ここから本文です

発達障害という診断 新たな道開く可能性、雇用率追い風に

4/13(金) 8:58配信

福井新聞ONLINE

 入社して数カ月すると、母が作った弁当に手を付けず持って帰るようになった。「おなかがすかなくなってしまって」。福井市の栄介さん(30)=仮名=は以前に勤務していた会社員時代を言葉少なに振り返る。

 ミスをすると、上司の男性に怒られた。「早く辞めてくれ」。4、5人の社員がいる前でたたかれたり、蹴られたり。「ガソリンをかけて殺してやる」とまで言われた。

 ボールペンの先で突かれることもあった。手のひらや甲で受け止め、血がにじんだことは1度や2度ではない。周りは見て見ぬ振りだった。

 仕事が終わると、1人になりたくなった。自宅から少し離れた駐車場に車をとめ、シートを倒して2~3時間横になった。1日のことを思い出していた。親からの電話にも出なかった。そんな状態は長く続かず、半年で仕事を辞めた。

   ■  ■  ■

 その後、ハローワークに時々通ったが、パソコンで求人情報を見るだけで、面接を受ける気にはなれなかった。それ以外はほぼ自宅。図書館で借りた東野圭吾の小説を読んだり、ゲームをしたりして過ごした。

 ひきこもりにありがちな昼夜逆転はなかった。朝は7時ごろに起きて、植木鉢のナスやトマトに水をやった。離れた場所にある畑に行くこともあった。ジャガイモ、ニンジン、ピーマン、ニンニク、シシトウなど季節ごとに野菜を作った。「家にいるのは(家族に)悪い。体を動かすと少し気分が良くなった」。栽培方法はインターネットや本で調べた。

 仕事を辞めて数年後、ハローワークの紹介で二つの会社に就職したが、どちらも1カ月と続かなかった。仕事をせかされたり、ミスが続いたことが原因だった。無口なのをいいことに、無関係の責任を押しつけられることもあった。「そんな会社が本当に嫌だった」。理不尽だと思ったが、反論はできなかった。

 家族らに勧められ病院に行くと「広汎性発達障害」と診断された。

   ■  ■  ■

 2年前に精神障害者として、製造業の会社に採用された。主な仕事はねじの取り付け作業。職場で仕事以外の話はしないが「黙々とやれるところがいい。だから続けられている」と話す。

 県内の民間企業で働く障害者数(昨年6月時点)は2632・5人、従業員全体に占める障害者の割合は2・4%で、ともに過去最高を更新。民間企業の法定雇用率は今年4月、2・0%から2・2%に引き上げられるなど、障害者雇用は着実に進んでいる。ある企業担当者は「雇用率を達成するために、働いてくれる障害者を探しているがネットワークがない」と話す。

 KHJ全国ひきこもり家族会連合会県支部の近藤茂樹会長(70)は「精神科に通うことは、偏見もあって本人、家族にとってなかなか踏み出せない。ただ、きちんと診断してもらえば、道が開ける可能性がある」と指摘。栄介さんも「障害者手帳がなかったら仕事には就けてなかったと思う」と話す。

 そうはいっても、仕事や環境に慣れるには時間がかかる。気分転換になっていた農作業は、就職した2年前から途絶えたままになっている。

福井新聞社

あわせて読みたい