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なぜ人気? ポケモンとスマスピで話すだけ 「ピカチュウトーク」が見つけた市場の“隙間”

4/16(月) 9:00配信

ITmedia NEWS

 ニュースや量販店などで、「Google Home」や「Amazon Echo」といったスマートスピーカーを目にする機会が増えてきた。しかし、これらを購入しているのは、いわゆるガジェット好きや新しいもの好きな男性たちが中心で、まだ一般層には広がっていないのが実情だろう。

レアなマリオピカチュウ

 というのも、その日のニュースを読み上げる、天気予報を教えてくれるといった実用的な機能は、「スマートフォンでいいじゃん」と言われてしまえばそれまでだったりするからだ。LED電球やテレビなど、スマートスピーカーと連携する製品はあるが、まだ家の中のあらゆる家電と連携する「スマートホーム」の世界が実現しているとは言いがたい。

 そんな実用性とは対極にありつつも、子どもから大人まで幅広い層で人気を博しているのがポケモン社が配信(カヤックが開発協力)しているスマートスピーカー用アプリケーションの「ピカチュウトーク」だ。「ポケットモンスター」で人気の「ピカチュウ」と会話できる、というだけのシンプルな機能だが、アマゾンジャパンが公開した人気スキルランキングでは、2018年1月と2月で2位を獲得している。

 実際、スマートスピーカーを買おうか悩んでいた友人に「目覚ましや天気予報に使えるよ」と言っても全く響かなかったが、「ピカチュウとおしゃべりできるよ」とアピールすると、「何それ、よく分からないけど面白そう」と興味を持ってくれた。

 そう、よく分からないけど面白いのだ。「ピカチュウ、今日の天気は?」→「ピカピカ~」、「ピカチュウ、おはよう」→「ピカチュウ~」といった具合に、返答は「ピカ」や「チュウ」で構成されたものしかないので利用者の想像力が試される。余計な機能をそぎ落とした非常にシンプルなスキルで、いかにもスマートスピーカー黎明(れいめい)期らしいといえるだろう。

 100種以上の豊富な「ピカ」と「チュウ」で返事をしてくれるピカチュウトーク。無機質なスマートスピーカーの中に、まるでピカチュウが存在しているかのように感じさせるためにどのような工夫をしたのだろうか。

●100種以上の「ピカ」と「チュウ」を大谷育江さんが演じ分け

 ポケモン社の小川慧マネジャーは、「ピカチュウがそこにいると感じられるよう、返答の数と生活感を意識した」と話す。

 例えば、「おはよう」という1つの言葉に対して、ピカチュウは「ピカ~」「ピカピカ」「ピカチュウ~」など数種のパターンで返答。それぞれイントネーションをつけて感情も表現する。生活感を出すために、時間の概念も取り入れた。夜になるとピカチュウは眠そうになり、いびきをかいたりする。「誕生日」と言うと、ハッピーバースデーの歌を「ピカ」と「チュウ」だけで歌ったり、「10万ボルト」と言うと、「ピーカ、ヂュウーーーーーー!!」と技を出したりと、特殊アクションも用意している。

 この表現豊かなピカチュウは全て、テレビアニメ「ポケットモンスター」でピカチュウを演じる大谷育江さんの声を台本に沿って録り下ろしたもの。ポケモンのアニメでオープニング曲の歌詞などを手掛ける戸田昭吾さんがシナリオを作成した。収録現場では、ポケモンのアニメや映画にシリーズ当初から音響監督として参加してきた三間雅文さんが、大谷さんの演技を指導し、2時間ほどかかった収録が終わるころには大谷さんはへとへとになっていたという。

 新藤貴行ディレクターはこう振り返る。「戸田さんの作った台本は縦書きで、100種以上あるせりふはもちろん全て『ピカチュウ』でした(笑)。シチュエーション別にこういう感情で、というのが細かく書いてあります」

 台本では、100種以上の日本語リストに対し、ピカチュウのレスポンスを用意。実際には、スマートスピーカーは声のトーンや抑揚など音響的特徴を認識していないが、「今後スマートスピーカーの仕様が変更されれば、元気な「おはよう!」と、どんよりした「おはよう……」の違いによって、ピカチュウをより生き生きと反応させることができる」(小川マネジャー)という。

●ピカチュウと仲良くなれる?

 ピカチュウと話し続けると親密度が上がる仕掛けも用意。小川マネジャーは「しばらく放っておくと、嫌われちゃうんです」と笑う。

 親密度は簡単に変動するらしく、たくさん話しかけるとピカチュウの表現が少し変わり、発言回数も増えるという。逆に放置しすぎて親密度が下がってしまうと、あっさりした“塩対応”をされてしまう。「そういった温度感の違いは意識すると分かるかもしれませんが、そこに気付かなくても楽しめるようにしてます」(小川マネジャー)

 全てのせりふがピカとチュウなので、ちょっとしたニュアンスの違いには気付きにくい。そのために開発時のデバッグにも苦労したという。台本通りに返答しているか確認する際、「ピカ」だけ聞いてもどの「ピカ」なのか分からないからだ。

 小川マネジャーは「さすがにピカチュウの声ではなく、TTS(text-to-speech、テキスト読み上げ)を使いました」と振り返る。例えば、「おはよう」に対して「●番目の××が再生されました」と読み上げ、プログラムのルートを確認していたという。実はこの“ネタバレ台本”も開発はしており、(1)ユーザーが話す→(2)ピカチュウが返答する→(3)TTSでピカチュウがどんな意図で返答したかを説明する、という機能を実装しようと試みたが、途中で踏みとどまったという。

 「AIが自分の言葉を理解してくれているという驚きがある一方で、ピカチュウの言葉が分からないなりに脳内補完して楽しむ行為をスポイルしてしまう」(小川マネジャー)と考えたためだ。新藤ディレクターも、「ピカチュウに『今日の天気は?』と聞いても、『ピカー』としか言わないわけです(笑)。あ、これは晴れって言ってるのかな、と想像するのが楽しみ方の1つですね」と続ける。

 しかし、こうした脳内補完や想像で楽しむのは、実は日本人の特徴なのかもしれないという。

●日本は機械に人格を見いだす?

 2018年の2月末には、英語版の公開も始まったピカチュウトークだが、日米で使い方の傾向に違いがあるという。小川マネジャーは「日本は機械に人格を見いだすが、米国は完全にスマートスピーカーをユーティリティーデバイスとして見ているのでは」と推測する。

 日本では、まるでそこにピカチュウがいるかのように会話ベースで話が進んでいくが、米国ではゲームのタイトルを片っ端から言ってみるなど、調べ物や情報収集を目的としているのか、ゲームのキーワードを話す人が多いという。「日本はAlexaに対して、Alexaさんと言ったりしますが、米国でももう少しピカチュウにハートフルに話しかけてくれたらうれしいですね(笑)」(小川マネジャー)

 ローカライズでも言語や文化の壁があった。日本語の「おはよう」に該当するインテントとして、「おはよう」「おっはー」「おはようございます」などがあるが、例えば「おっはー」をどう英訳するか。英語版では日常会話や軽いスラングのリストを用意したが、「『ハイ』や『グッモーニン』など英語でのバリエーションを用意するので、厳密には翻訳ではなく再設計でした」と、小川マネジャーは苦労を語る。新藤ディレクターも、「ピカチュウとおしゃべりするというコンセプトや思想を(スタッフに)理解してもらうのが大変で、『全部Good morningですよね』と言われたりして困りました」と振り返る。

●ピカチュウトークから「おじさん」の声!?

 新藤ディレクターが17年6月に米国出張した際にAmazon Echoを見かけ、開発期間3~4カ月ほどでリリースされたピカチュウトーク。当初は、LED電球と連携するなど、スマートスピーカーだからこそできる機能を盛り込んだ“超高性能ピカチュウ”を作ろうという構想もあったが、まずは多くの人に分かりやすいものを提供したいという思いから、余計な機能はそぎ落とした。ポケモン社としてスマートスピーカー市場に参入することは、どのような狙いがあったのか。

 新藤ディレクターは「ポケモン自体のブランド戦略の一環として開発を始めた」と話す。文字の読み書きができない小さい子どもでも操れる音声入力を使うことでユーザーとのタッチポイントを増やす、ポケモン社として新しい技術に対してどういうエンターテインメントを提供できるかを示す、といった試みについては「うまくいった」と手応えを感じているという。

 ビジネス面でも新しい試みを始めた。小川マネジャーは「お客さまに対価をもらえるアプリを提供できているかはまだ疑問。では広告になるかといえば、それも始まったばかりの市場なので少し様子見」と話すが、実は期間限定で“とある新機能”が実装された。何げなくピカチュウと話していると、突然野太いおじさんの声が聞こえてくるのだ。

 これは、3月23日に「ニンテンドー3DS」シリーズ向けに発売したアドベンチャーゲーム「名探偵ピカチュウ」に登場する、人間の言葉をしゃべるピカチュウのもの。「俺は名探偵ピカチュウだ」「ピカっとひらめいた」「俺に指図するんじゃない」などのせりふがあり、新藤ディレクターは「実はピカチュウトークの開発当初から、『いきなりおっさんになったら、子どもは絶対泣くよなぁ』などと言いながら、実装の話は進めていました」と笑う。

 あくまでピカチュウと話すことがコンセプトなので、名探偵ピカチュウに「どこまで乗っ取らせるか」のバランスは慎重に探ったという。ピカチュウトークのユーザーがよく使う「10万ボルト」のようなワードの返答にも名探偵ピカチュウを忍ばせることで、自然な出会いも演出。小川マネジャーは「名探偵ピカチュウは、僕らなりに考えた広告の姿の1つ」と話す。

 「国内のスマートスピーカー市場は、まだ実用性に気付いていないステージ。まずは黎明期っぽいものをと考えたが、今後は実用性にシフトしていくと思う」(小川マネジャー)

 今後の展開やアップデート予定などは未定だが、「ピカチュウ、10万ボルトだ!」というと家のLED電球がピカピカ光る――そんな未来もあるかもしれない。

最終更新:4/16(月) 9:00
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