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自家培養軟骨で“不治のけが”を克服する富士フイルム「再生医療製品」

4/16(月) 10:00配信

産経新聞

 スポーツなどで大きな衝撃を膝に受けて関節の軟骨部分に欠損などが生じると自然治癒が難しいことは、長らく整形外科の世界では常識とされてきた。軟骨組織には血管がなく、傷を治す働きをする細胞・栄養を含んだ血液を運べないからだ。“不治のけが”ゆえに引退を余儀なくされるスポーツ選手も少なくなかった。

 ところが、富士フイルムグループのジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)が、再生医療という先駆的な手法を使った製品を開発。欠損した軟骨を再生するという従来の常識を覆す治療が成果を上げている。

 この再生医療製品は増殖能力を持つ自分自身の細胞を用いた自家培養軟骨「ジャック」。五百円硬貨くらいの大きさの白い円形の塊が、ビーカーの中でプルプルと揺れる様子は小さな和菓子の水まんじゅうに見える。これこそが軟骨の機能を正常にする切り札なのだ。

 ジャックは、患者の軟骨組織の正常部位から細胞の一部(0.4グラム程度)を採取し、J-TECの施設で培養、増殖して作られる。4週間ほどして膝の軟骨が失われた部分にジャックを移植すれば欠損部分が修復され、リハビリなどの後、半年~1年で通常通りの歩行が可能になる流れだ。

 同社の畠賢一郎社長は「膝の荷重部の軟骨が傷むと自然治癒しないのが常識です。それを自分の細胞を使えば拒絶反応もなく再生できる。これがジャックの利点です」と力説する。

 患者は膝の痛みなどに悩むアスリートや体を使う現場で働く人たちだ。例えば、膝のけがを負いプレーをあきらめかけていた30代のプロサッカー選手はジャックによる治療を受けて、再び運動を楽しめるようになった。若い頃にバレーボールで膝を痛めた30代の介護士も、現在は介護の現場で不自由なく力仕事をこなしているという。

 治療で改善が見込まれる潜在患者数は多く、「2000人に上る」(畠社長)とみられている。

 「自家培養軟骨移植術」と呼ばれるこの手法は、膝関節外科を専門とする越智光夫・広島大学長が確立したものだ。越智氏の指導下でJ-TECが製品開発を行い、日本初の治験を実施。平成24年に国から再生医療等製品として承認され、翌年には保険適用となった。現在、研修を受けた医師が全国で手術しており、ジャックを用いた治療実績は年間200例に上る。

 ただ、軌道に乗るまでには、さまざまな試行錯誤が繰り返されてきた。医療現場で特に神経を使うのがスケジュール管理だ。

 採取した細胞は4週間程度で規定量の培養を行うが、細胞の増殖の速さは個体差のためにまちまちで、工程管理は難しい。また移植に際しては、万が一を避けるため細胞を低温管理下での仮死状態で運搬。患者側もあらかじめ移植の手術日を決めて待つ必要があるなど、スケジュールの調整が大変だ。

 こうしたハードルを完璧に乗り越えて初めて医療として成り立つ。畠社長は「患者さんの細胞を預かり元に戻して治す。預かった洋服をきれいにして約束の日に返す街のクリーニング店のような存在なんです」と語る。その独特の表現には再生医療が決して特別なものではなく、「いずれ再生医療を当たり前の医療にしたい」との願いが込められている。

 経済産業省によると、世界の再生医療の市場規模は周辺産業まで含めると2050年に53兆円に膨れ上がる。未来の医療とされてきた再生医療は、一歩ずつ現代の医療に近づきつつある。(経済本部 柳原一哉)

 ■ジャック 富士フイルムグループのジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)が製品開発した自家培養軟骨。膝の軟骨を損傷した患者から採取した少量の軟骨をJ-TECの施設で培養、増殖させ、手術で再び欠損部に戻す。平成24年7月、整形外科領域では国内初となる再生医療等製品として、国から承認された。治療の対象は膝関節の外傷性軟骨欠損症などだ。

 ■富士フイルムホールディングス(HD) 昭和9年に「富士写真フイルム」として設立。平成18年に現在の持ち株会社に移行し、カメラ事業などを手掛ける富士フイルム、事務機器を扱う富士ゼロックス、医薬品メーカーの富山化学工業を傘下に置く。医薬品や化粧品を扱うヘルスケア事業を成長分野と位置づける。今年に入って、米事務機大手ゼロックス買収の一方、白黒フィルムの出荷終了を発表するなど構造改革を進めている。29年3月期の連結売上高は2兆3221億円、最終利益は1315億円。従業員は約7万8千人。

最終更新:4/16(月) 10:00
産経新聞