ここから本文です

お使いのInternet Explorerは古いバージョンのため、正しく表示されない可能性があります。最新のバージョンにアップデートするか、別のブラウザーからご利用ください。
Internet Explorerのアップデートについて

XC40「ボルボよお前もか」と思った日

4/16(月) 6:40配信

ITmedia ビジネスオンライン

 ボルボからコンパクトSUV、XC40が登場した。と言っても、すでに欧州では投入済みで、ボディスタイルはおろか、欧州での評判も伝わってきている。

ルーフの塗り分けでも特徴付けられたリヤビュー

 だからいまさら興味がない――とはならないだろう。何しろボルボの歴史上初めて「ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞したのである。当然前評判も高かった。

 ボルボは2015年に欧州と北米で新世代シャシーのデビューモデルであるXC90をリリースして以来、驚異的な受賞ラッシュを記録している。この3年間に受賞した256もの賞がずらりと並んだリスト(表1)を見ると、もはやありがた味が薄れるほどだが、これでもリストの更新が追いついていないらしい。

 重要な賞を拾い上げても、16年の北米SUV・オブ・ザ・イヤーをXC90が、17~18年の日本カー・オブ・ザ・イヤーをXC60が、そして今回XC40が18年欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞ということで、特にSUVモデルが受賞レースを3年連続で制したことになる。そしてこんなことになった要因は、かつての親会社フォード・グループによって10年に吉利汽車(ジーリー・オートモーティブ)へと身売りされ、そこから決死の立て直しで臨んだ新世代シャシーのたまものだ。

●ボルボの車種構成

 現在、ボルボには3つのシリーズがある。大きい側から90シリーズ、60シリーズ、そして40シリーズだ。このボディクラスを決める数字の前にボディタイプを決めるアルファベットが付く。Sはセダン、Vはワゴン、XCはSUV、さらにワゴンには通常モデルに加えて、車高を上げたCROSS COUNTRYがある。こちらは末尾にそのままCROSS COUNTRYと続く。例えば、60シリーズのワゴンの車高が高いモデルならV60 CROSS COUNTRYという名前になるわけだ。

 3つのサイズに3つのボディバリエーションを組み合わせて9種類。ワゴン系の車高違いを加えるとマトリックスは3×4で12種になる。いや、そうなるはずなのだが、CセグメントのV40はワゴンではなくハッチバックで、セダンがない。そこで1コマ欠けて都合11車種がラインアップされている。

 では、シャシーはどうなっているかと言えば、90シリーズと60シリーズには前述の新世代シャシーとして、スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャの頭文字を取ったSPAが使われている。16年にデビューしたXC90から、順次S90、V90、XC60と拡大してきた。遠からず60シリーズのセダンとワゴンにもSPAが投入されるだろう。

 このSPAシャシーは素養の高さこそ感じたものの、XC90のデビュー時にはまだ熟成不足が散見される状態で、だからこそ筆者は、当時の記事で「煮詰まるまで待て」と書いた。

 しかし、SPAがXC60に投入された17年には、SPAは明らかに洗練度を上げており、抱えていたネガを払拭して、熟成が進んだことがはっきりと感じられた。ボルボによれば、XC90も年次改良で進化したので、ぜひとも最新のイヤーモデルに乗ってほしいとのこと。近々試すつもりだ。

●第2の新シャシー

 筆者は、もしかするとボルボの規模では、リソースの問題でブランニューシャシーをいきなり完璧に仕上げてくるのは難しいのではないかという疑いを持ってXC40のデビューを見ていた。

 というのも、ボディサイズ的に90シリーズとかけ離れている40シリーズではSPAの「スケーラブル」の幅に収まらず、このクラス専用に新しいシャシーが開発されたからだ。ボルボでは、このシャシーをコンパクト・モジュラー・アーキテクチャ(CMA)と呼ぶ。

 常識的に考えれば、このCMAはV40にも展開される。かつてフォード傘下にあったときにフォード・フォーカス、マツダ・アクセラと共用開発されたV40も、間もなく新世代シャシーに刷新されるだろう。40シリーズはボルボにとって生命線ともなる販売台数の多いモデルだ。V40がコケるのはボルボにとって最大の悪夢だ。

 XC40に乗ってみればその正念場で投入されたCMAの真価が分かるはずだ。XC40の出来が良ければ、V40は満を侍して華々しいデビューを飾り、かつ旧世代では持っていなかったSUVモデル、XC40の販売台数を加えて、ボルボの躍進が約束される。逆にXC40がダメなら主力のV40が失敗に終わる可能性が高まり、ボルボの命運が怪しくなる。そういう背景を持ってXC40はデビューしたのだ。

●最初は好印象で始まった

 試乗に用意されたのはXC40 T5 R-Design 1st Edition。ボルボがDrive-Eと呼ぶモジュラー設計エンジンシリーズのうち、ガソリン2リッターの直4インタークラー・ターボを装備するT5に、スポーティな内外装を持つR-Designトリムを組み合わせ、さらに1st Editionなる発売記念の特別装備を加えた仕様だ。価格は559万円。300台限定で発売されたこの特別仕様はすでに完売だという。

 XC40では、T4とT5の2種類のエンジンが選べ、T4は190馬力300Nm、T5は252馬力350Nmとそれぞれ出力レベルが違う。駆動方式はT4にはFFとAWDが用意されるが、T5にはAWDのみの設定になっている。要するに筆者が試乗したのは、ハイパワーで4駆でスポーティトリムの限定車ということになる。

 乗り込んで最初に感じるのはシートの出来の良さだ。SPA採用の各モデルには、ボルボの最も高価な新設計シートが用意されており、それは素晴らしいシートだった。フラッグシップ用に開発したそれをXC60にまで投入したことはちょっとした驚きだったが、さすがにXC40では同じシートは使えなかったらしい。それでもマッサージ機能などの豪華装備を省いただけで、同様の設計思想を持つシートを新たに起こし、XC40に搭載した。多分このクラスでこれに並ぶレベルのシートは当分出てこないだろう。

 エンジンを始動して、アクセルを踏むと、タイヤをゆるりとひと転がしさせるデリケートな操作がとてもやりやすく、ここでも極めて高評価を与えられる。最近のボルボはエンジンのレスポンスやサスの硬さを変える「ドライブモード」なる機能が付いているが、辛口のダイナミックにするとこの緻密さが台なしになるので、ベストはノーマル相当のコンフォート。のんびり派の人がロングドライブで使うのであれば多少ラフに扱っても穏やかなエコを選ぶことをお勧めする。

 後に路上で先行車に合わせて速度制御していても、モード選択を誤らない限り、随意に速度調整ができるこのエンジンはすこぶる快適だった。もちろん踏めば252馬力もあるので十分以上に速いが、昨今速いだけなら他にいくらでも候補がある。それより緻密な速度制御ができることの方が価値は高い。

 駐車場から出るために、ステアリングを切ると、こちらも硬質でリニアなフィールでレベルが高い。初期のXC90に見られたような電動パワステの手応えがところどころでランダムに変わる不自然なフィールもなく、ごく自然に操作できる。20インチのオプションホイールを履かされているのを見たときは、一瞬不穏な感じがしたが、タイヤの銘柄を見るとピレリのPゼロ。ならば大丈夫かもしれないと少し安心した。このタイヤを選ぶエンジニアの仕事は信用に値する。

 実際に走ってみると、20インチの巨大なホイールをバタつかせることもなく気持ち良く走る。タイヤが減ったときいくらかかるかを心配しない人であれば、忌避する理由は何もない。ちなみに先述のドライブモードには好みのセッティングを自分で作れるインディビジュアルも選べるので、コンフォートの設定からステアリングだけを一段重くした設定をお勧めしておく、好みの範疇ではあるが、ステアリングが少々軽いのでそこを補正したくなるからだ。

 実はXC40のシートはとても良いが、シートの性格は決してスポーティではない。少しペースを上げるとサイドサポート不足で体が動く。ステアリングが軽いとその動きを拾ってラインが乱れるのだ。XC40は本質的には都会派のSUVであり、スポーティにも走れるが、そこにチューニングを合わせてはいない。

 むしろ普段使いを重視している。バケットシートのような横方向サポートを持たせれば、日常では拘束感が強くなるし、乗降性も阻害される。このあたりはリソースの割り振りの問題なのだ。例えば入り組んだ都市の路地を走ることを想定すれば、デフォルト設定のステアリングの重さがこれくらい軽いことも頷ける。ただ山道ではそれでは少々都合が悪いので、別途調整した方が良いし、そういう機能がちゃんと盛り込まれているということだ。

●「ボルボらしからぬ」の理由

 ところが、リヤシートに乗って驚いた。同じエンジニアが設計したシートとは思えない不出来なシートだった。まず床に対して座面が低い。低いことがイコールNGではないのだが、座面を下げたら、シート前端を持ち上げてやらねばならない。低くて水平だと、ましてやトルソアングルが寝ていると尻が前に滑る。そういう体位設定であるにもかかわらず、座面が平板で尻を固定するくぼみも足りない。さらにシートバックにもサイドサポートがないので、前後方向だけでなく横方向にも頼りない。となると、バランスボールに座っているようなもので、非常に疲れる。ミニバン系に多くある典型的ダメシートだった。

 そこで思い出すのは、プレゼンで見たシートアレンジの説明だ。背もたれがワンアクションで前に倒れ、荷室の床と倒したシートの背面が完全にツライチで水平になる。それだと確かに荷物は積みやすいだろうが、詰まるところ荷台のためのシートであって、座るためのシートではない。プロボックスやハイエースみたいなことになっているのだ。ボルボには過去、こんなシートはなかったのではないか。

 つまりは平らな荷室を作るために、トランクの床の都合で座面を下げ、かつ水平にし、さらに水平に深く折りたたむために座面と背もたれに必要な凹凸を減らしていることになる。この種の仕掛けを持つ日本車のシートがダメだったのと同じことになっている。あちらを立てればこちらが立たずで、そこは魔法のようなわけにはいかない。高邁な思想があろうがなかろうが、物理の限界は超えられない。

 戻ってすぐボルボのスタッフに説明を求め、その意味が判明した。ボルボの思惑としては、リヤシートに乗員を座らせたいのであればXC60を、2人乗車を前提にリヤを巨大なカーゴスペースとして使いたいならXC40を勧めるのだそうだ。ボディサイズが全く同じとは言わないが、互換できないほどには大きさが違わない。要するに、高い安いの序列で40と60を並べるのではなく、違う性格のものとして造り分けたのだとボルボは主張している。

 もう1つ、力説していたことを加えておけば、着座感を多少犠牲にして、リソースをユーティリティに振ってはいるが、リヤの安全性に関しては一歩も譲っていないとのことで、そこはボルボの基準を死守しているという。

 つまり、リヤシートから見ると、XC40はこれまでのボルボと違う新コンセプトを与えられていることになる。ティッシュが箱ごと収められるとか、ゴミ箱がついてるとか、買い物袋をぶら下げるフックが付いているとか、そういう日本の軽自動車的な装備がいろいろと充実している。

 ただし、それらにいちいち理屈が付いているところはボルボらしい。クルマの中のスペースというスペースを徹底的に活用して小物入れを付けようとする軽自動車とちょっと違うのは、時間をかけてユーザーにちゃんとアンケートを取って、クルマに持ち込むものを調べ上げ、それらのあるべき収納場所を理詰めで考えたのだという。そして、全てをパッセンジャー2人の手が届く距離、かつ使い易い位置にレイアウトしたのだそうだ。日本のメーカーだってそういうことはやっていないわけではないと思うが、一歩遡った「なぜ?」を発信しなければ思想的に骨太なものとは受け取られない。長らくロングツアラーとしての機能、つまり走ること、運転することに集中してきたボルボが、都市内でクルマを使うユーザーの日常に初めて目を向け始めたということになるだろう。

 さて、結論だ。XC40はとても素性の良いSUVである。基本として走る機能がちゃんとしている。そして細かな配慮が進んでいた日本のクルマに学んで、日々のユーティリティ向上を図っている。それを軟弱だと思う人にはXC60が用意されている。XC40はXC60と補完し合うことで、新しい都市型ボルボになっていると言えるのかもしれない。

(池田直渡)