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【舛添要一の僭越ですが】 トランプ氏のシリア撤退方針が、化学兵器の使用を許す

4/16(月) 12:30配信

ニュースソクラ

シリアに平和は訪れるか

 2011年、「アラブの春」の風はシリアにも波及し、民主化を求める反政府デモが発生したが、アサド政権はそれを弾圧した。

 これに対して、反体制派も武装闘争を開始し、泥沼の内戦へと突入した。その混乱に乗じて、過激派組織「イスラム国(IS)」がシリア国内に拠点を作り、勢力を拡大していった。

 内戦の死者は約35万人と言われている。そして、国外に560万人が逃げだし、国内に身を隠した人たちも入れると、総計1200万人もの避難民が発生している。人口2200万人の、実に半分以上を占めている。古代から栄えたこの地は、7年間にも及ぶ戦火で、今や荒廃の極みにある。

 しかも、難民として国外に命懸けで逃げ出した人々が、ヨーロッパで反移民・反難民の風潮を煽ることになり、それが排外主義的ポピュリストの台頭を許すことにつながっている。西欧のみならず、ハンガリー、ポーランド、チェコでも同様な政治状況であり、それはEUの結束を危うくしている。

 このように、世界的な混乱の源となっているシリアに永続的な平和は訪れるのであろうか。中東では、シリアのみならず、パレスチナ問題など、不安定要因が山積しており、アメリカ、イギリス、フランス、ロシアなど大国の間で政治的、外交的駆け引きが行われている。それだけにシリアに安定をもたらすのは容易ではあるまい。

 ISに対しては、ロシアがアサド政権を支援して、またアメリカはクルド人軍事組織にてこ入れして、掃討作戦を展開してきた。その結果、昨年10月にISを崩壊させるのに成功した。皮肉なことに、共通の敵が存在しなくなったため、米露の対立が深まることになったのである。

 問題は、トランプ大統領である。1年前にアサド政権が化学兵器を使ったとき、トランプは59発のトマホークミサイルで報復した。

 その半年後にISがシリアから放逐されるが、なお掃討作戦が必要だとして、ティラーソン前国務長官は、米軍駐留の継続を公表した。今年の1月のことである。しかし、彼は3月中旬に更迭されてしまった。

 トランプ大統領は、3月29日にシリアから撤退する意向を側近に示し、また4月3日の記者会見でも、「アメリカは過去17年間、中東地域で7兆ドル使ったが、死と破壊以外は何ひとつ得ていない」として、早期撤収論を繰り返した。アメリカの財政負担を減らすこと、そして、サウジアラビアなど、この地域の諸国が安全保障上の役割を果たすべきだと主張した。

 シリアには約2000人の米兵が展開しているが、米軍首脳は撤退に反対であり、とりわけイランがシリアで影響力を拡大することを危惧している。

 そのような中で、アサドは首都ダマスカス近郊の東ゴータ地区の反体制派拠点を空爆し、化学兵器も使用したのである。それを許したのは、トランプ大統領の政策に一貫性がないことであり、シリアへ関心すら示さない態度である。イスラエルの首都をエルサレムに移すという熱意との落差は大きすぎる。

 要するに、彼は、中間選挙しか念頭になく、シリアのことなど気にしても票にはならないと考えているようである。それを見越したアサドは、化学兵器を使っても自分の独裁体制が崩壊させられることはないと確信して、今回の毒ガス攻撃を行ったようである。1年前がまさにそうで、トマホークミサイルによってシャイラト空軍基地が被害を受けたのみであった。

 今回も、アメリカは軍事攻撃を実施したが、それはアサド政権にとっては計算済みの話である。シリアに化学兵器を供与しているのはロシアであり、北朝鮮である。

 金正恩は、今回のアサド政権の行動を見て、体制保証が可能な限り、最大限の冒険をする決意を固めるであろう。たとえば、アメリカに到達するICBMの開発は止めても、日本や韓国を標的にする中短距離ミサイルは維持するという方針である。

 毒ガス使用でも体制が保証されるなら、そのような方針は許されると考えるのも当然である。仮に非核化が実現されても、到達可能なミサイルが残れば、日韓両国にとって脅威は残るのである。

 4月17、18日に予定されている日米首脳会談についても、シリア情勢が微妙な影響を与えることを忘れてはならない。

舛添 要一 (国際政治学者)

最終更新:4/16(月) 12:30
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