ここから本文です

お使いのInternet Explorerは古いバージョンのため、正しく表示されない可能性があります。最新のバージョンにアップデートするか、別のブラウザーからご利用ください。
Internet Explorerのアップデートについて

新興国における破壊的イノベーション

4/16(月) 18:37配信

ITmedia ビジネスオンライン

 東南アジアでは革新的な技術やビジネスモデルの導入が急速に進み、破壊的な産業革新や新たな形での産業創造が次々と起きている。人口増加に伴う経済発展を前提に、いかに市場規模、シェアを高めていくか、もしくは、安い労働力を背景にいかに安く大量生産を行うか、という従来の新興国ビジネスの概念を大きく転換すべきステージに来ている。この変化の中で存在感を発揮している企業は、欧米や中国のメガ企業に加え、ローカルのスタートアップや大手財閥である。彼らに共通しているのは、いわゆる従来型の新興国事業のやり方ではなく、スピーディーかつ大胆に動き、さまざまな仕掛けを能動的に進めていることである。

Disruptiveな変化を主導するプレイヤー(例)

 新しい事業に対し、大規模な先行投資を行い、先行者利益を狙う。最初からベストは目指さず、あらゆる取り組みのトライ&エラーを繰り返し、段階的にベストな事業モデルを構築する。また必要であれば他社との大胆なアライアンスも進める。政府や業界のキープレイヤーを巻き込み、業界を自分たちが目指す方向に引き寄せていく。こういった変化・動きの中で、残念ながら日本企業の存在感は薄い。日本企業も、東南アジアで実現したい世界(=未来構想)を大胆に描き、攻めていくときではないだろうか。経験主義や自前主義を脱却した、意識改革と行動が求められている。経済成長や安い労働力を背景とした従来型新興国ビジネスから、未来構想型の新興国ビジネスへシフトしていくべきである。

●1、東南アジアにおけるDisruptiveな変化の潮流

 かつて、日本企業にとって東南アジア攻略における命題は、(1)人口増加に伴う経済発展を前提に、いかに市場規模、シェアを高めていくか。もしくは、(2)安い労働力を背景にいかに安く大量生産を行うか、の2つであった。

 しかし、わずか数年の間に、東南アジアは日本企業の予想を覆す変化を遂げた。ここでの問いは、「変化が激しい東南アジアにて、他のプレイヤーも巻き込み、どう産業の変革、構造改革を実現し、経済発展に貢献していくか」という、よりダイナミックな方向にシフトした。東南アジアは人種も宗教も多様であるが、産業の変革を促進するエコシステムが全体として機能していることが、圧倒的な変化スピードの背景にある。(図A)

 B2C(消費者向け)の世界においては、シェアリングエコノミー、モバイル決済や送金、ECなどが、ここ数年で消費者の「生活インフラ」として定着した。例えば、ライドシェアの普及で各都市での移動が日本よりも格段に便利になったことは、3年前には考えられなかった変化である。筆者が東南アジアに駐在したこの3年でも人々の生活へのデジタルの入り込み方の進化は想像以上であり、もはや日本のはるか先を行っている。

 B2B(企業間取引)やものづくりの世界においても、さまざまな取り組みが進んでいる。各国政府は、インダストリー4.0/IoTによる産業変革を政策として後押ししており、それは、東南アジアが抱える課題をいかに先端技術で解決するかという観点に基づいている。その枠組みの中で、民間では特に欧米企業、地場企業が中心となり、デジタル技術の展開を進めている。同地域は先進国と異なり、いわゆるレガシーが少ないため、新しい技術やシステムの導入がいち早く進みやすい。

 例えば、シーメンスやエアバスなどの欧米勢は、東南アジアを注力市場の一つとし、シンガポールに最先端の研究ハブを設置し、周辺国への先端技術の導入を狙っている。

 また、ナイキやユニリーバなどの消費財メーカーは、デジタル武装された最先端の工場を東南アジアに導入し、高効率なサプライチェーンやマスカスタマイズへの対応を進めている。

 これらの変化には、域内外の大企業のみならず、急速に勃興してきた成長力のあるスタートアップも寄与している。

 例えば、当地を代表するユニコーン企業であるシンガポールのGrab、インドネシアのGO-JEKは、クルマ、バイクのシェアリングサービスを提供している。

 彼らの事業が成長する過程で産業構造は大きく変わった。移動の質は格段に向上し、消費者はより便利になり、失業者はドライバーという新しい職を得て、大企業が製造するクルマやバイクが売れ、関連ローンやメンテナンス産業が拡大し、モバイル決済が普及し人、物、金がよりスムーズに移動、流通し、税収が増えた。ミャンマーでは政府と組み、都市交通インフラの整備にライドシェアを活用することを進めている。

 新しいテクノロジーが産業に与えるインパクトは一層大きくなっており、予想を上回るスピードで進んでいる。日本企業も、従来型の新興国ビジネスではなく、業界、政府、消費者など、あらゆるステークホルダーの利害を考慮しながら、産業の発展に寄与していく未来を考える段階にある。

●2、産業構造を革新するプレイヤーの台頭

 これら東南アジアにおけるDisruptiveな変化を主導し、産業構造を革新している企業群において日本企業の名前は極めて少ない。その中心は、図の4タイプのプレイヤーである。(図 B)

 それぞれアプローチは異なるものの、彼らに共通しているのは、いわゆる従来型の新興国ビジネスではなく、スピーディーかつ大胆に動き、さまざまな仕掛けを能動的に進めていることである。彼らの投資規模は1社あたり数十億円から数千億円に達し、ここ数年の間に圧倒的なスピードで東南アジアに攻め込んでいる。

 変化が激しい東南アジアの市場で、前例を研究しながら将来を予測し、リスクを最小化しつつ、まずは小さく入っていく、というアプローチが、まったく機能しない。

 彼らは、新しい事業に対し、まずは垂直立上げを狙うべく大規模な先行投資を行い、先行者利益を狙う。また、最初からベストな事業を構築することは目指さず、あらゆる取り組みのトライ&エラーを繰り返し、段階的にベストな事業モデルを構築する。必要であれば他社との大胆なアライアンスも進める。大規模投資リスクを回避するために、政府や業界のキープレイヤーを巻き込み、業界を自分たちが目指す方向に導いていく。つまり、先を予測して動くのではなく、動きながら引き寄せるのである。

 事業が立ち上がった後、他社の追随を防ぐ有効な手段は、その産業の新しいプラットフォームとなることである。GO-JEKはバイクタクシーのシェアリング事業を展開しているが、モバイル決済や、バイクを用いたあらゆる生活サービス(買い物代行、食事や美容師のデリバリーなど)などのコンテンツをそろえた経済圏を構築しようとしている。生活の随所にGO-JEKのモバイルアプリが必須となり、経済圏に取り込まれれば、ユーザーのスイッチングコストは非常に高くなる。

 GO-JEKは政府の他、同国の経済を支えてきた財界の重鎮企業とも連携をとっている。自動車製造・販売を手掛けるAstra International や、大手ECのBlibliはGO-JEKに出資し、GO-JEK経済圏を利用して自社事業の拡大を狙っている。

 新規事業の立ち上げ、新興国への展開は、プロジェクトベースで考えがちであるが、産業を構造的に変革できるか、新たな業界のプラットフォームになり得るか、という中長期的な視点が重要になる。また、描いた未来を実現するには、各国政府やキープレイヤーとの連携も欠かせない。

●3、いま、攻めていくべき日本企業と必要な意識改革

 東南アジアで新たな事業を展開しようとしている日本企業が直面しやすいハードルに、以下のようなものがある。

(1)本社が東南アジアで進んでいるデジタル化のスピードを理解していない

(2)デジタル化が東南アジアで進んでいることは理解していても、自社事業と結び付けて考えることが難しい

(3)現地駐在員はいわゆる従来型の新興国事業を担当しており、新しいビジネスモデルや業界変革を狙うような役割ではない

(4)市場調査と社内検討に時間をかけすぎているうちに事業環境が変化し、参入のタイミングを逸する/パートナー企業がしびれを切らす

(5)新規事業に参入したいが、前例がない事業で成功確率が読めないため、本社の決裁が下りない

(6)リスクを低減するために小規模で新規事業を始めたものの、立ち上がらないうちに、大規模プレイヤーが大規模投資をして勝てなくなった

 これらは筆者が東南アジアで実際に目にした日本企業の実例である。

 繰り返しになるが、今までの成功体験、他社の成功事例は、もはや参考にならない。この状況を打破するには、デジタル化、技術革新の動向を常に見極めながら、自社が目指すべきところ、変革しうる産業構造の絵を描き、大胆かつスピーディーに事業を立ち上げていくこと。かつ、政府や現地企業も巻き込み、結果を引き寄せていくことが必要になる。

 もちろん、日本企業においても、東南アジアにおけるDisruptiveな変化の潮流を捉えようとしているプレイヤーは存在する。

 例えば、ソフトバンクは、ライドシェアのGrabや、インドネシア最大のマーケットプレースであるTokopediaといった東南アジアの産業構造を大きく変えうる事業に莫大(ばくだい)な投資をしている。価格比較サイトを運営するカカクコムは、自社事業をアジア4か国で展開するほか、東南アジアの金融比較サイトやファッションECに戦略的に出資。自社のノウハウを生かしつつ、現地でのオンライン市場の成長を取り込もうとしている。

 製造業においても、例えば住友化学が、EDB(シンガポール経済開発庁)の支援を受けたIoTプロジェクトの一環として、日本国内に先駆けて、シンガポールの化学プラントへのAIの導入を進めている。島津製作所や横河電機もシンガポールにイノベーションセンターを設置し、政府や学術機関と連携しながら、先端技術の事業化に取り組んでいる。

 ローランド・ベルガーでは、日本企業がグローバルで存在感を発揮していくためには、日本の強みを生かしたイノベーション(=和ノベーション)の実現が必要だと言い続けている。「和ノベーション」は、当社が提唱する日本型イノベーションのことであり、日本の「和」、対話の「話」、仲間の「輪」の意味を含む。企業や個人が持つさまざまなノウハウ、技術、知恵などの「暗黙知」をモジュール=「ありもの」として見える化する。対話を通じて、「ありもの」を部門、企業、業界を超えた仲間の輪へと広げる。このような「ありもの」の徹底的な活用により、異次元のスピードで新しい価値創出を推進するという考え方である。

 この「和ノベーション」を通じ新たな価値創造、産業革新を実践する舞台として、新興国、とりわけ東南アジアは最適な場所だと考える。東南アジアにおいてDisruptive、つまり従来の延長線上にない、破壊的な技術・産業革新が今まさに起きている中、地の利があり、技術力や資金力がある日本企業は非常に優位なポジションにいる。

 また、日本でできていないことをアジア発でいち早く試し、それを日本に逆輸入することで、日本における先進領域での事業機会も拡大することが可能になる。そのためには、日本企業も新興国ビジネスの考え方や行動様式を大きく変えていく必要がある。

 経済成長や安い労働力を背景とした従来型の新興国ビジネスから、未来構想型の新興国ビジネスへシフトしていく。先進国をモデルにした事業展開ではなく、その国、産業に合ったまったく新しい未来を描くことからスタートする。その際に、できるだけ多くのステークホルダーが「うれしい」と思う未来を描けるかが、未来構想実現への近道である。その未来構想に向かって必要な機能、事業を、スピード感を持って一気に立ち上げる。ある程度のサイズ感のある取り組みを進める。ただし、単に資金を大量投入して市場を取りに行けばいいのではなく、いかに短期間で目指すべき姿に近づけるかに知恵を使う。それらを実現するために、自前主義からは脱却する。未来構想に共感する力のある仲間をいかにつくるか。特に政府を巻き込んだ取り組みは、未来構想実現の確度を上げる。

 例えば、東南アジアで日本企業のシェアが圧倒的に高い自動車業界を事例にとれば、ぜひ日本の自動車メーカーや関連企業が、東南アジアにおける将来のあるべきモビリティ環境を描いてほしい。政府にとっても人々にとっても自動車メーカーにとってもライドシェアプレイヤーにとっても鉄道やバスといった他の交通プレイヤーにとってもメリットがある新しい次世代モビリティの世界。基本的に新興国の都市交通インフラは脆弱であり、品質も悪く、渋滞も激しい。加えて郊外部では移動手段が極めて限られる。ライドシェアプレイヤーが出てきて格段に便利になったが、さらにその先を描く必要がある。

 人々(もしくはモノ)の「移動」という観点で見たとき、それぞれの都市がそれぞれの課題を抱え、阻害しているボトルネックが多数存在している。それらを効率的かつ安価で短期間に取り除く新たなモビリティサービスを創り、人々やモノの「移動量」を増やすことができれば、間違いなくその都市・国の経済は活性化する。移動量を短期間で増やすモビリティの世界の実現は、経済成長を早めるだろう。そういったことを真剣に考え仕掛けていく企業が出てきてほしい。

 半年後、1年後の東南アジアは、また大きく変わっているだろう。未来構想を描き、一刻も早くこの市場にコミットしていくことが、日本企業が今後、東南アジアで主導権を握ることができるかどうかのカギになる。ぜひ日本企業の技術力・構想力を結集し、新興国のDisruptiveな産業発展に貢献してほしい。
(山邉圭介)