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母も故郷も分からない…41年分の記憶失う 高次脳機能障がい者が挑むクラウドファンディング

4/13(金) 16:30配信

沖縄タイムス

 人気音楽グループ「globe」のKEIKOさんが患い、夫で音楽プロデューサーの小室哲哉さんの引退の一因にもなった「高次脳機能障がい」。記憶がなくなり、感情のコントロールができないなどの症状が出るのが特徴だ。沖縄でもこの障がいと闘う男性が、自身の体験を書籍化するため、クラウドファンディングに挑んでいる。彼に起きた出来事とは…。(與那覇里子)

名前が分からない

 「ここは一体、どこなのか」。
 大庭英俊(おおば・ひでとし)さん(53)は、ベッドの上で思案した。
 床にカバンがあった。免許証を取り出すと本籍地、現住所には「長野県松本市」と書いてある。「僕は信州人で、おおばというんだ」。
 名前も分からなくなっていた。
 突然に記憶を失ったのは2006年、41歳の秋だった。

 医師によると、仕事中に急性心筋梗塞で倒れ、13分間も心臓が止まっていたという。記憶がないことを医師は「今は気にしないで」と言った。
 妻と名乗る人が病院にやって来た。どうやら、結婚しているらしい。
「仕事はキャンセルしておいたから。心配させるといけないから、お母さんには連絡してないからね」。
 そう言っていた。

 記憶が消えている。今日の出来事を記録に残すため、その日からブログを始めることにした。翌日起きると、前日の記憶もなくなることが分かった。起きればすべてがリセットされてしまう日常が始まった。

体が覚えていたホルンの記憶

 退院後、初めて戻った自宅。使っていたと思われる仕事用のノート、日記、スケジュール帳をあさり、読みまくった。

 どうやら、フリーランスで音楽講師の仕事をしていたようだ。
 平日の昼は音楽教室で個人レッスン、夕方からは小中高で部活の指導、土日は学生と社会人の団体向け。
 スケジュールはびっしり。高校卒業後、20年以上も休みなく働いていたことも分かった。
 「仕事を失うことが怖かったようです。細かい指導法などもノートに書かれていました」
 後日、医師から急性心筋梗塞の原因がストレスであることを告げられた。

 部屋には、トランペットが置かれていた。マウスピースに口を当てると音が出た。ホルンもあった。自分の意思と関係なく、指と体が動きを勝手に思い出す。吹けた。

 ただ、演奏ができたことで、大庭さんは、自分自身のことについては分からなくても、体に染みついた「手続き記憶」が残っていることが分かった。顔を洗うこと、歯磨きをすることといった動きは体が覚えているため、ある程度の日常生活を送ることができている。

 「今も楽器を演奏しますが、楽器が好きだから吹いているという気持ちは全くありません。できるから吹く。好きとか嫌いとかいう感情もありません」

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最終更新:4/13(金) 16:30
沖縄タイムス