり――HTMLファイルとは、どれもそういうものだ。これは著作物として認められるのだろうか。

●著作権が認められるのは、どのような場合か

 裁判所はまず、一般論として「プログラムの著作権が認められる条件」を以下のように説明した。

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知財高等裁判所 平成29年3月14日判決から(つづき)

(著作物として認められるための)創作性は、表現に作者の個性が表れていることを指すものと解される。プログラムは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」であり、コンピュータに対する指令の組み合わせであるから、正確かつ論理的なものでなければならないとともに、著作権法の保護が及ばないプログラム言語、規約および解法の制約を受ける。

そうすると、プログラムの作成者の個性は、コンピュータに対する指令をどのように表現するか、指令の表現をどのように組み合わせるか、どのような表現順序とするかなどといったところに表れることとなる。

従って、プログラムの著作物性が認められるためには、指令の表現自体、同表現の組み合わせ、同表現の順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものであることを要するということができる。

プログラムの表現に選択の余地がないか、あるいは選択の幅が著しく狭い場合には、作成者の個性の表れる余地がなくなり、著作物性は認められなくなる。
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 要約すると、「コンピュータのプログラムとは、個々のコマンドや定義自体既に規約などで定められているものだから、これを著作物として認めるためには、それをどのように組み合わせるか、どのような順序で書くか、作成者独自のありきたりではない工夫がなければならない」と述べている。

 続きを見てみよう。

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知財高等裁判所 平成29年3月14日判決から(つづき)

そして、HTMLはデザインや表示文言などは、注文者であるユーザーが決定していることから、本件HTMLは、ユーザーが決定した内容を、ユーザーが指示した文字の大きさや配列などの形式に従って表現するものであり、そもそも表現の選択の幅は著しく狭いものといえる。
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 そもそも本件のHTMLファイルは、「デザインにHTMLを使うことはもとより、その文字の大きさや配列形式までユーザーが決めたものだ」と裁判所は判断した。

 これにより、ベンダーが主張する「創意工夫」の範囲は、相当に狭められた。それでもベンダーは、具体的なHTMLの記述を示して自らの創意工夫であるとする点を主張した。

 しかし裁判所は、これをことごとく否定した。

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知財高等裁判所 平成29年3月14日判決から(HTMLの記述について、その独自性の有無を裁判所が判断した部分を抜粋して要約)

(ユーザーが)会員の基本情報登録画面から情報を入力し、「会員登録に同意する」にチェックした上で、「確認」ボタンをクリックすると、データが送られることに関するものと解される。

(ベンダーは、この構文を独自の工夫だと主張する)

HTMLに関する教本および辞典には、「HTMLには、style要素があること、文書の表示形式などを定めたCSSファイルをHTMLのタグに直接記述するインラインという方法があり、例えば<p style="font-size:20px; ">と表されることが記載されており、また、HTMLにおいて長さを指定する方法としてピクセル数を単位に整数で指定する方法があること、『submit』は『送信ボタン』を意味する語として用いられていること」が記載されている。

これらの記載によれば、「"margin:0px;"」は、「余白0ピクセル」を意味するもの、「onsubmit」は「送信ボタン」に関するものと解される。また、「"return false;"」は、実行中止を意味するものである。

ベンダー主張にかかる上記記述は、HTMLに関する教本および辞典に記載された記述のルールに従った、作成者の個性の表れる余地があるとは考えにくいものや、語義からその内容が明らかなありふれたものから成り、従って、作成者の個性が表れているということはできない。
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 要約すると、裁判所は「このHTMLに書かれているものはみな、HTMLの技術書に書かれているものに似ているか、誰もが思い付くような工夫ばかりで、創作物としては認めがたい」と判断した。

●「著作権」ではなく「契約書」で

 私個人の考えだが、HTMLファイルを著作物として認めてもらうのは相当に困難であり、現実的ではない。何しろ、その表現に用いる単語や文法の選択肢があまりに少なく、デザインもグラフィックデザイナーが描くような独創性にあふれたものは作りにくい。

 では、HTMLファイルの勝手な流用を認めたくないときは、どうすれば良いのか。

 私は、ファイルの権利は、「契約書」でしっかりと合意すべき、と考える。HTMLに限らず「作成したプログラムの複製や流用は一切認めない」ことを契約書に記し合意することが、プログラムの諸権利を守る上で大切だ。

 もちろん契約によっては、後々の保守性を考慮してユーザーに複製や改造を許可するものもある。それはそれで、両者が納得の上で合意したものなので問題はない。

 ソフトウェア開発を行う際には、諸権利について、著作権法に頼らず、両者が協議して契約書を作成すること。それが、後々余計な問題を引き起こさないためには必要なことだ。

●細川義洋
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる

●書籍紹介:本連載が書籍になりました!
成功するシステム開発は裁判に学べ!~契約・要件定義・検収・下請け・著作権・情報漏えいで失敗しないためのハンドブック
細川義洋著 技術評論社 2138円(税込み)

本連載、待望の書籍化。IT訴訟の専門家が難しい判例を分かりやすく読み解き、契約、要件定義、検収から、下請け、著作権、情報漏えいまで、トラブルのポイントやプロジェクト成功への実践ノウハウを丁寧に解説する。

最終更新:4/6(金) 7:00
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