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【新聞論調比較】 放送法4条撤廃、読売が突出して反対

4/16(月) 10:01配信

ニュースソクラ

テレビの質低下させる、と反対で足並みそろえる

 放送番組の「政治的公平」などを定めた放送法4条の撤廃を柱とする放送制度改革が急浮上し、にわかに政治問題化している。

 安倍晋三首相肝いりのテーマとされ、放送とインターネット通信との垣根をなくし、新規参入や競争を促す狙いだが、政治的に偏った番組が放送されたり、フェイク(偽)ニュースが出回り、番組の質も低下するといった懸念が各方面から噴出している。新聞各紙も、日ごろの安倍政権への距離感の違いを超えて、反対論一色だ。

 この話を考える大前提として、最初に、放送法4条とはなにかを確認しておこう。 放送事業者が国内外で放送する番組の編集について定めた条文で、(1)公安及び善良な風俗を害しないこと(2)政治的に公平であること(3)報道は事実をまげないですること(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること――を求めている。

 ただ、この条文は倫理規範を示すものとの解釈が一般的で、放送界は第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」を組織して自主的に外部からの苦情などに対応。問題があれば審査し、番組に人権侵害などがあれば、是正を勧告するという自主規制が定着している。監督官庁(総務省)といえども、番組内容に権力が直接口を出すのは報道の自由に反するということだ。

 ジャーナリズムの「権力のチェック」の役割として、政権、与党の政策を厳しく吟味することが多くなる報道への、権力側の苛立ちが、時に目立つことがある。

 2014年の総選挙の際、安倍首相自身が民放の生出演番組で、政府の政策に批判的な街の声について「編集して(反対意見ばかり集めて)いる」と批判し、自民党がNHKと民放各社に「公平中立、公正」な選挙報道を求める異例の要望書を出した。

 2016年2月には高市早苗総務省が「政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波を停止できる」と公言するなど、政権に批判的な報道を牽制する動きが続いていた。

 4条撤廃論は、これまでの政権、与党のテレビ批判と一見、矛盾するようにも思えるが、放送界への不満という脈絡では通じると言える。

 政府でこの問題を議論しているのは、規制改革推進会議(議長・太田弘子政策研究大学院大学教授)の投資等ワーキンググループ(WG,座長・原英史政策工房社長、2017年9月スタート)。金融・エネルギー分野の規制改革など幅広いテーマを扱うが、放送に相当の時間を割いている。

 当初、「技術革新や新需要への機動的対応に向けた電波割当制度の改革」を掲げ、入札で電波を割り当てる「オークション制」などに主眼を置いており、放送とネットの融合という切り口で放送法4条を含む議論に火がついたのは年明けから。

 同WGでは2月7日の第14回会議で「放送と通信の融合」の専門家のレクチャーを聞き、以後、7回の会議のうち6回で、この問題でヒアリングを重ねている。太田議長は7回のうち6回出席しており、同会議として、放送事業見直しを重要課題と位置付けていることが読み取れる。

 同WGの動きは、安倍首相の発言と歩調が合っている。首相は1月22日の施政方針演説で「通信と放送が融合する中で、国民の共有財産である電波の有効利用に向けて、大胆な改革を進めてまいります」と表明。いわば、これが政治的な議論の「号砲」だった。

 31日の経済団体の会合で、「インターネットテレビは放送法の規制はかからないが、見ている人には地上波などと全く同じだ。法体系が追いついていない」と述べるなど、首相肝いりのテーマという位置づけと理解できる。

 1月の通常国会召集以降、まず、裁量労働制をめぐるデータの不適切な使用問題で紛糾し、裁量労働制を働き方改革法案から切り離さざるを得なくなった。3月に入ると、森友問題での財務省による高文書改ざん問題が噴出した。

 こうした中で、放送事業を巡る報道はほとんど見られなかったが、大手紙でまず狼煙を上げたのが読売だった。

 3月17日朝刊1面左肩3段見出しで「放送・ネット垣根撤廃 首相方針 放送の質低下懸念も」と打ち、2、3面見開きで受けの記事を大展開。「放送 信頼を失う恐れ 『公平』規定を撤廃 フェイクニュース危惧」(3面「スキャナー」欄)と、否定的に見出しを並べた。

 極めつけは2面の「首相、批判報道に不満か」との見出しの記事。首相が一部の民放局に苛立ちを募らせ、特に、「森友・加計問題」を巡る報道に強い不満を漏らしていると指摘したうえで、見直しが「(首相に批判的な放送事業者をけん制する)交渉カードになる可能性がある」との識者の声を紹介している。日ごろ、安倍政権支持の論調が目立つ読売としては異例の紙面展開といえる。

 3人の識者の声を、ほぼ1ページをつぶして載せる「論点スペシャル」では27日に、「『ネット化』国民は望まず」「本音は民放の解体か」「良質な番組減る可能性」と、批判的な声だけを集めた。

 他紙の実質的な初報は、朝日が24日朝刊1面3段見出しと3面受け、産経は24日2面4段見出し(31日にも2面のほぼ左半分)、日経が27日朝刊3面トップ(ページの約半分を使用)、毎日も、やや出遅れたが29日朝刊1面左肩3段見出し、2面トップ(ページの半分超)、6面解説と「ミニ論点」(識者2人のやや大ぶりの談話――といった具合で、中身は、いずれも批判的だ。

 その後も、放送界、政界などの反応、関係発言などを、各紙、それぞれ報じるが、ここでも読売は民放各社トップの会見を漏れなく報じ、日テレ社長(27日)、テレ朝会長(28日)、TBS社長(29日)、テレ東社長(30日)、フジ社長(31日)、NHK会長(4月6日)と、判で押したように2面の下の方で、すべて2段見出しで、放送事業見直しに反対する見解を載せている。

 こういう扱いは、新聞としての強固なスタンス、つまりこの問題では断固反対の立場を示すものだ。

 政界でも慎重な発言が相次ぎ、各紙、丁寧にそうした声を報じており、特に放送法を所管する野田聖子総務相が22日の衆院総務委員会で、「(放送法4条を)撤廃した場合には公序良俗を害するような番組や事実に基づかない報道が増加するなどの可能性が考えられる」と述べたことなどが紙面をにぎわせている。

 各紙、社説を含め、批判的な点で論調に大差はない。社説でも先陣を切った読売「番組の劣化と信頼失墜を招く」(3月25日)は、<テレビ番組の質の低下を招き、ひいては、国民の「知る権利」を阻害する懸念がある>と、のっけから大上段に疑念を呈する。

 以下、

 <放送局は、放送法1条で「公共の福祉の健全な発達を図る」ことを求められている。民放はこうした役割を担い、無料で様々な番組を提供してきた。同様の規制がなく、市場原理で動くネット事業者を同列に扱うのは無理がある。特に問題なのは、見直し案が、「公序良俗」「政治的公平性」「正確な報道」に基づく番組編集を求めている放送法4条の撤廃を含んでいることだ。規制が外れれば、放送とは無縁な、金儲けだけが目的の業者が参入し、暴力や性表現に訴える番組を粗製乱造しかねない。家庭のテレビで、子どもを含めた幅広い人々が目にする恐れがある>

 <フェイクニュースが世界的に広がるなか、放送への信頼を失墜させる改革に乗り出す意味があるのか。疑問は拭えない。米国では、放送局に政治的な公平性を求めるフェアネス・ドクトリン規制が1987年に廃止された後、偏った報道が増えた>

 など、細かく問題点を指摘している。

 毎日「透けて見える政権の思惑」(30日、https://mainichi.jp/articles/20180330/ddm/005/070/155000c)、朝日「性急、乱暴、思惑ぶくみ」(31日、https://www.asahi.com/articles/DA3S13429074.html)、東京「テレビへの政治介入だ」(4月3日、http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018040302000163.html)も基本的論調は同じ。3紙はそろって、沖縄問題の取り上げ方についてBPOから放送倫理違反や人権侵害を指摘された東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の番組「ニュース女子」を、放送法を踏みにじる悪しき例として取り上げている。

 毎日は、放送法見直しの舞台になる規制改革推進会議の委員に、「ニュース女子」の進行役を務めた東京新聞論説委員が名を連ねることを指摘し、<政府のご都合主義で放送制度改革を進めることがあってはならない>と批判した。

 朝日は<4条がなくなれば、こうした(BPOといった)仕組みも事実上機能しなくなるだろう>と指摘したうえで、<こうした構想がなぜ唐突に浮上したのか、政権の真意を疑わざるを得ない。……首相は、バラエティー番組や政治的公平性を求められないネットテレビには進んで出演し、自らを宣伝する。4条撤廃の衣の下からは、メディアを都合良く使える道具にしたいという思惑がのぞく>と、政権の狙いに厳しい言葉を連ねる。

 東京も、<フェイクニュースがテレビであふれても構わないと政府は考えているのだろうか。……つまりはこのような番組(ニュース女子)が野放しになりうるのだ>と危惧を示し、<真実のニュースを国民が知らないと、正しい意見を持てず、真の民主主義も発達しないのだ>と締めている。

 4月11日時点で、日経の社説と産経の「主張」は取り上げていないが、先に紹介したように、かなり大きな扱いで批判的に報じている。

 他方、放送法4条は放送局にとって、「両刃の剣」であり、前記の高市総務相(当時)発言のように、権力が4条を根拠に報道に介入する恐れは常にある。実際、安倍政権に批判的なニュースキャスターらの交代の陰に、政権側の圧力があったとされる。

 各紙が4条撤廃に反対する背景には、新聞が軒並み系列テレビ局を抱えていることが、もちろんある。放送とネットの垣根が崩れて「自由競争」になり、放送局の経営が不安定化することを強く懸念しているわけだ。

 時にトランプ米大統領張りのマスメディア批判を口にする安倍首相の下での放送法見直しには、<フェイクニュースが世界的に広がるなか、放送への信頼を失墜させる改革に乗り出す意味があるのか>(読売社説)、<産業政策に名を借りた新たなメディアコントロールではないか。放送に関与し、都合のよい番組を流したい政権の思惑が透けて見える>(毎日社説)といった疑問・批判が出るのは当然だろう。

 とはいえ、放送局(系列の新聞も)が、放送法に守られる形で既得権に胡坐をかけば、視聴者の信頼が揺らぎ、権力に付け入るすきを与える。それを、肝に銘じる必要がある。

長谷川 量一 (ジャーナリスト)

最終更新:4/16(月) 10:01
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