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本当にアメリカは大谷フィーバーなのか? =最高のスタート、「社会現象」の予感も

4/13(金) 16:23配信

時事通信

 大谷翔平がついにメジャーリーガーとしてデビューし、鮮やかなスタートを切った。初打席でヒットを記録し、初登板でも勝利。圧巻だったのはその後の本拠地エンゼルスタジアムでの活躍だ。3試合連続で本塁打を放ち、8日の日曜日のホーム初登板は7回途中まで1人の走者も許さない完璧なピッチングでチームを勝利に導いた。
 その内容は米メディアの絶賛ぶりと合わせて日本でも大々的に報じられた。「全米が熱狂」しているかのような印象を与える報道もある中、アメリカでの盛り上がりは実際どうなのか。エンゼルスの本拠地があるオレンジ郡の地元紙オレンジ・カウンティ・レジスターで働く唯一の日本人記者が、現地メディアの一員として米国での評価、盛り上がりを客観的に分析する。

〔写真特集〕投打「二刀流」大谷翔平

 4月6日の対アスレチックス戦、大谷翔平の名前が告げられると、エンゼルスタジアムの観客は立ち上がり、その日一番の歓声を送った。

 ランナー二塁、一発が出れば同点のチャンスとはいえ、まだ試合は4回裏。8番打者に対する反応とは思えない。

 大谷が軽く会釈をして打席に入っても、球場内のざわめきは収まらない。日本と違って鳴り物がないメジャーの球場では、観客の反応が肌で感じられる。一球一球の行方を逃すまいと、観客が集中しているのが伝わってくる。シーズンが始まったばかりとは思えない異様な空気だ。

 それもそのはず、まだ23歳のルーキーはその前の打席で3試合連続となる特大ホームランを、センター後方にそびえ立つ巨大な岩のオブジェにたたき込んでいたのだから。「日本のベーブ・ルース」と称される大谷が、次に何をやってくれるのか、球場全体が楽しみでたまらないのが伝わってくる。

 ファンのそうした期待感が、2日後の大谷の本拠地初登板には、チケット完売という形で表れた。まさにエンゼルスファンが大谷のとりこにされた1週間だった。

 「彼は間違いなくヒーローになる。みんなオオタニを愛しているよ」と話すのは、1970年代からエンゼルスのファンだという同僚記者のキース・シャロン。開幕直前には大谷のオープン戦の不振を見て不安の声も漏らしていたが、そんなものは吹っ飛んでしまった様子だ。

 物心ついた時からエンゼルスのファンであるオレンジ郡在住のチャッド・ゲーブルさん(32)は、大谷のホーム初登板を球場で観戦。2002年にエンゼルスがワールドシリーズで優勝した時以来の熱狂ぶりだと振り返る。

 「1人の選手が、こんなにエンゼルスファンを興奮させたのは初めてかもしれない。(チームの顔である)マイク・トラウト以上です」

 日曜日(8日)の試合には、大谷の投球を生で見ようと、いつもよりさらに多くの日本メディアに加えて、全米の野球記者たちがアナハイムに集まった。チームの広報担当者によると、普段よりも40人以上多くの報道関係者が取材許可証を申請してきたという。

 「オオタニは本物」と話すのは「スポーティング・ニュース」に寄稿するジョセフ・ディポリート氏。アメリカのスポーツを40年間取材しているベテラン記者だ。「(オオタニが)アメリカに来る前はちょっと懐疑的だったけど、この1週間の活躍だけで私を十分に納得させてくれたよ」

 ベーブ・ルース以来の二刀流に挑戦する大谷が、現時点で世界で最も注目を集めている野球選手であることは間違いない。誰もやっていないことに挑戦する者への好奇心の表れだ。

◇「全米熱狂」報道との温度差は
 ただし、この注目度はあくまでもスポーツ界に限っての話。

 日本のテレビ番組などで目にする「全米が熱狂」というレベルには、まだ達してはいないというのが現実だ。オレンジ郡を取材する記者として、地元ですらまだ社会現象になっているとは言えない。

 エンゼルスファン同士でもなければ、大谷が会話の話題に上がることはほとんどないだろう。

 というのも、アメリカは広大で多様だからだ。

 人々の興味は様々。だからあらゆる趣味・嗜好(しこう)に合わせたテレビのチャンネルが何百とある。

 話題の人物があらゆるテレビ番組に出演して、ほとんどの人がどこかで見聞きしたことがあるという日本のような「社会現象」は起きづらいのだ。だから日本のメディアが、日本の有名人が「全米を熱狂」させたと報じるのには違和感を感じるのだ。(思いつく限り、近年アジア人で本当にアメリカ全土を沸かせたのは、K-POPの「江南スタイル」くらい。)

 イチロー選手がマリナーズで大活躍していた時期も、話題になった範囲としてはシアトルとスポーツ界に限られていた。アメリカにやって来た日本人が、現地人との会話ネタとしてイチローや松井秀喜を出して、「誰それ?」という反応をされる様子を幾度も目にした。

 特にメジャーリーグは人気が下降気味。現役選手でスポーツという垣根を超えたスターはいない。スポーツに興味のない人が現役メジャーリーガーの名前を1人も挙げられないというのはザラだろう。

 エンターテイメントが豊富な南カリフォルニアでは、野球に興味のない人は大谷の名前をまだ聞いたことすらないかもしれないことは頭に入れておいてほしい。

◇バレンズエラ級の熱狂も
 南カリフォルニアで社会現象となったスポーツ選手として真っ先に名前が上がるのが、1981年に衝撃のデビューをしたドジャースのフェルナンド・バレンズエラ投手である。

 メキシコ出身の彼は、愛嬌のあるずんぐりした体型から繰り出すスクリューボールを武器に新人記録となる開幕8連勝(完封5試合)を果たす。同年に新人王とサイ・ヤング賞を史上初めてダブル受賞し、チームもワールドシリーズでヤンキースを倒して優勝。彼の熱狂的なファンは「フェルナンド・マニア」と呼ばれた。

 特に中南米系住民から絶大な人気を誇り、これまで野球に興味のなかった人々がバレンズエラを見ようと球場に足を運ぶようになった。バレンズエラが本拠地で投げる試合はほぼ満席。敵地では彼が投げる試合だけ平均1万4000人以上も観客が増えた。

 オレンジ・カウンティ・レジスターの現編集局長で、以前はスポーツ局長を務めていたトッド・ハーモンソンは、地元での大谷フィーバーはまだまだバレンズエラには及ばないと話す。

 しかし似たような社会現象を起こす可能性は見えたとも付け加えた。

 「オオタニがこの1週間で見せたような活躍を続けることができたら、すごいことになるだろう」

◇スーパースターへの階段
 開幕からわずか1週間ほどで大谷は自らの資質を証明した。

 本塁打連発や勝ち星といった結果も残したが、打球速度や球速、足の速さといった運に左右されない指標で、メジャーでエリートレベルの数値をたたき出している。

 大谷に批判的だった現地の野球記者やスカウトたちの中には、すでに大谷信者になった者もいる。

 それでも現在の大谷への専門家による評価は、まだ期待という部分が大きい。絶賛されているのは、スーパースターとして認められたからではなく、限りない可能性を感じさせてくれるから。

 問題は投打でシーズンを通じて安定した成績を残せるかどうかである。メジャーの過酷なスケジュールや長距離移動、時差、蒸し暑い東海岸の夏などはこれから経験する。

 メジャー歴代4位の通算696本塁打を放った現解説者のアレックス・ロドリゲスは、FOXスポーツ局の番組で大谷の活躍について、「メジャーリーグが高校野球なのかと勘違いさせる」と褒めた。

 その上で、「今はちょっとした新婚旅行のような状態。8月にどうなるかが知りたい。肘に痛みも出てくる。投手のやるべきことを全てやりながら、いいスイングを保たなくてはならない。そうした時に困難に直面するだろう」と付け加えた。

 メジャー初登板の大谷から本塁打を放ったアスレチックスのマット・チャップマン三塁手に話を聞くと、対戦した回数が少ないと前置きをしながらも、大谷の実力は「本物」だと太鼓判を押した。「彼はとてつもない才能を持っている。彼のようにあらゆることをこなせる選手を見たことがない」

 大谷がシーズンを通して二刀流を続けられれば、ベーブ・ルースが1918年に記録した13勝、11本塁打を抜くことはそんなに難しくはない。その上でチームも勝てば、大谷はマイケル・ジョーダンやタイガー・ウッズのようにスポーツという垣根を超えたスーパースターとしてアメリカで「社会現象」になるだろう。

 大谷が二刀流で野球界のパイオニアになれるのか。これからも目が離せない。

(志村朋哉/米オレンジ・カウンティ・レジスター紙記者)
(時事ドットコム編集部)

最終更新:4/13(金) 18:04
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