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現場社員を「お客様」と呼ぶのは当社だけです

4/15(日) 17:31配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る 若山陽一UTグループ社長兼CEO(3)

 ――減収減益による赤字を契機に、社員が「うれしい」と思うことをやろうという経営理念を決めたのが、大きな転機だったわけですね。

 社員の人たちが生き生きする条件を抽出すると、2つに絞られました。1つは仕事の難易度とスキルが常に上がっていくことです。

 人は上昇意欲に支えられて成長するものです。決まりきった仕事ばかりでは、意欲が衰えて生き生きしなくなります。マンネリ化した夫婦みたいに、緊張感が無く、落ち着いてはいるけど、毎日にはりが無くなります。

 もう1つは、チーム単位での派遣です。日本の製造業は、全員で力を合わせて改善しながら生産性を上げることに、1人ではできない価値があると思うんです。

 チームによる達成感は、1人でやる場合とは違うスケールの達成感や、やりがいがあります。

 この2軸に合う職場はどこなのかと考えて、半導体工場に特化したのが2001年だったのです。以来、半導体工場への派遣を10年間やり続けて、そこから同じ事業モデルで領域を広げてきたわけです。

 製造業派遣の会社は数百社あるでしょうけど、現場の社員を「お客様」と言っているのは当社が唯一だと思います。

 ――普通は、経営理念を考えるより、1つでも多く売って来いという経営者が少なくないと思いますが。

 私たちは業績が落ち込みクライシスを経験したからです。結果に一喜一憂するのなら、自分たちが信じるものや、よかれと思うことをやった方が、納得性が高いと気づいたんです。

 いいか悪いかより、好きか嫌いかが理念の根本にあると思います。自分たちは社員が喜ぶことをやるのが好きなのだと選択する機会が、クライシスの時に訪れたのです。

 ――覇道と王道という言葉を借りれば、経営にも、何をやろうが儲ければ勝ちという覇道と、儲けるのにも道があるという王道があります。若山社長は失礼ですが、若くして起業され、よく王道を選びましたね。

 よく王道に行ったねと(笑)。覇道に行きそうだったかもしれませんけどね。(笑)

 やっぱり自分より優れた人がたくさんいると理解していますし、特に会社の中にそう感じることが多いんです。

 会社を成長させ、よくするために、戦略や組織作りなどでいろいろなことを考えなければなりません。しかし自分にはできないこともあります。今もそうですが、自分より優秀な人にいかに当社に入っていただくかが重要で、そこに一番気を使っています。

 覇道のように勝てばいいんだという発想は、自分に相当自信がないとできないと思います。私はそういうタイプではないので、そんな発想にはあまりならないんです。

――全部、自前でやって来られたのでしょう。

 失敗もあり、波がありますよ。20代で起業していますから、うまくいって偉そうになる時期もありました。だけど調子に乗って、うまくいかなかったこともある。

 いろいろ経験して、50歳も近くなってくると、これは人に任せた方がいい、こんなことで偉そうにする意味はないと、わかります。そこで曲がっていた道が王道に向いて、覇道に落ちそうな所で踏みとどまってきたのではないですか。(笑)

――失敗はありましたか。

 一杯ありますよ。20数年を振り返って、失敗は1人ですぐにできちゃうものだなとつくづく思います。成功は、みんなの努力など、いろんな条件がそろわないとできないのですけどね。

 経営者の判断による失敗は、結構多いなと思いますね。当社で言えば、過去のM&A(合併・買収)です。うまくいかないのは、トップダウンで決めた場合が多くて、なかなか自分の思惑通りに行かないものですね。

――2008年に経営不振に陥った製造業派遣のグッドウィル・グループを買収しようとしたことがありましたね。

 経営に参画することで、世の中にいい影響を与えられると思ったのですが、うまく行きませんでした。

 最初、グッドウィル・グループの債権を買った投資銀行から、経営者がいないので経営をやってもらえませんかという話が直接来たのです。

 当社は上場会社なので、私が競合する企業の経営を同時にするわけにはいきません。当時、私が言った条件は、最終的にUTグループに統合して、私が全体を見て成長させるのであれば、やってみたいということでした。

 当社は市場でグッドウィル・グループの株を30%買ったのですが、その後、話が変わりましてね。ファンドと投資銀行のSPC(特別目的会社)が債権を買って、ファンドが経営の主導権を握って事業プランを再考することになったんです。

 当社が経営に介在する余地はゼロになり、買った株も売らなければいけなくなりました。当初、債権者が代わるとは想定していませんでした。

 M&Aのような話では、想像もつかないことが起きますから、事前に、すべて議論し尽くすのは不可能です。その時の情報で意思決定するとなると、最終的にトップの判断になります。この件は私が犯した失敗でした。

――そのような経験をすると、変わりますか。

 オレは偉いんだ。オレがやれば、何でもうまく行く。グッドウィルを買って、うちにくっ付けて、ボンと世界ナンバーワンになるみたいな話は、こうした失敗の経験を踏まえると、なかなか言えなくなりますね。(笑)

――誰しも自分を過信することはありますね。

 人間は自分が信じたいものを信じてしまうからです。よくありますよ。また同じか、オレがそう信じたかったんだなと思うことがね。

■聞き手 森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:4/15(日) 17:31
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