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【木内前日銀政策委員の経済コラム(13)】 日銀主張の「物価2%へのモメンタム」は見られない

4/12(木) 12:56配信

ニュースソクラ

企業の中長期物価見通しは1%程度

 企業の中長期的な物価観は、かなり安定してきている。4月3日に日本銀行が公表した3月短観の企業物価見通し調査によると、5年後の消費者物価見通し平均値は前年比+1.1%と、前回の昨年12月調査と全く同じ水準だった。2016年12月調査から6回連続で、この水準が続いている。

 5年後の消費者物価見通し平均値は、調査開始当初は前年比+1.7%であったが、その後は低下傾向を辿り、上昇傾向を一度も見せることなく最近は+1.1%で安定している。過去6回の調査中には、景気情勢の改善、円安進行、原油価格上昇などといった物価上昇の追い風も吹いたが、企業の中長期的な物価見通しは全く揺らがなかった。

 企業の中長期的な物価見通しが安定感を強めていることは、将来の物価環境についての不確実性が低いことを意味しており、企業の経済活動にとっては好ましいことだ。しかし、2%の物価安定目標を目指す日本銀行にとっては、企業の中長期的な物価見通しが1%程度の水準で安定してしまったことは、大きな悩みの種である。

 実際の消費者物価(全国)は、生鮮食品を除くコア指数で2月に前年比+1.0%である。1年前の2月に前年比+0.1%だった上昇率が、1年間で+1.0%まで高まったのは、エネルギー価格上昇によるところが大きい。しかしその影響も既に一巡してきている。また年初からの円高進行も、早晩、物価に悪影響を与え始めるだろう。こうした点と、企業の中長期的な物価見通しが1%程度で安定している点を考え合わせれば、現在+1.0%である消費者物価上昇率が、この先さらに改善していく余地は限られるだろう。

 ところで日本銀行は、物価について、「2%の物価安定目標に向けたモメンタムはしっかりと維持されている」との説明を繰り返している。しかしこのモメンタム(勢い)という言葉が一体何を意味しているのか、それをどのように測るのかは明確でない。マクロ的な需給ギャップが改善していることを、その一つの根拠にしているようにも見えるが、そもそも需給ギャップは循環的なもので、長い目で見れば物価に対して概ね中立的だ。

 需給ギャップが0%程度のもとでの物価上昇率が中長期の物価上昇率のトレンドであり、それが2%程度になることを目指すのが、2%の物価安定目標ではなかったか。需給ギャップは2017年7-9月期に+1.5%(日本銀行推計)と、リーマンショック前の2007年10-12月期以来の高水準にある。現在の物価上昇率は、需給ギャップの面から強い後押し、いわゆるハンディを与えられた状態にある。それにも関わらず、2%には程遠いのである。

 2%の物価安定目標が金融政策のみで達成可能でなく、また妥当な水準でもないことは、多くの人の目にも既に明らかだ。この点は、日本銀行も十分に理解しているのではないか。「2%の物価安定目標に向けたモメンタムはしっかりと維持されている」という決まり文句は、物価上昇率が2%を大きく下回っていても、かつてのように追加的な緩和措置はとらないことを正当化する言い訳のようなものではないか。そうであれば、仮に追加緩和を実施しても、2%の物価安定目標に近づくとは、日本銀行ももはや考えていないのだろう。

 日本銀行は、妥当ではない目標に固執するのを直ぐにやめ、2%の物価安定目標を中長期の目標とするなど、より柔軟化する方向で見直すべきだ。それが、金融政策の正常化を正式に始める第一歩ともなる。

■木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。

木内氏の近著
1)『金融政策の全論点: 日銀審議委員5年間の記録』(東洋経済新報社、2月16日出版)。
2)日銀の金融政策についての見解をまとめた『異次元緩和の真実』(日本経済新聞出版社、2017年11月17日出版。

最終更新:4/12(木) 12:56
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