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【木内前日銀政策委員の経済コラム(12)】 リフレ派の若田部副総裁、総裁案に反対できるか

4/9(月) 10:02配信

ニュースソクラ

副総裁は補佐役と諭され、合わせるよう強いられる

 3月20日に、日本銀行の新たな執行部体制が、再任された黒田総裁と2人の新任副総裁のもとで稼働を始めた。

 それに先立って行われた国会での所信聴聞では、リフレ派として知られる若田部副総裁と黒田総裁との間で、金融政策姿勢を巡りかなりの温度差が感じられた。この点は、3月9日の総裁記者会見でも記者の大きな関心事であり、総裁に2つの質問が投げかけられた。

 第1は、日本銀行の独立性に関するもので、記者からは、「若田部氏は、中央銀行の目標は政府から与えられるもので、中央銀行はその目標達成のための手段の選択についてのみ独立性を持つ、との主旨の発言をしている。2%の物価目標は政府から与えられたもので、日本銀行はそれを達成する手段においてのみ独立性を持っているのか、それとも日本銀行は目標設定についても独立で行なうことができるのか」との主旨の質問が出た。

 これに対して黒田総裁は、「金融政策は、政府から独立した政策委員会で決定することが日本銀行法で保障されており、2%の物価安定の目標もこの政策委員会で決定した。物価の安定といった基本的な使命は議会で決められているが、そのもとでの具体的な政策目標や、その目標を達成するための手段については、日本銀行に任されている」と回答している。黒田総裁の見解の方が正しい。

 現在の異例の金融緩和策を正式な形で正常化していくには、2%の物価安定の目標を中長期の目標にするなどの柔軟化が必要だろう。それには政府からの了解を得る必要はなく、日本銀行の独自の判断で可能である。

副総裁は総裁に反対できるか?

 記者からの第2の質問は、政策決定会合で若田部副総裁が、黒田総裁の政策方針、つまり議長案に反対する可能性を視野に入れ、「金融政策決定会合での総裁、副総裁の表決行動というのは、なるべく一致した方が良いと考えるか?」というものだった。

 これに対して黒田総裁は、「日本銀行法では副総裁は総裁を補佐することが求められている。他方で金融政策決定会合では、総裁、副総裁も含めて9人の政策委員は、独自の判断で投票行動を行なうことが日本銀行法で保証されている。そのため、総裁と副総裁の投票行動は一致するのが望ましいが、法律は違なる投票行動を妨げない」と回答している。

 日本銀行法では、副総裁は総裁を補佐することが求められているが、これは日本銀行の業務全体の「執行」を念頭に置いたものであり、政策委員会での金融政策の「決定」を縛るものではない。この点から、黒田総裁の発言は正しい。

 しかし、金融政策で副総裁が総裁と異なる意見を表明し続けることは、組織としては容易に受け入れられるものではないだろう。日本銀行の職員から「副総裁としての立場を十分にわきまえるように」と諭される形で、黒田総裁と意見を合わせるように強いられていくだろう。この点から、リフレ派の若田部副総裁が金融政策決定で大きな影響力を持つことは簡単ではない。

 実際、若田部副総裁の前任者、岩田副総裁は学者出身でリフレ派でもあったが、一度も議長(総裁)案に反対投票することはなかった。量的緩和政策から実質的に金利政策に大きく舵を切ることになった2016年の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」政策にも、量的緩和の実質的な縮小になることはある程度わかっていたのだろうが、反対はしなかった。

 それでは、もう一人の副総裁、雨宮副総裁の役割はどうだろうか。若田部副総裁が黒田総裁よりも緩和推進派である一方、雨宮副総裁は黒田総裁よりも緩和慎重派と位置付けることができる。

 ところで、総括的な検証が示され、イールドカーブ・コントロールが導入された2016年9月以降、いたずらに追加緩和策が実施されることはなくなり、また長期国債買入れ増加ペースは着実に縮小するなど、事実上の正常化策が進められてきたと考えられる。それを主導したのは、日本銀行の職員ではなかったか。

 理事から昇格した雨宮副総裁は、引き続き黒田総裁を諭す形で、政策の軌道修正を促し、いずれは正式な正常化への道筋を付ける役割を担うことが期待される。この点から、若田部副総裁とは全く対称的に、金融政策運営における雨宮副総裁の影響力は非常に大きなものになるのではないか。このようなパワーバランスのもとで、新執行部体制は成り立っているのである。

(1)木内氏は『金融政策の全論点: 日銀審議委員5年間の記録』(東洋経済新報社) を2月16日に出版しました。
(2)木内氏は日銀の金融政策についての見解をまとめた『異次元緩和の真実』(日本経済新聞出版社)を2017年11月17日に出版しました。

■木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。

最終更新:4/9(月) 10:02
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