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外から見た富士通、内から見た富士通 中山首席エバンジェリストが入社8か月を語る

4/13(金) 18:17配信

BCN

外から見た富士通、内から見た富士通 中山首席エバンジェリストが入社8か月を語る

中山五輪男・首席エバンジェリスト(右)と、旧知の仲で同じ年齢のBCNコンテンツプロデューサーの谷畑良胤

 昨年8月に週刊BCN+で掲載した「衝撃! ソフトバンクの中山五輪男氏が富士通移籍 AIやクラウドを全国に広める(https://www.weeklybcn.com/journal/news/detail/20170821_157812.html)」は、大きな反響を得た。現在に至っても、ページビュー(PV)数が当サイト内で上位に位置しているほどだ。中山氏が富士通の常務理事グローバルマーケティング部門首席エバンジェリストに就任して、8か月が過ぎた。改めてインタビューし、富士通に入る前と入ったあとの違いや、今後の展望などを聞いた。

●AIの勝率、18勝3敗と圧倒

――2017年8月21日にソフトバンクから富士通に“電撃移籍”してから、8か月が経過しました。外から見た富士通と内から見た富士通では、どんな違いがありましたか。

中山 富士通に入る前、田中達也社長からは私に、3つのことをやるように指示を受けました。エバンジェリスト活動を積極的に展開し、富士通の製品・サービスの訴求活動をやってほしいというのが一つ。二つめは、富士通社内でエバンジェリストを育成して欲しいということでした。最後は、「常務理事」という役員として経営に参画し、戦略立案に携わるようにという要請でした。

 本題に戻しますと、外から見た富士通は、ソフトバンク在籍時に見ていた印象ですが、固い典型的な国産ITベンダーというイメージがありました。しかも、説明が小難しい。ただ、まじめな会社であると感じていました。以前、在籍していたソフトバンクは「でっかいベンチャー企業」というイメージの会社です。そこから老舗のITベンダー、富士通に入社したわけですが、文化の違いはありました。

――どんな文化の違いがありましたか。

中山 最も驚いたのは、紙のドキュメントの多さです。ソフトバンクは、孫正義社長が「紙を使うのは社員ではない」とばかりに、全社的にペーパーレスを施行しましたので。富士通では、業務分掌の説明や各部門からの製品・サービスの説明にきましたが、資料は紙ベース。入社して1週間で、机の引き出しがいっぱいになってしまうほどでした。一方、技術力の高さは想像以上でした。人工知能(AI)や量子コンピュータの技術開発などです。それは、エバンジェリストにとっては、いい環境に身を投じることができたと感じました。

――ソフトバンク時代は、年間300回以上の講演をこなしていました。富士通に入ってからは、さすがに減ったと思いますけど、回数はどう変わり、依頼を受ける講演内容はどう変化しましたか。

中山 講演回数は、ソフトバンク時代の8割程度で、常務理事という立場で会議が増えたことが要因です。このペースは、今後も変わらないと思います。内容として要望を受けるのは、AIに関連する内容が多いです。最近では、量子コンピュータや「働き方改革」などになります。いままでは「働き方改革」の話題は少なかったのですが、日本マイクロソフトと富士通のAIを組み合せ、働く人を中心にした働き方改革に必要な新たなソリューション(*1)を開発中であるため、その関連で講演する機会が増えました。

*1)日本マイクロソフトの統合型クラウドサービス「Microsoft 365」と、それをベースとして富士通が社内外で推進してきた企業へのグローバルコミュニケーション基盤導入の中で蓄積してきた知見やノウハウ、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(Zinrai)」とマイクロソフトの「Microsoft Azure」 上で提供されるAIプラットフォームサービスを組み合わせた新たなソリューションを共同で開発することで両社は協業した。

――富士通の中山さんとしての講演は、何度か聞いていますけど、やはり、御社のAI「Zinrai」に関する内容は受けているように感じました。私自身、Zinraiの存在は知っていましたが、競合他社に比べてどうで、なにができるかまでは知りませんでした。

中山 私も、ソフトバンク時代に富士通のZinraiは知りませんでした。富士通に入って調べてみたら、年間の案件数は国内だけで760件を超えていました。これって、すごいことですよね。この案件のうち、100件程度は本番環境に移行し導入できています。残りは、PoC(概念検証)の段階にありますが、この案件数を脅威に感じる競合ITベンダーが多いはずです。直近の戦績では、競合の某AIとコンペになり、18勝3敗で富士通が圧勝しています。

――なぜ、富士通のZinraiはそんなに勝てるのですか。

中山 富士通は、システムインテグレータ(SIer)として、古くから一つひとつの顧客に真摯に向き合い、営業もシステムエンジニア(SE)も含めて顧客を理解できている。私が顧客に聞くと、「近くにいる富士通」という安心感があるようで、外資系のコンピュータメーカーに比べ、長く契約することを考えると富士通を選択することになるようです。AIに関していえば日本語処理が重要で、そこでの富士通のレベルは高い。30年以上も前からAIの研究開発を行っているので、自然言語処理を含め技術力が長けています。Zinreaiは、日経BPの「パートナー満足度調査2018」のAI部門で1位を獲得しました。

●デジタルアニーラの話も人気

――ソフトバンク時代も「IBM Watson」の講演で聴衆者を引きつけていましたので、富士通のZinraiを話すのは、お手の物と思います。Zinraiの次に講演内容として多いのは、どんなことになりますか。

中山 最近は、量子コンピュータと汎用コンピュータの両者のよさを取り入れた富士通の新アーキテクチャコンピュータ「Digital Annealer(デジタルアニーラ)」の話をよくします。正確にいうと、量子コンピュータではありませんが、デジタルのコンピュータと量子コンピュータの違いから説明し、デジタルアニーラに触れています。

 デジタルのコンピュータは、「0」or「1」の世界です。一方の量子コンピュータは、「0」と「1」を同時にもつ、重ね合わせができる量子ビットの特徴を生かすので、数万倍から数億倍の速さを出せる。講演では、基本的な仕組みから始まり、業種業態でこの仕組みがどう使えるかという「想定事例」を数多く示しています。

 デジタルのコンピュータ上で面倒な処理の一つに、「組み合せ最適化問題」というのが存在しています。富士通のデジタルアニーラは、「組み合せ最適化問題」を解決する専用マシンなんです。例えば、営業担当者が東京から全国の複数か所を巡回する際、ルートを考えると組み合せが多くある。例えば、6都市を巡回する場合は、720通りになる。このなかで最適なルートを迅速に導き出すことができます。

――講演では、「想定事例」を多くだすことを心掛けているそうですが、デジタルアニーラはどんな産業に適していますか。

中山 例えば、輸送・物流ルートの最適化や災害対策に際して、自衛隊員の配置や食料の供給などのルートを探る。あるいは、工場作業員のシフトなどもそうです。工場は、個々人の就業条件が異なっていますが、こうした条件から最適なシフトを一瞬で導き出せます。製薬業では、多くの分子を組み合せて新薬を開発する際は、金融関係でも、みずほ銀行の株が上昇すればトヨタ自動車の株価が下落する、といったように、株価の関連性を知ることができ、最もリスクの少ない購入の仕方を指南できる。

――富士通の中山さんとして、何度か講演を聴講したといいましたが、ソフトバンク時代に比べ、富士通の製品・サービスを語る比率は高まっているように思います。ソフトバンクは流通・卸という立場ですので、さまざまな製品・サービスを中立的に説明できます。一方、富士通はSI会社を標榜していますが、聴衆者の認識はメーカーですので、そのあたりが影響しているのでしょうか。

中山 そんなに富士通色が出ていますかね。でも、ソフトバンク時代から、先端技術をわかりやすく説明するという心掛けは変わっていません。ただ、富士通では、エバンジェリストであるだけでなく、富士通の製品・サービスを売る営業マンでもありますので、多く買ってもらえることを意識しています。しかし、それでもソフトバンク時代とスタンスは変わっていません。

 確かに、ソフトバンクにいながらも、iPhone/iPadのエバンジェリストをしていた時、アップルの社員と間違われるほどでした。IBMの社員かと思われるほどにIBM Watsonを語っていましたしね。そのメーカーの人間になりきってやっていました。それが、富士通の社員になったので、富士通の製品・サービスを中心に語っているだけの違いです。

●「イワオ塾」でエバンジェリスト養成

――エバンジェリストをしながら、富士通の製品・サービスを販売するきっかけづくりもしていますよね。

中山 はい。エバンジェリストという肩書きではありますが、企業の代表者に会い、トップセールスをしています。富士通は、こういう動きが苦手だったようです。現場にどっぷりと入っていますが、一方で、企業のトップに会って、自社製品・サービスの優位性を説明する機会が少なかった。

 そこで私が、首席エバンジェリストという立場で会いに行けますので、その役割を果たしています。富士通に入ってからも、東証1部の大手企業などのトップによく会っています。会い方はさまざまですが、例えば、Facebook上の知り合いから、ソフトバンクから富士通に転籍したことを知り、「会いたい」とメッセージをいただき、すぐに営業時間を調整します。

 もう一つは、国内最大のユーザー会「FUJITSUファミリ会」があります。そこに呼ばれて講演すると、集まった企業の役員クラスの方から、「当社の社員や役員に同じ話をして欲しい」という依頼を受けます。このように、呼びたくなる話し方をする人が、これまで富士通にはいませんでした。呼ばれた際は、富士通の製品・サービスをアピールしたり、当社の営業につなぐこともしています。

――富士通にいながら、富士通社員ではないイメージというか、中立的な感覚を相手に与えるんでしょうね。それが役員など決裁者との接点強化につながっているんですね。

中山 富士通の田中社長からは、入社時に「伝え方から何から、富士通を変えてほしい」といわれました。エバンジェリストのプロとして、とくに「伝え方」を社員に浸透させたい。

――ソフトバンク時代と比べ、バックアップ体制とかは変わりましたか。また、ミッションの一つにエバンジェリストを育成することが挙げられていますよね。

中山 富士通社内には、私に付いているデザイン・チームがあります。しかも、レベルの高い資料を作成してもらっています。従って、以前よりも講演に集中できるので楽になりました。

 また、「エバンジェリスト養成講座(通称:イワオ塾)」を入社時から始めています。ソフトバンク時代は、第三期、総勢約50人を育成しました。富士通でも、各本部長から推薦された15人程度の第一期生の塾を開催しています。最終的に試験に合格した人を正式にエバンジェリストにするということをしています。第一期生は、マーケティング部門の社員が集まっています。今夏以降は、営業やSEなどに幅を広げます。これを継続的に実施し、さまざまなタイプのエバンジェリストを育成する予定です。例えば、製品に特化した人や、流通・小売りなどの分野に特化した人を育てます。現在は、1回2時間程度の講座を隔週で半年間やっています。

 いずれは、日本全国と海外の外国人のエバンジェリストを育成することも、視野に入れています。富士通に転籍した際、英語のメールが多く飛んできた。「私もエバンジェリストになりたい」といったメッセージがきました。

――富士通に入ってから、新たな目標はできましたか。

中山 経営戦略面に足を入れたいです。富士通の役員は、外の会社からきた方が少ないんです。私は、複数の企業で、営業やマーケティングなど、(職務・職位も)多くを経験していますので、これを生かしながら経営に深く入り込みたい。

――中山さんが富士通に入社したことで、御社のイメージは相当変わったように思いますね。

中山 それは、よくいわれますね。

――ところで、「常務理事」というのは、どんな役割なんですか。また、富士通の現況をどうみていますか。

中山 厳密にいいますと常務理事は、内部統制を監視・監査する規定になっていますが、いままでにない特別なポジションと理解しております。役員のなかで、富士通以外から入ってきた人は、31年ぶりだそうです。当然、役員会議も出席します。いま顧客は、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の世界を志向しようとしています。私の印象で、いまの日本は、DXを推進する“夜明け前”と感じています。ビジネスの状況としてはステイで、次にジャンプするまでの間、待っている状態と感じています。それに向けて富士通としても、製品・サービスを整備し、ブロックチェーンやRPAなど注目されている分野への技術開発を強化しています。富士通は、なんといっても「国内最大のSIer」です。その立ち位置のよさを生かせる時が迫っています。

――5月には、富士通に入社して初めて、晴れの舞台となる「富士通フォーラム2018東京」に登壇するそうですね。

中山 5月17日と18日に「富士通フォーラム2018東京」(http://forum.fujitsu.com/2018/tokyo/)を開催します。私は、複数セッションを担当しますが、とくに聞いて欲しいのは、いま話題のメディアアーティストの落合陽一氏と、企業再生をテーマに2人でトークセッションをしたり、日本マイクロソフトのエバンジェリストである西脇資哲氏と、聴講者と一緒にお酒を酌み交わしながら、エバンジェリストについて語り合います。全部で7セッションをこなします。

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 富士通の歴史上、同社以外から役員に就任した例は中山さんを含め2人だけという。その意味で、富士通のイメージを変え、製品・サービス訴求を強化しようという経営の危機感があり、中山さんを採用したのだろう。私の知る限り、「富士通の中山五輪男」としての講演を聞いた方は、異口同音に同社のイメージがいい意味で変化している。(谷畑良胤)

最終更新:4/13(金) 18:17
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