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UTグループ、社員の「うれしい」を目指す

4/8(日) 16:01配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る 若山陽一UTグループ社長兼CEO(2)

 ――UTグループには、労働組合があるのですか。

 製造業向けの人材派遣をしている当社はもともと電機メーカーとの取引が多くて、今も全体の50%くらいを占めます。それで、電機メーカーの労働組合で構成する電機連合と付き合いがあって、かつて電機連合から労組を作って加入してほしいという要請がありました。

 当社としても、社員が入りたいのならば組合を作ったらいいと思って、アンケートをとったら、3分の2以上の人が反対でした。それで電機連合に加入しなかったのです。

 ――メリットが無いと考えたのでしょうか。

 組合費を払って、どんな成果があるのか、わからないから嫌だという人が多かったのです。アンケートを何度やっても、結果は同じでした。

 珍しいですよ。経営者が社員に労働組合に入りませんかと聞いて、社員が「入りません」と言うのですから。(笑)

 ――社長は、何を期待したのですか。

 当社はこれまで、お客様の電機メーカー5社から、のべ1200-1300人の社員を転籍してもらって受け入れてきた実績があるんです。

 みな大手メーカーの正社員の方です。経営合理化や構造改革のために、希望退職に応じた人たちが、転籍してきたわけです。

 転籍してくる人にとっては、組合の有無が関心事のひとつでした。同じ電機連合傘下の組合がこちらにもあれば、スムーズに移れるという話もあったので、組合を検討したのです。

 ――組合ができたら、毎年、賃上げ交渉などで厄介だと思いませんでしたか。

 それはあまり思わなかったですね。全体にベースアップするとなると、派遣先のお客様に派遣単価の引き上げを求めなければなりません、

 ですが当社は基本的に、職務等級に合わせて給料を上げていく制度です。うちの水準と労働市場とのギャップがあまりにも大きく生じたら、問題ですが、そんなにギャップはないと思います。

 ――今、人手不足の状態です。UTグループも人を集めるのは容易ではないと思いますが。

 当社の派遣社員の人たちの仕事は、やりがいや報酬などの労働条件の面で、相対的に価値のあるものだと思っています。

 チームでの派遣なので、30名とか多いと500名とかで働きます。その中で、先輩は後輩を教え、みんなで切磋琢磨しながら、1つの目標に向かって仕事をするので、達成感を得られます。

 評価の仕組みもわかりやすいですから、あまりストレスや不満をためることなく働ける環境を、提供できていると思います。

 工場勤務というと前近代的なイメージがあって、今の若者が積極的に働こうという気持ちになりにくいのはわかります。でも一度働くと、働きがいを感じる人が結構多いのではないですか。採用に当たっては、イメージと実際との違いをきちんと説明することを重視しています。

 我々の採用は、派遣先のお客様から受託しているような意味合いもあります。単に人材を派遣するというより、採用から定着、戦力化までを体系的に担い、それを価値として提供するように努めています。

 だから、ともによい職場づくりを目指すお客様に、労務面でのお約束を果たす姿勢でやっています。

 ――主要顧客の電機メーカーには大手が並んでいますね。

 企業グループごとに深くお付き合いするのが基本的な方針です。電機ではソニー、パナソニック、日立、東芝、三菱といった大手のグループに人材を派遣しています。最近は、自動車メーカーとの取引もだいぶ広がっています。

 逆に中堅、中小企業との取引は無いんです。その分野は競合が多いでしすね。

 当社は、よい職場に社員を派遣したいのです。つまり派遣単価を合理的に設定することが明文化されていて、契約期間がある程度長く、契約人数が一定数以上で、仕事の範囲が広い職場です。

 逆に、契約期間が短くて人数も少なく、派遣単価が適当に下げられる所では、社員はただ忙しく使われる。これでは職場の競争力が無いため、人は集まりません。

 ――派遣する社員を「顧客」と考えていますね。なぜ、そのような発想になったのですか。

 当社は「はたらく力でイキイキをつくる」をミッションステートメントと定めています。要は、社員の人たちが働くことで生き生きしているとうれしいな、ということなんです。

 2001年にIT(情報技術)不況で、1995年の創業以来、初めて減収減益で赤字決算になりました。当時、私は「ビジョナリーカンパニー2」(ジム・コリンズ著、山岡洋一訳)を読んで触発されて、当社の存在理由は何だろうと考えたんです。

 創業からそんなことを考えずに闇雲に走ってきたので、減収減益になって初めて、会社のあり方を見つめ直そうと思ったわけです。

 当時の一般職社員約40人と現場にいる社員にアンケートをして、当社が大事にしている価値観を明らかにする作業をしました。その結果、現場の社員が喜んでいるのが一番うれしいよねと、決まったのです。

 派遣先の工場のコストダウンに寄与して、お客様から「有難う」と言われればうれしいですよ。しかし現場の社員が例えば「よい職場を紹介してくれて有難う」と言ってくれる方が心に響き、もっとうれしいわけです。

 社員の「うれしい」を目指さなければ、会社の発展は無い。そこからでした。社員の人たちを「お客様」に見立てて、事業戦略を考え、ふさわしい仕事の仕方を作ろうと取り組み始めたのが、2001年だったのです。

■森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:4/8(日) 16:01
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